むかしむかし、新井田川の川上に、金五朗という若者が住んでいました。

金五朗は、何をやっても不器用で仕事も上手く出来ない貧乏な男でした。

しかし、気が優しくいつも笑顔の絶えないところから、金五朗は村の男どもからは慕われていましたが、女性たちには仕事もできない男だと嫌われていたのです。

そんな不器用な金五朗でも、『にどいも』だけは家の庭で作れたので、ただただ『にどいも』ばかり食べて暮らしており、村のみんなに『にどいも金五朗』と呼ばれていました。

そんなある日、こんなだらしのない金五朗を見ていた友達の勇作が…

「なんぼなんでも、仕事もしねでゴロゴロしてるなんざぁ、見でらんね。嫁っ子でももらば、真面目に稼ぐんでねぇべが…。んだども、村のめらすだじゃ~金五朗のどごさ、嫁さいぐわげねぇしな。ふんだば、川下の町さ行って嫁っ子、探してくっか?」

それから、勇作は山から白い土を運んで来て、新井田川に流した。

川の水は白く濁って、流れていった。

そして毎日、この白い土を川に流すのだった。


やがてある日、勇作は川下の町へ出掛け、ある金持ちの家へと行った。

そこには、お千代という美人で気立てが良いと評判の娘がいたのだった…

「私は、川上の村の者です。村の金持ちの家から事づかって来ました。あなた方の娘、お千代さんを是非とも、お嫁さんに欲しいとの事なんですが…」

「しかしな~、川上の村にそんな金持ちが居るなんて聞いたことがない。それどころか、みんな貧乏だと聞いているんだがなぁ~」

「いやっ、いつも川の水が白く濁っていませんか?あれは、金持ちの家に召使いが大勢いるもので、その米のとぎ汁で白くなっているんです」

「そう言われると近頃、川の水が白く濁っているな…オイ、お千代!」

「ハイ!」

「お前、川上の村へ嫁に行く気はないか?」

「えっ?でも、一度その方にお会いしてから、このお話を決めたいと思います」


早速、勇作はお千代を連れ、村へ向かった。

その頃、金五朗は川に水を汲みに行っていた。

すると、川の中から河童が出て来て、金五朗を川の中に引きずり込もうとした。

しかし金五朗は、力いっぱい河童を投げ飛ばして、頭の皿から水を掻き出した。

「どうが、堪忍してけろ~二度と悪さ、しねぇすけー」

河童が涙を流して謝ったので、人のいい金五朗は、河童を許してやった。

それから金五朗は家へ帰り、またいつものように『にどいも』を食べて寝てしまった。


「こらっ、金五朗!起ぎろ、早ぐ起ぎろ!」

「なによーせっかく寝でらのさ~」

金五朗、おめさ~嫁っ子めっけで来てやったど~」

「なにっ、わぁーすったらごど頼んだ覚えねぇでゃあ」


騒ぎに駆けつけた、近所の友達が金五朗を囃し立てた。

金五朗、おめぇ~嫁っ子もらうのがぁ~?」

「とんでもねぇ~」

「ふんだぁ~、ふんだば、わぁ~が貰ってけらぁ~」

「ちょ、ちょっと待で~!こっただ、貧乏などごでも、いいのがぁ?」

「お金持ちだと聞いたのに、約束が違うんじゃありませんか?でも、このように集まってくれた人たちを見て、金五朗さんの優しい人柄が分かりました。私、金五朗さんのお嫁になります」

その夜、村の人たちが集まって、ささやかな祝言をしてくれた。

宴会も終わり疲れきった金五朗は、お千代に床をとってもらい、すぐに寝てしまった。

そして真夜中、金五朗の枕元に、あの新井田川の河童が現れたのだった…。


金五朗さん、金五朗さん、起ぎでけんだぁ。昼間ぁほんっとに申し訳ねがったぁ。こらぁ~わぁんどの宝物の小槌なんだでゃ、この小槌をふっと何でも欲しいもんが出はってくるっちゅう小槌だ。どうか使ってけれ。んだどもぉ~嫁さんのためにも、ちゃんと稼がねばわがねんでぇ~」

「なんでぇ、夢がぁ…」

ハッと目が覚めた金五朗が、辺りを見ると枕元に、さっき河童が持って来た小槌があったのだった。


翌朝、金五朗はお千代に夕べの事を話した。

「やっぱし~この小槌は、メドツが持って来たんだべが~」

「そんなに不審に思うのなら、試しに何か出してみてはいかがですか?」

「んだなぁ~、試すにじぇにっこでも、出してみっか?」

小槌を振ると、小判が吹き出てきて、床に積もるのだった…

金五朗は、そのお金で一気に大金持ちとなり、お千代のために大きな家を建てた。

そして、河童の言いつけを守って毎日、村の友達と畑へ出て一緒に働き、村で必要な物があれば、小槌を振って出してあげた。

やがて、貧しかった川上の村は裕福になり、みんなが幸せになった。

金五朗は、新井田川の淵に『カッパ大明神』の祠を建て、村の繁栄を願い新井田川の河童を祀り、年に一度『カッパ祭り』を行なった。

ほどなくして、七つある沢から河童がやって来て、祭りに加わり村人と相撲をとったりした。

祭りの終わりには河童の長老が、隠れ里の姫屋敷からもらったという、金色の笛を吹いた。

すると空は茜色に変わり実りの秋を迎えるのだった。


金五朗は大金持ちになっても、お千代と質素な生活を営み、大好きな『にどいも』をよく食べていたという。

そして、いつの間にか金五朗は、『にどいも長者』と呼ばれるようになったそうだ…。


どんとはれ。


創作昔話 『にどいも長者』は、いかがだったでしょうか?

昔話の定番ともいうべき、「◯◯◯長者」ですが、今回は『にどいも』です。

この『にどいも』とは、ジャガイモの事で1年に2回収穫できることから『にんどいも(二度芋)』と昔は言いました。

しかし今では、『ジャガイモ』としか言いません!


『ジャガイモ』と言えば北海道ですが、北東北でも栽培は盛んで、僕の家の畑でも作っておりました。

子供の頃は、料理に使わない小さなジャガイモは、蒸したり煮たりして塩をふり食べました、おやつ代わりですね。

北海道のように、じゃがバターやイカの塩辛を乗せて食べるなんて事は、昔はしませんから初めて函館でそのように食べることを知り、あまりの美味しさに震えました(笑)


今回は、そんな『にどいも』の思い出を、昔話にしてみました。

セリフは全て、青森の南部弁です!

※文中の「メドツ」とは、方言で「河童」のことをそう呼びます。


この物語は、僕が大学生のときに書いたラジオドラマの脚本を編集したものです。

当時は、NHKの高校放送コンクール・ラジオドラマ部門で8位入賞をしました。

実際は、『にどいも』ではなく別な野菜でしたが、大会後の総評で「主人公が食べる野菜と物語の関連性が乏しい」との指摘を受け、今回は『にどいも』にしました。

セリフの南部弁は、当時の高校の後輩たちが演じたものを、そのまま文章にしています。

いかにも昔話的なリアルさを感じていただければ嬉しいですね。


監修は、ぴいなつ先生にお願いしました。

翌日には登場人物の名前が届く早業で、ぴいなつ先生の創造力には圧倒されます。

また、主人公が好きな野菜の名前が付く長者であり、その事を相談したところ「にどいものままでいい!」との指摘があり、タイトルは『にどいも長者』としました。

ぴいなつ先生、どうもありがとうございます!