こちらは、「美蘭チャンネル」です! 美蘭さんの作品を紹介しています。


今回も大人気の、ぴいなつちゃんと美蘭さんのコラボで、函館ストーリー「ステンドグラスに心を映して」です。

美人でプライドが高く、完璧主義の「彼女」、今まで仕事も恋もプライベートも全てが上手くいっていた。

しかし、ちょっとした事で歯車が狂い出す…

それを持ち前の才能で修復しようとするが、一度外れた歯車はうまく噛み合わない。

「彼女」は、初めて挫折を体験するのだが、函館の街で見事に自分自身を取り戻す…

それでは、美蘭さんの朗読をお楽しみ下さい!

ぴいなつ作・美蘭さん朗読:函館ストーリー「ステンドグラスに心を映して」

原作は、こちらです…

函館ストーリー『ステンドグラスに心を映して』


今、ようやく仕事が終わった。

私の場合、仕事では《明るく、楽しくがモットー》であり、お客さまやスタッフ共にそれなりに心地良い人間関係を築いている。

仕事は好きだし、リーダーとしてもよく頑張っている。

そんな私でも、一人の時は、まったく違う女になる。

もちろん彼氏も、数人のボーイフレンドも、いる。

私が一人になる時…

私が私である、唯一の存在となるのだ。 

その日…

私は、ムシャクシャしていた。

仕事で、ミスが発覚しその処理に時間が掛かった。

いつも完璧な仕事ぶりが評価される私にとって、それは耐え難い痛手となった。

「まったく、何であんなミスをするのかしら?信じられない…」

今夜は、久しぶりに彼氏とのデート!

忙しい仕事のスケジュールをなんとか調整し、メイクもばっちり待ち合わせの場所へと駆け付けた。 

すると、スマホが鳴った…。

「急な仕事が入った!」

いつもの、ドタキャン。

いつものとはいえ、今日の私には耐えられるはずもなく、さすがに私はキレた。

彼は、無言で電話を切った。

 

そのまま家に帰った私は、一人ベッドの上で泣いた。

「もぉ~!私は、何も悪くないのに~っ!」

カーテンを開けたままの窓から、大きな月が見えている。

そういえば明日から、私は久しぶりの連休だった。  


次の日…

私は一人、駅へと足を向けていた。

気がつくと、私は行くはずだった東京ではなく、函館の街に立っていた。

「えっ、函館?」

…何十年ぶりだろうか?

そういえば、修学旅行で来たことがあった。

私は、遠い記憶を手繰っては、函館駅から歩き出した。 

訪れた函館は、駅や街並みが昔の記憶と、かなり変わっていた。

それでも、駅前の建物に見覚えがある。

懐かしく見ていたら、ガラスに自分の姿が映っていた。

今、いちばん『キテる』ブランドを着て、メイクも髪もばっちり。

こんな私が、ここにいるのは、どうにも場違いに見える。

「ここは、東京ではないから?」

違う…。

それは、私自身の問題なのだろう。

 

私は今まで、お店のために自分のために、仕事を頑張ってきたし、業績も良く社長からの

信頼も高かった。

だけど、新人のスタッフがミスを連発し売り上げも落ちて、彼とは喧嘩…。

完璧主義の私には、許せるはずもなくプライドはズタズタだった。

ビルのガラスに映る、自分自身の姿に問いかけてみた。

「現実から、逃げているの?」

いや、そうじゃない!

気がついたら、函館に来ていただけ…。 

「帰ろう…」

そう自分に言い聞かせて、函館駅に戻ろうとしたら、ちょうど路面電車がやって来た。

私は吸い込まれるように、開くドアへと足を進めていた。

ガタゴトと走る路面電車の車窓から街並みを眺めていたら…

私の知っている建物がちらほらとあった。

私は小学校の修学旅行を、ふと思い出した。 

[十字街]という所で、路面電車を降りてみた。

少し歩いていると修学旅行で初めて訪れた函館で、道を尋ねた喫茶店を見つけた。

まるであの頃に戻ったような感じ…

「ゆうこちゃん、どうしているかな?」 

[茶房 旧茶屋亭]は、昔のままの変わらぬ姿で、私を迎えてくれた。

いつも流行りを追い掛けていた私は、『変わらぬ良さ』を改めて知った。

“相変わらず”とは、この事を言うのだろう。

私は、お店に入り窓際の席に座り、修学旅行の時の思い出を懐かしんだ。

ステンドグラスの窓から差し込む、やわらかな光が私を包みコーヒーの香りが

私の心を少し落ち着かせた。 

小学生の頃から、私はオシャレが大好きだった。

「あの頃は、お洋服屋さんになりたいとか日記に書いてたかな?」

そこから、夢はファッションデザイナーに変わって服飾の専門学校に通ったけど

デザイナーは諦めて…

いまのアパレル会社に入って8年。

 

ずっと仕事ばかりしていた、私…

「私は今の職場で、何を得たのだろうか?」

自分自身に問いかけてみた。

店を出ると、辺りは夕暮れがせまっているようだ。

「エッ!もう、こんな時間?」

焦る気持ちを抑え、私は大きく深呼吸して函館駅へとゆっくり歩き出した。

オレンジ色の大きな夕陽が、港を染め赤レンガ倉庫には、波のきらめきが反射している。

古い洋館や和洋折衷の建物が残る函館の街並み、どこか懐かしい感じがする。

そういえば、来月に函館へ旅行するはずだった。

「だから、私は函館に?」

それは、一月遅れの彼へのバースディ旅行だった。


ぜんぜん平気なはずなのに、帰りの電車[はこだてライナー]の中で、私は泣いた。

函館の街を見て、私の人生からこぼれ落ちたものを思い出したからだ。

「原点へ帰ろう」

そう思った。

「私には、私の夢がある!もう一度、夢を追いかけてみよう。周りに流されず、自分の意思で前に進んでいこう」

私は車窓から遠ざかる函館山をまっすぐ見つめながらもう一度、自分に問いかけた。 

1941分、新函館北斗駅発はやぶさ96号…

私は、シートに深く身を沈めた。

「大丈夫?」

「もう、大丈夫!」

「私は、私…」

「あのステンドグラスの光が、私をずっと優しく包んでくれている…」

新幹線が青函トンネルへと入った時、笑顔の私が、窓に映っていた。

 

[END]


※より物語をリアルに感じていただきたく、原作に画像を挿入しました。