箱館ストーリー「クリオネ文筆堂・冬果&青田亜弓の物語」
箱館ストーリー「クリオネ文筆堂・冬果&青田亜弓の物語」
冬果と青田亜弓は、湯の川温泉旅館・波乃に2人で訪れ、松原みのりと3人で松の間にて朝までおしゃべりが続き、3人の友情はますます強くなり、冬果と青田亜弓が話す恋バナに松原みのりが目を輝かせていた…。
しかし、物語は文筆堂から始まるのだった!
尾崎から波乃の宿泊券を受け取った冬果と青田亜弓は、先に波乃に宿泊している奏太朗と桐山卓也と同じ悩みを抱えていた。
そこで、自分たちの悩みを聞いてほしくて文筆堂を訪れた。
「ただいま~!」
遠慮気味に冬果と青田亜弓が文筆堂に入って行くと、奥のサロンが賑やかで2人が来たことに誰も気が付かないでいる。
「麻琴ねぇさん!コレをお願いできませんか?」
柊二が麻琴に向かって書類を差し出し、その隣で梨湖が心配そうに立っている。
それは、柊二が書いた企画書で、麻琴と亮介が2人で目を通していた。
「フリーペーパー?どういうことだ」
亮介が柊二に声をかけるが、麻琴は黙って企画書を見つめている。
柊二が、「コレを麻琴ねぇさんに仕上げてほしいのです!」と頭を下げると一緒に梨湖も頭を下げた。
柊二のアイデアは、湯の川温泉のフリーペーパーを作り、その中で湯の川温泉の観光名所や旅館・波乃の特集を組むというものだった。
そして、表紙やそれぞれの場面で梨湖がモデルとして登場している。
黙っている麻琴をチラリと亮介が見て、口を開いた。
「柊二くん、この仕事は君たちが湯の川温泉組合に直談判してもらってきた仕事だろ?何で麻琴に頼むんだ!柊二くんがパンフレットやポスターを作るのではなかったのか?」
「亮介にいさん、麻琴ねぇさん!僕らが温泉組合から頼まれたのは、梨湖をモデルにという事でした。それに僕らは仕事の依頼に行ったのではありません、文筆堂として何かお手伝いをしたいと言ったのです。だから、梨湖のモデル代だけ温泉組合から頂きます。フリーペーパーにしたのは、この仕事は商業目的ではなく文筆堂として湯の川温泉を応援するためです。みのりちゃんや波乃のためにも僕と梨湖が出来ること、そして文筆堂の一員として自分たちに何が出来るのか?を考えた結果です!もちろん、旅館・波乃だけではありません。この後は毎回、湯の川温泉にある旅館やホテルを特集し、湯の川温泉の歴史や観光名所だけでなく湯の川の魅力を伝えていきます。そのためのフリーペーパーであり、費用は僕が企業を周りスポンサーを集めます。だから、このフリーペーパーを麻琴ねぇさんの会社に仕事として発注したいのです。みのりちゃんやお母様の女将さんのためにも失敗は出来ないのです!」
柊二が一気に想いを伝えると、梨湖と一緒に深々と頭を下げた。
「柊二くんさー、これ以上仕事を増やさないでくれる!私、休む暇もないくらい仕事を抱え込んで忙しいのよ。ここには息抜きに来ているのに…」
「おい、麻琴!そんな言い方ないだろ」
亮介がそう言うのを遮って、このやり取りを黙って見ていた栗生姉に麻琴が声を掛ける。
「栗生姉にいさん、柊二くんと梨湖ちゃんにクリオネスタイル出してね。私のカフェオレも、亮介さんにはコーヒーね」
ニヤリと笑みを残して栗生姉がカウンターへと入っていく。
「さてと、明日から残業だな!早く仕上げないと、柊二くんの仕事を出来ないよ。というわけで亮介さん、しばらくはご飯をヨロシクね」
そう言うと麻琴は、亮介に向かって大きなウインクをした。
「冬果、込み入っているみたいだから、後にしようか?」
青田亜弓が冬果にそう声をかけて、2人は帰ろうとすると後ろに野本直美が立っており、奥のやり取りに対して真剣な眼差しでサロンを見つめていた。
「あっ!直美ねぇさん」
「ウン!」と答えて踵を返した冬果は、野本直美が立っていることに気が付き驚きの声を上げた。
ちょうど栗生姉が飲み物を運ぼうとしていて3人に気が付き、手伝うように声をかけた。
クリオネ・スタイルを運んできた野本直美は、柊二と梨湖に声をかけた。
「とても素晴らしいです、柊二にいさん!梨湖ちゃんも。麻琴ねぇさん、私からもお願いします」
「直美ちゃんに、冬果ちゃんと亜弓ちゃんまで、エッ!聞いてたの?まったく人が悪いな~悪いこと出来ないよ、ねぇ~亮介さん!ここまでは私のおごりだけど、直美ちゃんと冬果ちゃんと亜弓ちゃんのクリオネスタイルは亮介さんのおごりだからね。栗生姉にいさん、デザートは?みんなの分ある?私、和フィナンシェが食べたいな!」
あっと言う間に、麻琴のペースに翻弄される文筆堂だった。
「いやいや、栗生姉さん!全て僕が支払いますから…」
バツの悪そうな亮介が頭を掻きながら、そう答えた。
「ところで、直美ちゃん!尾崎先生は?それに、イケメン彼氏は一緒じゃないのかい!冬果ちゃん、亜弓ちゃん?」
亮介が誤魔化すように話しかける横で、麻琴は「デザート、デザート」と騒いでいる。
麻琴がわざとはしゃぐ姿を察した野本直美が、冬果と亜弓を手招きしてサロンのカウンターへ座らせると、それを見ていた梨湖が栗生姉に目配せし、軽く頷く栗生姉はわずかに頭を振り梨湖に「そのままで!」と合図を送った。
「どうしたの?」
優しい笑顔の野本直美に、青田亜弓が胸の内を話した。
冬果は緊張した面持ちで、青田亜弓が吐き出す言葉を待っていた。
「直美ねぇさん、私たちはみのりちゃんのお母さんの招待だからと言って波乃に行ってもいいのでしょうか?ずっと2人で悩んでいて、みのりちゃんは《3人で夜遅くまで話が出来るね!》と言ってくれたのですが、さっきの梨湖ねぇさんや柊二にいさんの話を聞いて、ますます悩んでしまって。私たち、尾崎先生から頂いた招待状の封も切っていません!だって、私たち何もしていないし出来ないし!だから2人で相談して招待状はお返しして自分たちのお小遣いで波乃に泊まりに行こうか?と話していました。でも、高校生の私たちには波乃に泊まるにはお小遣いも足りないし、もちろん松の間でなくて一番小さいお部屋でもいいのですが、それだと却って失礼な気がして。直美ねぇさん、どうしたらいいのでしょうか?私たちには、お礼に湯の川温泉のために何かをやるなんて、とても思いつかないしきっと出来ないと思います。せいぜい、柊二にいさんがやるフリーペーパーを配ったり、お店の広告をお願いする時に一緒に行って頭を下げるしか出来ません…」
だんだんと声が大きくなる青田亜弓の横で、冬果は一言も喋らず時折り鼻をぐすぐすとさせ、頬をつたる涙を拭っていた。
野本直美は、ずっと青田亜弓が語る言葉を一つも漏らさないようにと真剣に聞きながら、冬果の手をそっと握っている。
梨湖がたまらず駆け寄ろうとするのを麻琴が止めて、心配そうに見つめる柊二の横に座らせた。
その後ろでは、栗生姉と亮介が同じように事の成り行きを見守っている。
「亜弓ちゃん、冬果ちゃん。卓也くんや奏ちゃんとはお話をしたの?2人も同じように悩んでいて栗生姉にいさんに相談して、そして3人で波乃に行ったのよ!尾崎先生が言う、《君たちの悩みは、波乃に行けばきっと解決するから!》という言葉を信じてね」
野本直美の優しい問いかけに、青田亜弓は「ハイ!」と大きく返事をして、冬果は頬を流れる涙を拭いながら大きく頷いた。
「直美ねぇさん!2人とも栗生姉にいさんに悩みを聞いてもらい、みのりちゃんのお母さんのお話も聞いて、翌朝には悩みも消えスッキリしたと言っていました。卓也くんは卒業後の進路も決めたそうで、ご両親にも伝えたそうです」
青田亜弓は、チラリと冬果を見てそう答えていた。
サロンでは、亮介と柊二と梨湖が栗生姉を見つめており、恥ずかしそうに照れた表情を浮かべる栗生姉の腕に麻琴がツンツンと指でちょっかいを出していた。
「だったら、恐れることないじゃない?波乃に行くというより、みのりちゃんの家に行くと思えばいいと思う。2人とも、みのりちゃんともっと親しくなりたいのでしょ?みのりちゃんも、そう思っていると思う!だから波乃に行って、みのりちゃんがこれまでどう過ごして来たのかを感じることが大事じゃないのかな?私は、そう思うけど…」
野本直美の言葉に、青田亜弓と冬果は黙って見つめ合った。
そして、冬果が意を決したように口を開いた。
「直美ねぇさん、私も亜弓も、みのりちゃんに負けないくらい直美ねぇさんが好きです!そして文筆堂の皆さんの事も尊敬しています。ただ、同じ高校生なのにみのりちゃんはどんどん前に進んでいくし、亜弓は部活で郷土史研究会の部長として函館の歴史やアイヌや縄文など一生懸命に勉強していて、私だけ何もないんです。文筆堂の皆さんのような特技も何もない平凡な女子高生で、直美ねぇさんに会えなかったら文筆堂に来ることもなく函館のことを考えることも無かったと思います。私だけ何も出来ずに何もしていなくて、文筆堂に顔を出していいのか?と悩んでいました。でも、みのりちゃんを見て私にも何か出来ることはないか?と考えるようになりました。奏ちゃんと一緒の大学に行くことが夢でしたが、私は自分自身のためにも実家の古本屋を継ぐためにも、そういう目的を持って進学したいと思います。文筆堂が主に自費出版の函館に関する書物を専門に取り揃えるなら、私は店を継いだ将来はアイヌに関する書物や函館に関する書物を取り扱うお店にしたいと思うのです」
やがて、いつの間にか自分の手を握ってくれていた青田亜弓に気がつく、冬果だった。
「直美ねぇさん!私も冬果も、みのりちゃんのことを聞いて、ますますみのりちゃんを好きになりました。でも、そんな苦労をしているなんて知らなかったし。だからこそ、直美ねぇさんに憧れるのもよく分かったのです。それまで、みのりちゃんに対して嫉妬している自分たちの気持ちもありました。私たちだって、負けないくらい直美ねぇさんが好きなのに。しかし、みのりちゃんのお話を聞いて、私たちはどれだけバカだったのだろうと思い知らされました。私たち、波乃に行ったらみのりちゃんにこの事を話して謝りたいです。そして改めて、みのりちゃんと友達になりたいと思います。ありがとうございます!直美ねぇさん、私と冬果は2人で波乃に行って来ます」
そう言うと青田亜弓と冬果は立ち上がり、野本直美に向かって頭を下げた。
文筆堂のサロンの入口では、夏妃と康平が立っていて、このやり取りを聞いていた。
涙ぐむ夏妃の腕をそっと康平が引くと、2人は静かに文筆堂を後にした。
青田亜弓と冬果はその場で波乃に連絡をして来週の金曜日に予約をして、学校が終わったら波乃に行くと伝えると2人は堰きを切ったように涙が溢れ、野本直美の腕の中でわんわんと泣いた。
黙って2人を抱きしめる野本直美の後ろで、文筆堂のメンバーが祝福の拍手をしていて、梨湖は冬果と青田亜弓の背中を泣きながら撫でていた。
その夜に、野本直美は尾崎に冬果と青田亜弓の言葉を一語一句、丁寧に伝えるとようやく尾崎の胸で涙を流した。
《私も亜弓も、みのりちゃんに負けないくらい直美ねぇさんが好きです!》
この言葉がどんなに嬉しかったのか、そしてそう想われている事への自分への期待と自身の不安を尾崎にぶちまけ、遅くまで語り合った。
春休みの前日、冬果は十字街電停から湯の川行きの市電に乗り、青田亜弓にLINEを送った。
そして、冬果が乗った市電が五稜郭公園前に着いたときに、青田亜弓が市電に乗って来た。
ちょうど冬果の隣の席が空き青田亜弓が座ると、2人は黙って手を繋いだまま湯の川温泉電停までそのままだった。
電停には松原みのりが待っており、2人を迎えると波乃へと歩いて行った。
波乃に着くと、女将であり松原みのりの母親の松原ちなみが出迎えてくれ、松の間の前には若い仲居たちが並んで待っていた。
ぎこちない笑みを浮かべながらもようやく挨拶をした冬果と青田亜弓は、緊張を隠せないままに松の間へと通されると、見たこともない豪華な和室に卒倒しそうなほどだった。
既にテーブルには、文筆堂のメンバーが噂する千秋庵の和フィナンシェがあり、飲み物として抹茶ラテが用意された。
緊張している冬果と青田亜弓を見た松原みのりが、2人にこれまでの和フィナンシェのエピソードを面白おかしく話すと、ようやく冬果と青田亜弓に笑顔が戻り、冬果は抹茶ラテと和フィナンシェのおかわりをした。
ようやく座が馴染んだ頃、松原ちなみが冬果と青田亜弓に向かって深々と頭を下げ、娘と仲良くしてくれた事への感謝の言葉を告げた。
そして直ぐに、松原みのりが…
「冬果ちゃん!亜弓ちゃん!私、文筆堂では後輩なのに生意気でごめんなさい。私、一人っ子だしお父さんが亡くなってから、学校でもお友達と上手くいかなくて。そしてお母さんには悪いけど旅館の娘というのが嫌だった。小さい頃から将来は女将になるのだと周りは言うし、それがずっとプレッシャーで、でもお母さんが《高校を卒業したら、みのりの好きな事をしなさい。無理して女将になる必要はない!》と言ってくれて、それで気持ちが少し軽くなって、たまたまネットで直美ねぇさんのブログ・浪漫函館を見つけて、そしたら文筆堂にどーしても行きたくなって気がついたら文筆堂の前に立っていたの。文筆堂の皆さんがこんな私をすっごく温かく迎えてくれて、そして冬果ちゃんと亜弓ちゃんに出会って、その日はまるでクリスマスとお正月が一緒に来たような、そんなハッピーな気分で興奮がずっと続いていて、お家に戻ってお母さんに真っ先に伝えたの、《私、今日とても素敵な人たちに出会った!こんな素晴らしい経験は二度と無い。だからもっと函館のことを勉強しなければならないから、お手伝いもあまり出来なくなるし女将になるのは少し待ってほしい》って。そして直美ねぇさんとの出会いは私には衝撃的で、文筆堂から帰るといつもお母さんに直美ねぇさんのことを話していた。直美ねぇさんは私にとって特別な存在なのだ、その想いが日に日に強くなり、いつしか直美ねぇさんを独占しようとした。私が!私が!と自分が先立つ事で、直美ねぇさに褒められ認めてもらいたかった。でも、直美ねぇさんはみんなのものと教えられ、ハッと気がついた!私は何をやっていたんだろうって、同い年の冬果ちゃんや亜弓ちゃんともっと仲良くしようともせず、1人でいい気になっていた。ホントにごめんなさい。ずっと謝りたかった!そして気がついたの、私は直美ねぇさんを好きなように冬果ちゃんと亜弓ちゃんのことが好き、大好き!これからも文筆堂の仲間として一緒に居たい。こんな私だけど、仲良くして下さい。このままお友達として一緒に居させて下さい。冬果ちゃん!亜弓ちゃん!どうかお願いします」
最後は絶叫するように涙声で叫ぶと、松原みのりは頭を畳につけたまま動かなかった。
その横では、女将であり母親の松原ちなみが声にならない声で、何度も「娘をどうか宜しくお願いします」と頭を下げ続けるのだった。
若い仲居が、松の間に飛び込んで来て、松原みのりを抱きしめると一緒に来るようにと促し、松の間から松原みのりを連れ出していた。
冬果と青田亜弓は涙を拭くことも忘れ、仲居が連れて行った松の間の入り口を見つめ、松原みのりが戻って来るのを待っていた。
松の間の襖は開けられたままで、心配そうに様子をうかがう波乃の従業員たちがいた。
それを見た冬果と青田亜弓は、いかに松原みのりがこの旅館の人々に愛され、将来の女将として期待されているのかを感じ取っていた。
やがて、顔を洗い着替えをすませた松原みのりが、若い仲居に連れられて松の間へと戻って来た。
冬果と青田亜弓は、母親の松原ちなみと松原みのりに、お互いに文筆堂で松原みのりと出会った日のことを伝え、自分たちは文筆堂では何もしないまま、おやつや飲み物をもらいチヤホヤされている事に居心地が良いと思っていた事を話した。
そして、松原みのりの提案で一緒にクッキーを焼いて持って行った事や、いつも松原みのりが率先して自分たちに声を掛け文筆堂の手伝いをしてきた事を話して聞かせた。
もし、松原みのりが文筆堂に来なかったら、これまで通り何もしないまま、ただ文筆堂に顔を出し、いつの間にか飽きて行く事もなくなり、函館の未来も自分たちの将来も考えることもない平凡な暮らしの中、結婚して子どもを生んでいただけだったと思うと語った。
そして、いつの間にか松原みのりに対して嫉妬している自分に気がつき、そんな気持ちが自分の中に芽生えていたことに腹が立ち、どうすることも出来なかったのだと告げ、冬果と青田亜弓は、今日はこの事を正直に松原みのりに話し、謝罪するつもりで来たと涙ながらに語り、「これからも友達として仲良くしてほしい!」と頭を下げた。
一緒に居た若い仲居が、「失礼します!」と泣きながら松の間に入って来て、松原みのりの父親が亡くなり波乃や女将さんの笑顔が消えていた頃に、松原みのりが涙も見せず小さい体に口を真一文字に結び、一生懸命に仲居の手伝いをしてくれたのだと話し、自分が一番若く松原みのりを妹のように想い接してきたのだと言い、「どうか、みのりちゃんを!いえ、若女将をこれからもお願いします」と言って何度も何度も頭を下げお願いをした。
異様な雰囲気の松の間に、「失礼します!」とキレイな声が響いた。
みんながハッとしてその方向を見ると、そこには野本直美が立っていた。
「直美ねぇさん!」
松原みのりと冬果と青田亜弓が、3人同時に声を上げた。
「女将さん、波乃の皆さん、勝手に入って来て申し訳ございません。本日はここにおります小松冬果と青田亜弓の保護者として参りました。どうぞご無礼をお許し下さい」
そう言うと、野本直美は深い立ち礼をした。
「女将さん、波乃の皆さん!本日は、小松冬果と青田亜弓を迎え入れていただき、誠にありがとうございます。私たちは、本人の個性を重んじるあまり接遇などは注意しないものですから、失礼があったならどうかご容赦下さい。今後は、もっと厳しく指導するよう心掛けていきます。この2人からお話があったと思いますが、みのりさんに対してこれまで迷惑をかけてきたことを謝りたい、みのりさんと真の友達になりたいと言って本日こうしてやって来た次第です。いたらぬところは、私たち文筆堂のメンバーが厳しく注意いたしますので、どうか女将さん、みのりさん、波乃の皆さん、まだ未熟者ではありますが小松冬果と青田亜弓を受け入れて下さいますようお願い致します。みのりさん、私からもお願い致します!冬果と亜弓と3人で、これからも文筆堂の仲間として一緒に仕事をして下さい。そして、函館の未来を3人で築いてほしい。これは、文筆堂の栗生姉からのお願いでもあります」
凜とした立ち姿のままで、野本直美が言葉を伝えると「おぉ!」という声が上がり、それは波乃の従業員からの歓声であった。
そして、松原みのりと冬果と青田亜弓は3人で「ごめんね!ごめんね!」と言いながら抱き合って泣いた。
女将の松原みのりは、野本直美の前にやって来ると、美しい動作で深い立ち礼をすると、それに従うように、波乃の従業員も一斉に野本直美に頭を下げるのだった。
そして野本直美は、松原ちなみと波乃の従業員一人一人にお礼と感謝の言葉を伝えると、そのまま廊下にて膝を折り深い座礼をして頭を下げた。
たまらず女将の松原ちなみが駆け寄り、「野本直美様、そのような事をされては困ります。どうかお願いです」とうろたえる。
そんな母親の姿を見た松原みのりが「直美ねぇさん!」と叫んで、抱きつくと野本直美がようやく笑顔で、松原みのりの頭を撫でた。
その後ろで、涙を一杯にためた冬果と青田亜弓が見つめていた。
野本直美は、波乃の玄関で冬果と青田亜弓に、「女将さんや波乃の皆さんに、ご迷惑を掛けないようにね!」と言うと2人を抱きしめた。
「直美ねぇさん、直美ねぇさん」と何度も名前を呼ぶ2人に、「大丈夫!しっかりしなさい!」と伝えると、野本直美は深い立礼をして波乃の玄関を開けた。
そこには、少し離れたところで待つ尾崎の姿があり、それに気がついた松原ちなみが「ありがとうございます!」と目で感謝を伝え、深々と頭を下げるのだった。
それから3人は、一緒に温泉に入り、料理長が特別に作った若い女性向けの会席料理を楽しみ、松の間にて松原みのりを真ん中にして川の字に布団を並べ早朝まで話が弾み、3人は朝食の直前までいびきをかいて寝ていたのだった。
朝食を食べ、身支度をすませた冬果と青田亜弓は、女将である松原ちなみと波乃の従業員へ感謝とお礼の言葉を伝えると、そのまま松原みのりと3人で湯倉神社を参拝し、これからも3人の友情が続くようにと絵馬に書き、奉納している。
湯倉神社前にある湯の川電停にて松原みのりと別れ、冬果と青田亜弓は谷地頭行きの市電に乗ると、松原みのりはいつまでも市電に向かって手を振り続け、冬果と青田亜弓は2人でしっかりと手をつなぎ、ガタゴトと揺れるシートに身を委ね流れる車窓を眺めていた。
途中、五稜郭公園前の電停で青田亜弓が下りると冬果は、昨日からのことを振り返りながら、たくさん撮ったスマホの写真を眺めていた。
思わず涙がこぼれそうになるのをガマンして、早く文筆堂に行きこの写真を見てもらいたいと思った。
そして、スマホの写真の中から3人一緒に撮った一番のお気に入りを見つけ、「みのりちゃん、亜弓、ハートの絵文字」を画像に書き入れた。
END
今回の箱館ストーリー「クリオネ文筆堂・冬果&青田亜弓の物語」は、いかがだったでしょうか?
女子高生3人の物語ということで、なかなかストーリーが進まず、ようやく仕上げることが出来ました。
実は、GWが過ぎ落ち着いた頃に函館の湯の川温泉に行って来ました。
波乃のモデルになった旅館や、湯の川温泉街などを視察し、ようやくこの物語を完成させることが出来ました、やはり現地に行きますと想像力がアップします。
女子高生の会話ほど難しいものはありません、そこで文筆堂から話が始まるようにし、これまでの経緯を入れて、ようやく物語もスタートしています。
そして、今回は冬果がフルネームで登場します!
もちろん、名付け親のぴいなつちゃんが「小松冬果」と命名しました。
さて、旅館・波乃を舞台に繰り広げてきた箱館ストーリーですが、1番物語にしやすい順番で物語が進んでいき、残るは「麻琴」と「夏妃」の2人を残すのみとなりました。
しかし、この2人が一番難しいのです!
それぞれ、ぴいなつちゃんと美蘭さんという実在する主人公を、どのように物語に登場させればいいのか?
もし、変なことを書いて怒らせたらどうしようか?
今のところ、まったく粗筋すら出来ておりません。
でも、この旅館・波乃を舞台にした物語が終わると、既に物語にあるように冬果と青田亜弓と桐山拓也と松原みのりは、高校生活が終わりになります。
文筆堂のキャラクターの転換期となった、旅館・波乃を舞台にした箱館ストーリーですが、その後は文筆堂を舞台に、私たちが忘れている源・日本の風景や文化を紡いでいきたいと思っております。
クリオネ兄さん♪
返信削除お疲れ様でした。
函館まで行かれて
湯の川温泉に宿泊して
書かれたのですね!
なかなかこれだけの長編は大変だったと思います。
お疲れさまでした。
美蘭さん
返信削除ありがとうございます!
ちょっと行き詰まっていて、思い切って行って良かったです(^^ゞ
まるで文豪みたい(笑)
おかげで当初の予定より長くなりました。
でも、自分では上手く書けたかな?と思っています。
でも、途中で失速したのは否めません(;・∀・)
夏妃の物語は、まだまだお時間下さい!
《「柊二くんさー、これ以上仕事を増やさないでくれる!私、休む暇もないくらい仕事を抱え込んで忙しいのよ。ここには息抜きに来ているのに…」》
返信削除これ、リアルー!(笑)
わかるなぁ、麻琴の気持ちが(笑)わはは!
《サロンでは、亮介と柊二と梨湖が栗生姉を見つめており、恥ずかしそうに照れた表情を浮かべる栗生姉の腕に麻琴がツンツンと指でちょっかいを出していた。》
浮かぶ〜!この光景^^
かわいくて、たのしい
《その夜に、野本直美は尾崎に冬果と青田亜弓の言葉を一語一句、丁寧に伝えるとようやく尾崎の胸で涙を流した。
《私も亜弓も、みのりちゃんに負けないくらい直美ねぇさんが好きです!》
この言葉がどんなに嬉しかったのか、そしてそう想われている事への自分への期待と自身の不安を尾崎にぶちまけ、遅くまで語り合った。》
このシーン、すきだなぁ
直美ちゃん嬉しかったよなぁ
尾崎先生も、嬉しかったろうなぁ
2人はお酒とか呑みながら話すんだろうか?
と、妄想中、、、
《途中、五稜郭公園前の電停で青田亜弓が下りると冬果は、昨日からのことを振り返りながら、たくさん撮ったスマホの写真を眺めていた。
思わず涙がこぼれそうになるのをガマンして、早く文筆堂に行きこの写真を見てもらいたいと思った。
そして、スマホの写真の中から3人一緒に撮った一番のお気に入りを見つけ、「みのりちゃん、亜弓、ハートの絵文字」を画像に書き入れた。》
ラストがすごくすきだなぁ
冬果のこの感じ、リアル!
小松冬果ちゃん、として初登場したけど
これから、奏ちゃんとはどうなっていくのか
大学選びにも頭を悩ませて
きっと、いい決断ができると信じてます^^
女子ならではの、かわいい嫉妬あり
心の葛藤やら成長ありで
わかるわかるーがたくさんありました^^
壮大なストーリーだけに
コメントにも、かなり時間がかかりましたー^^
PS 栗生柿 姉が柿になってる箇所がいくつかあったので、脳トレ方々、兄上間違い探しお願いしまーす(笑)
ぴいなつちゃん
返信削除コメント冒頭の麻琴の様子は、リアルにぴいなつちゃんを想像して書きました。
あと、栗生姉に対するツンツンも麻琴ならやるだろうなと(笑)
物語のラスト解説にも書きましたが、女子高生3人の会話ほど難しいものはなく、かなり困りました。
正直、冬果と青田亜弓の物語はぴいなつちゃんに丸投げしようと思ったくらいです。
でも、何とか仕上げることが出来ました(^^ゞ
自分自身もこれまでの物語を通して、函館の未来を想像するようになり、元町のクリオネ文筆堂だけではなく、歴史ある湯の川温泉も舞台にすることで少しは函館に観光に来るお客さんに、五稜郭や元町やベイエリアだけでない函館の魅力を、この物語を通して少しでも分かってもらえたらと思い、湯の川温泉が舞台の箱館ストーリーとなりました。
残る、麻琴と夏妃がどうにょうに波乃に関わっていくのか?
この2つの物語で、箱館ストーリー・湯の川温泉の物語は一旦終わりになります。
ぴいなつちゃん、美蘭さん、これからもご協力をお願いいたします!