今回の函館ストーリーは…

函館出身で東京の大学に通うツンデレ娘の梨湖(りこ)と、東京生まれ東京育ちのサラリーマンで優柔不断な柊二(しゅうじ)の物語、函館ストーリー「ため息をついた、マーメイド」の続編となります。

この2人ですが、いろいろと進展があったようで、どうぞお楽しみ下さい。

函館ストーリー「彼女のこと、そして!」


東京の大学で経済学を専攻していた梨湖(りこ)は大学を卒業した後、ふるさとの函館へ帰ることにした。

モデルの仕事も順調で人気もあり、梨湖は誰もがこのまま東京でさらに活躍するだろうと思っていた。

しかし、本人は冷めていて「東京に居るのは大学生活が終わるまで」と、強い口調で答えていた。

 

「わたし、子供の頃は東京への憧れが強い女の子だったの。アイドルになりたいとか、そういうのではなくて、都会での暮らしとかセレブとかに夢見ていたのかも…」

梨湖が、珍しく自分の事を語りだした。

いつもは自分のこと、家族のこと、ふるさと函館のことなど、ほとんど口にする事がなかったが、大学卒業を目前として恋人である柊二(しゅうじ)に重い口を開いた。

 

「子供の頃は、生まれた街が嫌いだったな。小さくて何もなくていかにも田舎町という感じが好きじゃなかった。函館を出て暮らせるなら東京の大学なんてどこでも良かったし、とくに社会に出て何をやるかなんて考えてもいなかった。東京に居るだけで毎日が楽しくて、輝いている自分に酔っていたのかも?もちろん柊二と会えたのが一番なんだけど、でも離れてみて函館の良さに気がついた。こう見えてわたし、毎日が苦痛でストレスだった。ホームシックとかじゃなくて、逆に何であんなに函館が嫌だったのだろうって。柊二にも嫌みを言ったよね、ごめん。でも、柊二が函館のことを調べて函館の街を好きになってくれたのが嬉しくて、わたしの中で函館への想いがより大きくなったの」

 

梨湖は、そう言うと僕に向かって…

「ごめんなさい、わたし函館に帰ります。だから、別れてくだい。一方的で勝手だけど、わたしはもう東京には住めないから。ありがとう、柊二と一緒に過ごした時間は楽しかったし、東京で暮らしていけたのも柊二のおかげ。でも、わたしは函館でやりたいことがある!何も出来ないかもしれないけど、少しでも函館のために仕事がしたい」

梨湖は、僕の目を真っ直ぐに見て、力強くそう答えた。

 

東京で生まれ東京で育った僕には、ふるさとがない。

梨湖は、ふるさとへ帰るという。

以前だったら、ふるさとへ帰るという感覚が分からず理解しようとも思わなかっただろう。

しかし、梨湖のふるさとである函館は、知れば知るほど素敵な街だった…。

 

「和洋折衷、この言葉が似合うのは函館しかありません。実際には、街を歩けばいたるところに和洋折衷の歴史的建造物を見ることができます。これこそ函館のイメージであり、魅力なんです。今回の食の祭典のテーマは和洋折衷。函館の街を大きな一つの皿に見立てて、和洋折衷の食事を楽しんでもらう。函館の街がバイキング料理みたいなものなのです!和食・洋食・デザート・ドリンクなど、函館を代表するソフルフードから、渡島半島の豊富な食材を使った創作料理やデザートなど、函館の街で食べて歩いて歴史を知る。それが、食の祭典・HAKODATEEat なんです!

 

僕は、これまで働いてきた外資系の会社を辞め、梨湖と一緒に函館にやって来て、今までの仕事のノウハウと人材をコネに、函館でイベント会社を立ち上げ、食の祭典である『HAKODATEEat』を企画した。

梨湖をモデルにチラシや動画を作りプロモーションを行い、大手ビール会社の協賛を頂き、函館のお店だけでなく、北海道の有名店なども参加してくれ、いつの間にか道南最大のイベントに発展していった。

 

僕と梨湖の、初めての企画は大成功を収めた。

ディズニー映画の美女と野獣の、ひとりぼっちの晩餐会のように、楽しい笑い声と美味しい料理が、函館の街を色づかせてくれた。

大きな成功と手応えを感じた僕は、次なる企画を梨湖に提案したのだが、どうも梨湖の反応が悪い。

 

「柊二、私が函館でやりたかったのは、こういう事じゃないかも?もちろん、柊二には感謝している。一緒に函館に来てくれてイベントも大成功だし、たくさんの人が楽しんでくれた。でも、このイベントは函館でなくても良いと思う。もっと函館らしいものじゃないと、いつか飽きられる。長い目で見たら、函館のグルメもスイーツも若い女の子を呼び込むだけのような気がする。ごめん、上手く言えないけど…」

梨湖は、美しい顔を少し歪め、一生懸命に答えを出そうとしていた。

 

「梨湖、謝らなくていい。僕もイベントの途中から疑問を感じていた!確かに成功したし利益もかなり出た。初めてにしては、十分すぎるくらいだ。梨湖がそう思うなら、それは正しい事なんだよ。だから2人でよく話し合ってみよう」

僕の問いかけに、梨湖は大きく頷いた。

 

確かに、僕は一人で焦っていたのかもしれない。

走り出して止まれなくなっていたのだろう。

結果を出さなくてはならないというプレッシャーと、お世話になった人たちへの感謝のために絶対に成功させなければならなかった。

 

「梨湖、あの時に似ているね。ホラ、僕が函館のことを何も知らずに雑誌で見かけた記事を見て、梨湖に函館のことを訪ねたら怒っただろう!函館の何を知っているの?って、函館はそんな街じゃないって。それで、僕は函館の歴史や文化などを調べて函館が好きになり、こうして今は梨湖と一緒に函館に居る。きっと、僕のように函館の歴史や文化を見て函館を好きになった人は、たくさんいると思うよ。こうして函館に住むことは出来なくても、何度も函館に足を運んでいる人たちがいるはずだよ」

「柊二、それだと思う。私が函館でやりたいこと。イベントのテーマは和洋折衷だったけど、蓋を開ければただのグルメイベントだった。ああいうのは北海道全体で考えるべきもので、函館に限って!というものではない。観光という意味では、グルメやスイーツを通して何でも揃う渡島半島という地元でしか味わえない自慢の味覚を提供できた。でも、函館には自然や歴史、文化や人情という街の彩りがある。函館ロマンという、きらめきとふれあいがね。私たち、原点を忘れていたね。まだまだだなー、勢いのままに函館のために仕事がしたい!なんて言って東京から戻ってみても、今の私は函館が好きな観光客と同じレベルだよ。柊二、気づかせてくれてありがとう。反省、反省」

 

そういうと梨湖はニッコリと笑った。

さすがに経済学部を出ているわけだ、瞬時に考えをまとめ考察し結果を導き出す。

僕には逆立ちしても出来ないどころか、梨湖が何を悩んでいるかなんて、まったく分からず言われて気がつくという体たらくで、全然成長していない自分が情けない。

そういえば、イベントで来ていたお客さんにいろいろと声をかけてもらったけど、その中で話をして気になる人たちがいたな、名刺をもらったんだけど忙しくてどこかに仕舞い込んでしまった。

キレイなお姉さんたちで、一人は両手に食べ物を持って満面の笑顔で頬張っていたので覚えている。

名刺の裏に名前を書いてくれたはずだ、え~と名刺、名刺はどこだ?

 

柊二、これを見て!私、ここに行ってみたい。こんな所にこんなお店?なんだろう、たぶんお店だと思うけど。あと、このブログは私がやりたい事を代弁しているかも?」

僕が梨湖に呼ばれてパソコンを見ると。そこには浪漫函館というブログが映し出されており、クリオネ文筆堂というお店が紹介されていた。

その中にスタッフの名前があり、麻琴と夏妃という名前を見つけた。

その名前こそ、イベントで声を掛けてくれた2人の女性の名前であり、名刺にはクリオネ文筆堂と書かれていた。

 

END

 

今回の函館ストーリー「彼女のこと、そして!」は、いかがだったでしょうか?

前回の続きとなる、梨湖(りこ)柊二(しゅうじ)の物語です。

函館ストーリー「ため息をついた、マーメイド」←(リンク)


大学を卒業した梨湖は東京で就職せず、ふるさとである函館へ戻りました。

そして柊二は仕事を辞めて、梨湖の後を追い函館へとやって来ます。

それは、恋人である梨湖との別れが嫌だからというだけでなく、函館という街に柊二(しゅうじ)が魅了されてしまったからでした。

2人は函館を舞台にイベントを企画し大成功を収めますが、そこで柊二は2人の女性に声を掛けられ名刺を貰います。

その2人の女性は、柊二が言うには「キレイなお姉さんたちで、一人は両手に食べ物を持ち頬張っていたとか?きっと声を掛けたのはもう一人のお姉さんで、隣でモグモグと食べていたのは、もうお分かりですねw

 

さて、梨湖と柊二は、この後にクリオネ文筆堂を訪れるのですが、クリオネ文筆堂では、また何かが起きているようです。