お盆なので、こんな話を…

子供の頃のお盆の話──
自分では覚えていないのだが、 たぶん私が四〜五歳くらいの頃の出来事だという。

当時、私は祖母の部屋でいつも寝ていた。
畳の匂い、蚊取り線香の煙、 窓の外から聞こえる遠い祭囃子──
お盆の夜特有の、少し湿った静けさが漂う部屋だった。

その夜、私は突然、 天井の角を指差して言ったらしい。

「アレは何?」

祖母は驚くこともせず、 いつもの優しい声でこう答えたという。

「アレはね、お爺さんがお盆だから帰って来たのよ」

祖母の言葉を聞いた私は、 怖がるでもなく、ただじっと天井の角を見つめていたらしい。

その“白い塊”がどんな形だったのか、 どんなふうにそこにいたのか──
その時の記憶は、なぜか私の中には残っていない。

けれど、 不思議なことに “映像のような断片” だけが 今でも記憶の片隅に残っている。

薄暗い部屋。
祖母の布団の匂い。
天井の角にある、ぼんやりとした白いもの。
祖母の静かな声。

まるで、誰かがそっと覗いていたような気配。

後にも先にも、 そんなことがあったのは一度きりだった。

だからきっと──
あれは“初盆”の年だったのだろう。

幼い私が見た白い塊は、 祖母が言った通り、 お盆に帰ってきたお爺さんだったのかもしれない。


あとがき

幼い頃のお盆には、 大人には見えない“気配”がふっと現れることがあります。

それは怖いものではなく、 どこか温かく、 懐かしい人がそっと帰ってきたような静かな気配。

今回の体験記は、 私が幼少期に感じた “お盆の不思議な瞬間”を記録した一篇です。

記憶は曖昧でも、 映像のような断片だけが残る──
そんな体験は、 子どもの頃だからこそ見えた世界なのかもしれません。

あなた自身のお盆の記憶と重ねながら、 静かに読んでいただけたら嬉しいです。