冬の函館を、僕は一人で旅をしていた。

雪に埋もれた函館は、太陽の光を浴びキラキラと輝いている。


JR函館駅前から、市電に乗り「青柳町」へ…

ここは石川啄木が、生涯で一番幸せに暮らした町だ。


《函館の 青柳町こそ かなしけれ 友の恋歌 矢ぐるまの花》

この句には、啄木の想いが込められているのだろう。


僕は、啄木の足跡をめぐり歩きながら、再び市電へ乗り込んだ。


気がつくと…

僕の斜め前のシートに、熱心に本を読んでいる女性が座っていた。

「何を読んでいるのだろう?どんな本だろう?」


電車が動き出す時、彼女が読む本の表紙が見えた。

その本は、僕のポケットにある石川啄木の「一握の砂」だった。


「彼女も一人旅で、啄木の足跡をめぐり歩いていたのだろうか?」


彼女が下車する時に、僕も一緒に降りて彼女に声を掛けてみよう。

旅は、まだ始まったばかりなのだから…。