今回は創作ファンタジー「童話」です

原作は、私クリオネの「ウインター・ワンダー・ランド」というもので、クリスマスを祝う動物たちの物語を、ぴいなつ先生に名前やセリフなどを監修していただき、新しい作品として作り直しました。


イーハトーヴを舞台に春を祝う動物たちの物語、お楽しみ下さい!


創作童話『Spring~ザ・シーズン・フォー・ラブ~

 

第一章   【手紙】

「ユリカ、ハルカ、2人にお手紙が届いているよ!」

「えっ、誰から?」

「私たちに、お手紙?」

「うん、ユリカとハルカにって書いてあるよ…」

「なんだろう?」

「お姉ちゃん!早く開けてみようよ?」

 

ユリカちゃん、ハルカちゃん、こんにちは!

突然のお手紙に驚かれたでしょう?

このお手紙は、イーハトーヴの森から出しています。

今は、コロナウイルスでお家に居ると思うけど、2人にプレゼントがあるんだ。

一緒に白い封筒が入っているよね?

その中に、2人への招待状が入っています。

それは、イーハトーヴの森への招待状なんだよ!

イーハトーヴの森では、まだ雪が残っていてね…

雪解けの春を待つ動物たちが、春を祝うお祭りをするんだ。

そこで、今回は初めて人間の女の子をゲストとして招待したい!と決まってね…

せっかくだから、ユリカちゃんとハルカちゃんを招待します。

ユリカちゃんは、いつもお母さんの手伝いをしっかりやり、自然を大切にする優しい女の子だ。

ハルカちゃんは、お姉さんやお母さんを想い、動物を大事にする心の綺麗な女の子だ。

そして、ユリカちゃんとハルカちゃんはイーハトーヴの森に招待するにふさわしいゲストとして認められたのだよ。

2人がこのお手紙を読んだら、お母さんにも見せてほしい。

この手紙が届いた3日後の新月の夜に白い扉がお家の前に現れるから、その扉を2人で開けてほしい!

すると、イーハトーヴの森へと繋がる道があるから、その道を2人で歩いて来てくれ。

お母さんは一緒には行けないけど、必ずハルカちゃんとユリカちゃん2人で来てほしい!

決して怖くないから、信じて。

では、待っているよ。

 

「お母さん、これ見て!」

「お姉ちゃん、白い封筒があるよ」

「なに、どうしたの?」

「お母さん、早く読んで!」

「わぁ~、すごいね!イーハトーヴの森への招待状だって」

「行っていいの?」

「行っておいで~!せっかく、イーハトーヴの森から招待状が送られてきたんだから…」

「でも、お母さんは行かないんでしょ?」

「お姉ちゃんが一緒だから大丈夫。それに、2人で来るように!って、お手紙には書いてあるんでしょう?」

「お母さん、どうすればいいの?」

「そうだねぇ、お手紙には3日後の新月の夜って書いてあるから、今から急いでいろいろと準備しよっか?」

「何着ていけばいいかな?」

「イーハトーヴの森はまだ冬みたいだから、冬の格好をしていこうか」

「何かおみやげとか持っていったほうがいいかな?」

「そうだね…。ハルカと一緒にお菓子でも作る?お母さんも手伝うから3人で作ろう!ハルカ、どんなのがいいか考えて!」


第二章 【白い扉】

こうして、ユリカちゃんとハルカちゃんは、お母さんと一緒にいろいろと準備をするのでした。

 
やがて、3日後の新月の夜に、家の前に白い扉が出現したのです。

2人は、ギュッと抱きつき「お母さん、行ってくるね!」と言いました。

そして、ユリカちゃんとハルカちゃんは、お母さんに背中を押され、扉を開けたのです…

ユリカちゃんとハルカちゃんは、元気に手を振りながら扉の向こうへと消えていきました。

そこには、雪に覆われた森へと続く道が真っ直ぐに伸びています。

道の先には、一匹の鹿が2人を迎えにきており、何やら楽しげな音楽も聞こえてきて、2人は自然と急ぎ足になりました。

 

「お姉ちゃん、寒くないね」

「ぜんぜん寒くない。ハルカ急ごう」

「うん!」

ユリカちゃんとハルカちゃんは、途中から駆け出していました…


第三章【イーハトーヴの森】

きんきんと光るイーハトーヴの森には、たくさんの動物たちが住んでいました。

いくつもの美しい季節を重ね、なだらかな山腹に広がる木々がざわめき、木漏れ日の奥に星がきらめく音が聞こえます。

 

イーハトーヴの森では、今まさに新しい季節を迎えようとしていました。

動物たちは急いで家に戻り、その夜は誰もが早く寝て明日に備えるのです。

夜になると、水のように冷たい透き通る風が空から地上へと通り抜け、翌朝にはさらさらと眩しい雪が輝いていました。

この、水のように冷たい透き通る風がイーハトーヴの森へと春の訪れを告げるのです。

 

春の足跡が聞こえた朝は、イーハトーヴの森は銀色に光り輝く世界となりました。

山の麓の、この森に訪れる待ちに待っていた、楽しい季節の到来です。

クリスタルの輝きが連なり、真っ白な雪が森を包み、枝垂れの木に雪の白い花が咲く、夢にあふれた楽しいウインターホリデー!の始まりです。

動物たちは、やわらかい光の中で、心ゆくまで伸びをして、歌ったり走ったり跳ね上がったりして、喜びました。

 

「きっと何か 素敵なことがみんなを待っている♪」

リスの兄弟が、どんぐりで作ったリースを飾りながら歌います。

「さぁ~みんなで 飾りつけよう!華やかに♪」

鹿の親子が、歌いながら赤い木の実をたくさん持って来ました。

「楽しいね ゆかいだね♪」

木の上で、青い鳥も歌いだしました。

 

心に残る思い出をみんなで作ろうと、動物たちは全員で力を合わせ、森を華やかに飾りつけ始めます。

みんなが幸せあふれるように、年に一度の大切な日を共に喜び分かち合うのでした。

それは子供も大人も待っている、1年で1番楽しい不思議な夢に満ちた魔法の世界。

そして雪の妖精たちが魔法をかけると、真っ白な雪が空に舞い上がりました。

雪の野原では、雪だるまがダンスを踊りはじめます。

イーハトーヴの森は、いまウインター・ワンダー・ランドになりました。

 

第四章【ウインター・ワンダー・ランド】

やがて、鹿やリス、熊に狐の子供たちが、鳥たちに導かれるように人間の女の子2人を連れて来ました。

いつもは動物しか通れない、秘密のトンネルを通りやって来たのです。

動物たちは、色とりどりの飾りつけをしている最中でしたが、みんなが手を止めて人間の女の子を見つめていました。

 

イーハトーヴの森に招待された、人間の2人の可愛い女の子は小学生の姉妹です。

大きな熊が出迎えると、2人の女の子はビックリして足がすくみます。

それでも、2人はキチンと挨拶をしました。

「こんにちは、ユリカです」

「こんにちは、ハルカです」

「今日は、お招きありがとうございました」

2人の女の子は2人で声を合わせて唄うように挨拶をし、ペコリとお辞儀をしました。

大きな熊は、大きい声で「いらっしゃい!」と声を掛けると、2人の女の子はまたビックリしてモジモジとしてしまいます。

でも、お姉さんであるユリカちゃんが一歩前に出て、「これは、皆さんへのプレゼントです!」と大きな声で言いました。

大きな熊は、「ありがとう!何かな?」とまたまた、大きい声で言うので動物たちが、ゾロゾロと集まって来ました。

「これは、ガトーショコラです!ハルカが作りました」

「お母さんに手伝ってもらいました」とハルカちゃんがすかさず言います。

大きな熊は、「これは大人たちがいただこう」とみんなに見せるのでした。

「これは、動物の型のクッキーです。お姉ちゃんが一生懸命に作りました」

「私は、型を取っただけです()焼いたのは、お母さんと妹です」

と言うとユリカちゃんがペロっと下を出して笑います。

「フフッ、子どもたちが喜ぶわね」と鹿のお母さんが言いました。

遠くから見守っていた動物の子どもたちにクッキーを見せるとワラワラと近づいて来て歓声を上げました

 

鹿のお母さんが、「ユリカちゃんとハルカちゃんのお母さんのお名前は何というのかしら?」と、とても綺麗な声で尋ねると…

ユリカちゃんとハルカちゃんは、「千笑(ちえみ)です」とまた声を合わせて唄うように言いました。

「いつも、ニコニコしていて、みんなから“えみちゃん”と呼ばれています」

ユリカちゃんが、胸を張って言いました。

「お母さんは、とても優しい人です」

ハルカちゃんが、目を潤ませて言いました。

 

すると、一匹のクマの子供がおもむろに、ユリカちゃんとハルカちゃんのコートのポケットに小さな手を入れました。

ポケットの中は、キラキラ光るどんぐりや見たことがない木の実でした。

そして次々と動物の子どもたちがやって来ては、2人のコートのポケットに木の実を入れるのです…

 

その木の実は、動物たちが冬を越すための大切な食料でした。

驚いたユリカちゃんは、鹿のお母さんを見つめると、鹿のお母さんはとても優しい笑顔で、「子どもたちの気持ちをどうか受け取ってほしい」と言いました。

ユリカちゃんは、目に大粒の涙を浮かべて「ありがとう!」と大きな声で動物の子どもたちに言いました。

そして、ハルカちゃんの耳元でささやくように、木の実の意味と鹿のお母さんの言葉を伝えると、ハルカちゃんはピューっと涙を飛ばしながら、何度も「ありがとう!」と頭を下げたのです。

 

大きな熊は、2人の頭をヨシヨシと撫でると、子どもたちがやって来て、ふたりの手を取り、祭りの中心へと連れて行きました。

すると、動物たちが大きな拍手で2人を歓迎し、「ようこそ!」「ありがとう!」「お母さんによろしく!」と、あちこちから声が上がり、動物の子供たちがやって来て、2人と手をつなぎ、「こっち、こっち」と案内するのでした。

 

そこには、とても大きな飾りつけをしたツリーがあり、ユリカちゃんとハルカちゃんは目を丸くしてツリーを見上げました。

「大きい!こんな大きくて綺麗なクリスマスツリーは初めて…」

ユリカちゃんが、ツリーを見てため息をもらします。

「すごくキレイ、輝いている」

ハルカちゃんが、目を大きくしてツリーを見つめています。

 

そこへ、トナカイがやって来て、2人に語り掛けました。

「イーハトーヴでは、春の訪れを祝う意味でこんな風にツリーを飾るんだよ。ユリカちゃんやハルカちゃんがクリスマスのお祝いにツリーを飾るのと同じだね。さぁ~ユリカちゃん、ハルカちゃん、このツリーから好きな箱を選びなさい。その箱には、2人の夢が叶う魔法が仕掛けてあるから、これはイーハトーヴのみんなからのプレゼントなんだ」

ユリカちゃんとハルカちゃんは、それぞれ好きな色と形の箱を選び、ギュッと抱きしめました。

ユリカちゃんとハルカちゃんは、なんどもなんども「ありがとう!」とお礼を言い、ペコリと頭を下げるのでした。

 

それを見ていた大きな熊が、パンパンパンと手を打ち鳴らしました。

すると、音楽が流れだし…

陽気な熊たちが得意のジャズのメロディーに合わせて歌いだしました。

みんなが笑顔で大きな輪を作り、歌にあわせて手拍子足拍子をしています。

「雪が降ったら 手を叩きリズムよく踊ろう!さぁ~みんなで歌って騒ぐのさ。のんびり寝るのは 夏だけでいい。雪と遊んだら みんなが笑顔になる。眠るなんてもったいない!みんな 踊ろう。さぁ~雪遊びだ♪」

ユリカちゃんとハルカちゃんは、動物の子どもたちと一緒に雪を掛け合います。

 

第五章【スプリング・カーニバル】

陽気なジャズのメロディーが終ると、ウインター・ワンダー・ランドの冬の世界から、春の訪れを祝うスプリング・カーニバルが始まります。

いろんな動物の子供たちが、ユリカちゃんとハルカちゃんを囲むように輪になり、大人たちは子供たちを囲むように大きな輪を作りました。

花咲く丘から色とりどりの鳥たちが舞い飛び、動物の子供たちが大声で歌い始めました。

「ボクらも元気に祝おう ほら胸いっぱい深呼吸して みんなで大きく。太陽のパワーを両手に感じて みんなで空へジャンプ・ジャンプ・ジャンプ!喜びあふれ 笑顔輝く。山の向こうから吹く風と 白い雪のさざなみが春を告げる。やさしい そよ風がみんなを誘い出す。あたたかな陽だまりに鳥は歌い 花の香りがあふれる。心ときめく 幸せな季節 ほら始まるよ。 It’s spring チョウは花をめぐり 春のあいさつをする。 It’s spring 空は青く澄んで すべてが眩しい。 It’s spring!~♪」

やがて、西の空が一面に明るいオレンジ色に染まる頃、みんなが心をひとつにして、今日のこの日を祝いました。

「世界中の誰もが平和で幸せに仲良く暮らせますように…」

この願いが世界中に届くように、みんなの幸せを祈りながら、大きな声で「ハレルヤ!」と空に向かって声を合わせました。

 

「響け、空高く!願い、歌おう!」

この森の長老である、ふくろうが声高く叫びます。

「心を開いて届けよう愛を!世界の全てが温かな夢で染まるように。ひとりひとりの心に夢を届けよう。さぁ~みんなで声を合わせて楽しく歌おう。祝おうよ!喜びのこの時を。新しい仲間たち いつもの友達も 祝おう!幸せの この時を♪」

みんなが夕焼けの空に向かって、祈り歌うのでした。

 

何もかもが幸せに輝きだすイーハトーヴの森で、ユリカちゃんとハルカちゃんは動物たちと新しい季節のお祝いをしました。

「幸せに包まれたこのひとときが、どうぞみなさんへと届きますように…」

ユリカちゃんとハルカちゃんは、手を合わせ、そう願ったのでした。

 

第六章【エピローグ】

「お母さん、ただいま!」

「おかえり、どうだった?」

「もう、すっごい楽しかったよ!」

「あのね、大きな熊がね…」

2人、一緒に話さないで、ゆっくり話は聞くから…」

やがて、ユリカちゃんとハルカちゃんは、お母さんを真ん中に川の字になりながら、夜が明けるまで話をしました。

 

夢のような時間を過ごしたユリカちゃんとハルカちゃんでしたが…

疲れて、いつの間にか寝てしまいました。

「イーハトーヴの森での時間は、現実の世界とは異なり止まったままなんだよ」

2人の寝顔に、お母さんは優しく語りかけました。

そして、テーブルの上には動物たちから貰ったプレゼントや子どもたちがくれた木の実が置いてあります。

2人の幸せに満ちた寝顔はとても素敵に輝いていて、それを見ながら、お母さんは「2人とも良かったね」と、そっと2人の頭を撫でるのでした。

 

イーハトーヴの森で動物たちから貰ったプレゼントは、2人の夢を叶える魔法の箱でした。

やがて2人は、自分の夢を叶えることよりも、世界中の子供たちが微笑み仲良く暮らせる世の中になるようにと、魔法の箱を抱きしめて願い、そして祈りました。

 

2人の夢は、きっと叶うことでしょう!

そして、この物語を読んだ皆さんの夢も叶うでしょう…

だって、ユリカちゃんとハルカちゃんと同じ時間をイーハトーヴの森で過ごしたのですから。

  

[END]


創作童話「Spring~ザ・シーズン・フォー・ラブ~」
お楽しみいただけましたか?


現実の世界では、冬になると冬眠に入る動物もいますが…

このイーハトーヴの森では、ちょっと違うのです。

普段なら、観光シーズンにどっと押し寄せる人間たちですが、シーズンオフとなる冬は

森の中はひっそりと静まり返り動物たちの世界となります。

もし、雪で覆われた森の中をこっそり覗くことが出来たら?

動物たちはこんな感じで騒いでいるかもしれませんね。


ロシアによるウクライナ侵攻で、たくさんの子供が犠牲になっています!

世界中の子供たち、誰もが微笑み仲良く暮らしていける平和な未来が早くやって来ることを

願いながら、この物語を書いてみました。