箱館クリオネ文筆堂のキャラクター達、さらに踏み込みまして…

今回は、梨湖と柊二の物語となります!

キャラクター紹介から、2人はまだ結婚をしておらず恋人同士というより、パートナーという感じで文筆堂のみんなは誰も知らないのですが…

それでは、梨湖と柊二の物語をお楽しみ下さい。

箱館ストーリー「クリオネ文筆堂・梨湖と柊二の物語」

 

梨湖と柊二は、文筆堂で尾崎から松原みのりの実家である、湯の川温泉・波乃の宿泊券を渡され、直ぐに予約の電話を入れた。

柊二はともかく、地元民である梨湖は湯の川温泉には行ったことがなく、海の側に温泉施設が並び、温泉熱を利用した熱帯植物園ではニホンザルが温泉に入る姿を見ることができて、湯倉神社が観光客にも人気の場所だということぐらいしか、知らなかった。

 

予約当日、2人は急いで函館駅前からタクシーに乗り込むと、先にトラピスチヌ修道院へと向かった。

明治31年に創設された日本最初の女子修道院で、前庭や資料室を見学している。

「私がもし東京の大学に行かなかったら柊二とも会えなかったし、ここで余生を過ごすことになったのかもしれないね」

梨湖はマリア像を真剣な眼差しで見つめながら、そうつぶやいた…

その横で、同じくマリア像を見つめていた柊二は、梨湖の手を力強く握るのだった。

 

その後2人は、湯倉神社を参拝し熱帯植物園を見学して、湯の川温泉街を視察し温泉組合を訪問している。

柊二は、函館でイベント会社をやっていること、かつて『食の祭典HAKODATEEat』というグルメイベントをやったこと、そしてクリオネ文筆堂スタッフとして働いていることを伝え、仕事というよりクリオネ文筆堂スタッフとして何か自分たちが手伝えることはないか?と熱心に梨湖と一緒に話をした。

温泉組合の人たちからは、湯の川温泉の観光ポスターやパンフレット等にモデルとして梨湖に手伝ってもらえないか?と言われ、その場で2人は了承し梨湖をモデルに、ポスターやパンフレット等を柊二が作成することになった。

「柊二!少しは、みのりちゃんや女将さんであるお母様の手助けになればいいね」

「そうだね、梨湖。僕たちに出来ることがあればいくらでも協力しよう!それが、みのりちゃんの夢につながるなら、なおさらだよ」

2人は見つめ合いニッコリと微笑むと、温泉旅館・波乃へと歩き出した。

 

朝から急ぎ足で湯の川エリアを回った2人は、波乃にて松原みのりと母親で女将の松原ちなみの歓迎を受けた。

通された松の間で、梨湖と柊二は今日の出来事を語り、湯の川温泉の観光ポスターやパンフレット等にモデルとして梨湖が選ばれた事やその制作を柊二が行うことを、松原ちなみに伝えた。

こうして会話が盛り上がっているころに、仲居が松の間へとお茶を運んだ。

 

「これが、千秋庵の和フィナンシェか?一見、洋菓子だけどキチンと和菓子としての主張がある!この、あんこが絶品だよ。そしてかすかな塩味が、全体の甘さを引き立ている」

柊二が一口食べるたびにベタ褒めの感想を言うのだが、その横で一気に食べてしまった梨湖が柊二の和フィナンシェを羨ましそうに見つめている。

梨湖ねぇさん、良かったらどうぞ!」

見かねた、松原みのりが和フィナンシェを差し出すと、梨湖が満面の笑顔で受け取った。

「コレよ、これ!和洋折衷、これこそ函館そのものを表していると思うの。こういう感覚が私たちには必要なのよ、分かった?柊二」

最後に「ウマい!」と大きな声で頷く梨湖に、松原みのりはクスクスと笑っている。

 

「梨湖ねぇさん、尾崎先生と同じことを言っている。でも、最後は麻琴ねぇさんみたいですよ」

松原みのりが、ついに吹き出して笑うので、母親の松原ちなみが「みのり、失礼よ!」と、たしなめた。

「梨湖、みのりちゃんの言う通り、これじゃ麻琴ねぇさんや冬果ちゃんみたいだ!」

そう言うと、柊二もクックックッと笑いをこらえている。

「ごめんなさい~!だって、ホント美味しんだもの。柊二、明日帰ったら千秋庵に行こうね」

「梨湖、明日はみのりちゃんを連れて、六花亭に行くんだろ?」

「柊二、別腹よ別腹!ねぇ~みのりちゃん」

「フフフッ、今度は冬果ちゃんだ!」

屈託なく笑う娘を、母親の松原ちなみが楽しそうに嬉しそうに見ているのを、柊二は見逃さなかった。

 

「みのり、ここを片付けて新しいお茶をお出ししなさい!」

突然、厳しい言葉が出ると「ハイ!」と姿勢を正し、松原みのりが松の間を出ていく。

松原ちなみは、梨湖柊二に向かい深々と頭を下げて感謝の言葉を伝えた。

「みのりが、娘がこんなにも楽しそうに笑う姿を見たのは初めてなんです!尾崎先生からお聞きになっておられると思いますが、父親が事故で亡くなってからというもの、みのりは私だけでなく従業員の皆さんにも笑顔を見せることがなくなりました。いえ、ときおり微笑んだりはしますが、先程のように大きな口を開けて笑う姿を見たのは、ずいぶんと久しぶりなんです。私は、夫を事故で亡くしてからすいぶんと娘に厳しく当たっていたと思います。たまに仲居さんから注意された事もありました。それでもあの娘は、仲居さんに、《私が悪いのだから、女将さんにそんな事を言わないで!》と言っていました。私は、その時に《女将さんに》と娘が言ったこと、お母さんにと言われなかった事がショックでした。しかし、みのりはその時から私の後を継ぎ女将になる覚悟をしていたのだと思います。小さい体で、口を真一文字に結び悲しみも寂しさもずっと我慢してきたのです。私は、それが分かっていてもどうすることも出来ずにいました。ある時、《お母さん!私ね、今日とても素敵な出会いをしたの。元町にあるクリオネ文筆堂というところで、素晴らしい人たちに出会ったの。こんな経験きっともう出来ないかもしれない?だから、これからはあまりお手伝いできないときが出てくるけど、ごめんなさい。私、これからたくさん函館のことを勉強して早く一人前の大人になるから!》そう言う娘の顔は輝いていました。これも野本直美様や、文筆堂の皆さんのおかげなんです!本当に皆さんには感謝のしようがありません」

そう言うと、松原ちなみは深々と頭を下げ続けるのだった…

 

柊二は、誰も知らない山深い小さな澄んだ湖を見ているような感覚を感じていた。

シーンと静まり返った松の間では、女将であり母親の松原ちなみの声が、波紋のように響き渡り、その澄んだ湖のような感覚は娘を想う眼差しだったのだと気がついた。

梨湖は、大きな瞳に涙をためながら、松原ちなみにこれまでの自分の事を話した。

函館に生まれながらも函館を嫌い、逃げるように東京に飛び出して柊二と出会ったこと、嫌いだと思っていた故郷・函館を自分は愛していたこと、それを気づかせてくれたのが柊二で、これまでの罪滅ぼしにと函館のために何かをしたいと、もがき苦しんでいたこと、そこで野本直美のブログを知り文筆堂に行き松原みのりと出会ったことを話した。

 

松の間を隔てた廊下では新しいお茶を持って来た、松原みのりと若い仲居が黙ってことのやり取りを聞いていた。

漏れ聞こえる声は意外と大きく、松の間では3人が熱く語り合っていることを伺えるように、時より大きな声がしていた。

じっと松の間を見つめる松原みのりの横顔を、若い仲居は涙を流しながら見つめていた。

これまで、時には自分の妹のように接してきた女将の娘だが、真剣な横顔の中に将来の女将としての心意気が感じられ、若い仲居の女性はそっとその場を離れると仲居頭の元へと向かった。

 

自家源泉の自慢の温泉を楽しんだ梨湖と柊二は、松の間での豪華な会席料理を楽しみ、しみじみと2人で話をしていた。

「柊二、覚えている?初めて2人で文筆堂の中に入った時に、みのりちゃんが一人で頑張っていたよね?皆んなが、野本直美さんと尾崎先生が岩手へ帰ると落ち込んでいる中、みのりちゃんだけが2人を函館に引き止める!と言っていた。感動したな、こんなにも若い子が熱い心を持ち函館の未来を心配している。私はどうして東京で4年間も無駄な時間を過ごしたのだろう?と思っていたけど、これもそれも柊二と出会うためであり函館の良さを思い知るためにも一度離れなきゃならなかったのかしれない…」

「梨湖、そうだね。あの時のことはいつまでも忘れないだろうな!僕らが文筆堂のメンバーになれた記念すべき日でもあるけど、あの時のみのりちゃんは他の人と違って、ホント輝いていた。野本直美の後継者となるのは梨湖だと思っていたけど、梨湖も僕もまだまだ、みのりちゃんには叶わないよな。まったく高校生の女の子になんで梨湖が負けるんだよ?と思ったけど、お母さんの話を聞いてよく分かったね。僕らには、直美ちゃんやみのりちゃんのような挫折というか苦しみというか、失意のどん底から這い上がるような経験が無いからな、やっぱりそういう経験をした人には何をしても叶わないし、横に並ぶことは出来ないよ。でも、僕らは変に意地を張らずに捨て石になればいいんだ!そうだろ、僕らの背を踏んでみのりちゃんが飛び出していければ、それでいいじゃないか?」

梨湖と柊二は、その後いつまでも強く抱き合っていた。

 

翌朝、朝食を食べた2人は身支度をして、女将の松原ちなみと波乃の従業員に向かって深々と頭を下げて、お礼を言った。

柊二が、湯の川温泉のポスターやパンフレットに波乃の松の間にて梨湖をモデルにして写真撮影を行う事を告げると大歓声が起こり、若い男性従業員からは梨湖のサインが欲しいと声が上がり、仲居頭から注意される場面があった。

梨湖は、柊二とは結婚をしていないが、近い内に湯倉神社にて神前式をして、文筆堂の皆んなと家族とで披露宴は波乃で行いたいと申し出があり、女将である松原ちなみが申し出を受けると大きな拍手が2人を包んだ。

これは昨夜、梨湖と柊二が決めたことだった。

 

その後、梨湖と柊二は、松原みのりを連れ立って、六花亭漁火通店を訪れている。

海が見えるカフェコーナーで3人はゆっくりと語らい、そして松原みのりと別れた。

梨湖は柊二に向かって、「このまま黙って付いて来て!」と話し、タクシーで函館駅まで行くと、そこから市電に乗り十字街電停で降りた。

十字街の一角、電車通りから銀座通りへと向かうところに古いアーケードがあり、その中の今はやっていない洋品店の扉を開け、「おばあちゃん、いる?」と大きな声を出して梨湖が入って行くので慌てて柊二がその後を追うように、オズオズと足を運ぶ。

奥から出てきた老齢の女性は、「梨湖ちゃん、よぐ来たね!」と梨湖の手をさすりながら喜んでいたが、隣に居る柊二を見て、「なして~?こっただどこさ、わやだべさ」と驚いている。

「なんもなんも!おばあちゃん、私この人と結婚するから!名前は柊二ね。ん、柊二って名前なんだっけ?上の名前」

くるりと後ろを向いた梨湖は、首を傾げている。

「はじめまして、秋元柊二です!」

柊二は、いきなり言われてビックリしながらも、そう答えると梨湖の上の名前って何だっけ?と、2人はこれまで梨湖と柊二としかお互いに呼んでいないことに気がついたのだった。

 

「このお店は、函館で初めて洋服を扱った洋品店で100年以上の歴史があるんだよ。当時はハイカラと呼ばれたんだよね、おばあちゃん?函館の人は、洋食や洋服をハイカラと呼んで楽しんだんだって。今では当たり前の洋食も洋服も元町からこの十字街銀座に広がったんだよ。そして私の実家がここ、今は両親が別なところに住んでいるけどね」

屈託なく笑顔で話しをする梨湖に、柊二は昭和初期に華やかな街並みをハイカラな衣装を着て歩く函館の若い女性と梨湖がオーバーラップして見えた。

函館で初めて洋服を扱った洋品店だった梨湖の実家は、函館で一番のいや東京以北の東日本や北海道で一番のオシャレな店であり女性の憧れだった。

かつての栄華は消え去った今でも、この令和の時代にこうして店が実在し当時の面影がいたるところに残っている。

これこそ、梨湖の輝きの原点であり洗練されたセンスと多くの人を引き付ける魅力は、作られたものではなく、函館の街が梨湖に与えたものだったのだ。

柊二は、梨湖の隠された秘密を垣間見たような気持ちになりながらも、観光面ではない函館の歴史を知り、改めて函館という街の素晴らしさを実感し体の震えが止まらないような感動を覚えた。

 

梨湖祖母は、柊二の手を握り「梨湖をよろしくお願いいたします!」と何度も頭を下げた。

「この娘はね、函館一!いやいや北海道で一番めんこいの。ちょっと、きかないけど。あんたのことなまら好きなんだわ」

祖母が言う言葉に、梨湖が素早く反応する。

「一緒にいると、なまらあずましいわ」

と笑顔で、答えた。

そして、その日の内に2人は梨湖の両親と会い、梨湖との結婚を承諾してもらった。

 

柊二、ごめんね!バタバタして。いきなりだったからビックリしたっしょ」

「梨湖、急だったけど、でも嬉しかった!お祖母さんもご両親も、みんな優しくて。もし結婚を反対されたらどうしようかと焦ったよ」

「だって、みのりちゃんを見ているからね!いつまでも、だはんこいてたら怒られるべさ。柊二、今日はお祝いに函館ワインで乾杯するっしょ!なまらウマいザンギの店、知ってるのさ」

梨湖、今めちゃくちゃ訛ってるよ」

「郷に入れば郷に従え!だべさ、柊二。北海道弁を勉強しなきゃ、だね」

「そうだ、梨湖の名前をちゃんと教えてよ!」

「三井梨湖だよ!そういえば、私たち柊二と梨湖としかお互いに言ってなかったね。文筆堂の皆んなにも教えないと…」

 

数日後、梨湖と柊二は文筆堂で結婚報告をし、湯倉神社にて結婚神前式を行い旅館・波乃にて家族や文筆堂の仲間と一緒に披露宴を行った。

END

 

・「天使の聖母トラピスチヌ修道院」

 日本初の女子修道院として1898(明治31)年に創立。

現在の聖堂は1927年に再建。煉瓦の外壁、半円アーチの窓などゴシックとロマネスクの混在するデザインが印象的。

前庭のほか、売店に併設する資料室を見学でき、ここでしか買えない手作りのマダレナケーキやクッキーは、修道院を訪れた際の土産物として人気!

(JR函館駅から函館空港行きシャトルバスで約40)

 

・「函館市熱帯植物園」

北海道ではなかなかお目にかかれない「アイスクリームの木」「パンの木」など、ユニークなネーミングの木を含む約300種・3,000本の植物が自家源泉の温泉熱を利用して栽培されている。
サル山をはじめ、足湯、幼児遊具、バッテリーカー、水の広場などがあり、函館市内や近郊から家族連れが訪れるスポットで、12月から5月の連休までは、専用の温泉に浸かるニホンザルの微笑ましい姿が人気を集めている。

(市電湯の川行き、湯の川温泉下車徒歩約10)

 

・「湯の川温泉」

北海道三大温泉郷のひとつに数えられる湯の川温泉は、松前藩の藩主の難病を治癒したことでも有名な古湯。

函館空港や函館市街地からも近く、函館観光の拠点としても人気!

温泉街には北海道の幸を堪能できる旅館やホテルが多数あり、温泉に浸かりながら一望できる津軽海峡の風景も風情たっぷり。

特に612月限定で見られるイカ釣り船の漁火は見もので、温泉街の一角にある無料の足湯は市民や観光客が集う人気スポット!

 (市電湯の川行き、電停湯の川温泉下車)

 

・「六花亭 漁火通店」

2021年末、函館の大森浜沿いにオープンした六花亭の直営店!

1階はお菓子の販売、2階は喫茶室になっていて、2階の喫茶室では、1階で選んだお菓子のほか、パフェやパンケーキなど喫茶室にしかないメニューが食べることができる。

お菓子のほかにもピザやカレーなど食事のメニューも豊富で、注目は開放的な景色!

津軽海峡や函館山、湯の川が一望できる。

(市電深堀町電停、市電函館アリーナ電停から徒歩24)

(バスは函館駅前 ~ 啄木小公園前下車後 徒歩 約12)

 

・「十字街銀座」

開港直前は1万人足らずだった函館の人口は、昭和初期には20万人を超え東京以北最大の人口を誇り、大正から昭和期にかけて本格的な百貨店も登場し、函館はモダン都市と言われ、その中心は十字街周辺で活気に満ち溢れ、大通りが整備されると誰かれともなく「これは函館の銀座街だ!」との声が上がり、大小約100店ものカフェバーが軒を連なったが、昭和9年の函館大火により栄華を極めた銀座街は灰燼に帰すのだった。

「行こか大門、戻ろか銀座」と歌にも歌われた銀座通りも、火事の後は街の牽引役だったカフェが姿を消し銀座街の灯りは急速にしぼんでしまう。

今では、ラッキーピエロ十字街銀座店からベイエリア方向へと、当時の面影がわずかに残っており、当時の名前を付けたラッピは観光客より地元のお客さんで賑わっている。

 (市電十字街電停下車徒歩5)

 

今回の箱館ストーリー「クリオネ文筆堂・梨湖と柊二の物語」は、いかがだったでしょうか?

梨湖と柊二というキャラクターは、私が東日本大震災やコロナ禍を経て13年ぶりに函館を訪れた時に生まれた物語からで、名前はぴいなつちゃんが考えてくれました。

その後、美蘭さんの朗読により命を吹き込まれた2人は、函館を舞台に縦横無尽に動き回るのです!

特に、美蘭さんが演じる梨湖が「柊二、柊二!」と名前を呼ぶシーンでは、男性ファンなら、「柊二」を自分に置き換えて美蘭さんの美声で呼ばれているような感じがしてニンマリとほくそ笑むのではないでしょうか()

これまで、「梨湖と柊二」としか名前がなかった2人ですが、名付け親のぴいなつちゃんによりフルネームでの初登場となりました。

湯の川温泉・波乃から続く、今回の物語も梨湖と柊二は幸せな決断をしました。

さて、次は誰がどんな物語を見せてくれるのか?

どうぞお楽しみに!