今回も箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂物語」でお楽しみ下さい!

恋バナで大盛り上がりの文筆堂に、夏妃と野本直美と青田亜弓がやって来るところから、物語は始まります。

冬果ちゃん一人だけがまだ来ていませんが、遅れてやって来たのには訳がありそうで…

それでは、お楽しみ下さい。

箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂物語」

 

「ただいまー!」

その時、キレイな声がハーモニーとなり、こだまする。

夏妃を先頭に、野本直美と青田亜弓がやって来たのだ。

奥のサロンはいつになく賑やかで、誰も夏妃たちがやって来たことに気が付かない。

三人は顔を合わせもう一度「ただいまー!」と言ってサロンに入って来た。

 

ようやく気がついた奏太朗「おかえりなさい!」と声を出すと、栗生姉や麻琴たちもようやく気が付き、「おかえりー!」と言った。

「ここではね、来る時に《ただいまー!》と言って《おかえりー!》と答える。これは文筆堂の仲間たちの合言葉なんだよ」

尾崎が、松原みのりに優しく説明すると、松原みのりはパッと顔を明るくして…

「素敵!とっても素敵。こういうのって、いいなぁ~」

松原みのりがそう答えるのを見て、夏妃と野本直美と青田亜弓が嬉しそうに顔を見合わせる。

「あっ、新しいお客さん?とっても、可愛い人ね」

夏妃がそう言うと、松原みのりが立ち上がり挨拶をした。

 

「はじめまして、松原みのりです!地元民で高3です。浪漫函館というブログでこのお店を知って、来ちゃいました」

松原みのりは、そう言うと姿勢を正しペコリと頭を下げた。

「あら、そうなの?嬉しいわ。この人が、浪漫函館の編集長をやっている野本直美さんよ」

夏妃が爽やかなそよ風のような声で、野本直美を紹介した。

嬉しい時に声が上向くのが夏妃の声の特徴で、栗生姉はこの夏妃のクセを元町に鳴り響く教会の鐘の音のようだ、と表現する。

 

「えっ、そうなんですか~?まさか会えるなんて思ってもいなくて、ヤダーなんか緊張してきちゃった」

いきなり、ソワソワしだす松原みのりに微笑みながら、夏妃が野本直美と青田亜弓を紹介した。

野本直美は自分のブログを見て来てくれた事を素直に喜びながらも、緊張が移ったようにぎこちない笑顔でブログを見てくれたお礼を伝えた。

青田亜弓は自分と同じ高3の女の子の登場に、まるで幼い頃からの友達に久しぶりに出会ったような不思議な気持ちを感じながらも、出会いを素直に喜んでいる。

「あっ、青田さんって、桐山くんの彼女さんですよね?彼、とても情熱的ですね。私、お話を聞いて感動しました!」

屈託のない笑顔で松原みのりが、口を滑らすと慌てて桐山と奏太朗が飛んで来た。

「あっ、いや、松原さん!さっきの話はちょっと、ナイショというか、その…」

しどろもどろになりながらも話す2人を見た松原みのりは、クスっと笑い「面白い!」と言うとニコニコしながら2人を交互に眺めた。

 

そんな事を言われた青田亜弓は、キョトンとして立ちすくんでいる。

「さっきまでね~桐山くんと奏ちゃんの恋バナでめっちゃ盛り上がっていたんだよ~。それで桐山くんはね~亜弓ちゃんの…」

ワーワーと両手をぶんぶん動かし、桐山が青田亜弓の前に立ち必死に麻琴の言葉を遮ろうとする。

夏妃と野本直美が桐山の姿を見てクスクスと笑い出すと、麻琴が桐山を払いのけ青田亜弓の傍に行き、手を引いて一歩前へ連れ出す。

「さぁ~役者が揃ったわよ!でっ、亜弓ちゃんは桐山くんのどこにホレたのかな?言わないとお姉さんが月に代わってお仕置きするわよ」

と、セーラームーンのマネをして声を荒げる。

「麻琴ちゃん…」

見かねて、夏妃が止めようとすると。

 

「ただいまー!」

と元気よく冬果がやって来た。

「おかえりー!」とみんながスグに反応するのを、松原みのりは嬉しそうに眺めている。

ツカツカと奥のサロンへとやって来た冬果は、いきなり奏太朗に詰め寄ると。

「ちょっと奏ちゃん、わたしずっとジョリジェリの前で待っていたんだからね!」

「えっ、冬果ちょっと待てよ…」

「《バイト代が入ったからステピ奢るよ、冬果!》って言った、確かに言った。ねぇ~亜弓も聞いていたでしょ?」

「冬果、それ明日の話だよ。それに、亜弓ちゃん一緒に居なかっただろ、市電の帰りだし」

「そんな事はどーでもいいの、わたしはお腹が空いて、ここに来るまでメロンパンアイス食べながら来たんだから」

 

冬果の一方的なやりとりに目を丸くして見ていた松原みのりに、麻琴が冬果について説明していた。

麻琴の気配に気がついた冬果は、くるりと体の向きを変えて、松原みのりと対面した。

「はじめまして、だよね?わたしは、冬の果物と書いて冬果と言います」

と挨拶した。

すると、松原みのりがパッと顔を明るくして、冬果に語りかける。

「はじめまして!松原みのりです。同じ高3です。浪漫函館のブログを見て、こちらに辿り着きました。奏太朗さんの可愛い彼女さんですね、そして食いしん坊…」

今度は、奏太朗がワーワーと騒ぎ、冬果の前で大きく手を降り出す。

栗生姉と尾崎が、たまらずプッとガラナを吹き出すと、文筆堂のサロンは大きな笑いに包まれた。

 

「だから…、最近よく男子たちがこっそり集まり男同士の恋バナをしていたのよ。まったく失礼よね、こんな面白い話をレディーには内緒だなんて!それにしても、美味い。めっちゃ美味い」

麻琴ちゃん、まだあるから、そんなに慌てなくても…」

夏妃が心配して声を掛けるも、誰もがスナッフルスのチーズオムレットに夢中で、夏妃の声が届いていないようだ。

このチーズオムレットは、夏妃と野本直美からの差し入れだった。

一緒に居た青田亜弓がお金を出すと言ったが、2人は断った。

それなら文筆堂までの道のりを自分が荷物を運ぶ、と言う青田亜弓の提案を夏妃と野本直美は、素直に受け入れた。

 

尾崎と野本直美、栗生姉と松原みのりは少し離れたところで、話をしていた。

尾崎は改めて野本直美を松原みのりに紹介し、浪漫函館というブログが出来た経緯を説明した。

それに答えるように、野本直美がクリオネ文筆堂やその仲間たちとの出会いを話してくれた。

「直美ちゃんのおかげで、また新しい仲間が増えたな」

と、栗生姉が目を細くして松原みのりを眺めながら、そう話した。

「そうだね、若い人は大歓迎だよ!これからの函館を背負うには、松原さんみたいな人が必要なんだ。どうだろう、僕からもお願いしたいね。ここに居る仲間と一緒に、直美ちゃんのブログ・浪漫函館を手伝ってくれないかい?初対面なのに不躾に言って申し訳ないけど。これも何かの縁だと思うんだよね」

尾崎がそう言うと、野本直美と栗生姉が深々と頭を下げた。

松原みのりは慌てて2人を静止しようと立ち上がると、シーンと静まりかえる中で、麻琴と夏妃が、青田亜弓と桐山が、冬果と奏太朗が松原みのりに向かって頭を下げていた。

 

「私、来て良かった!こんなにも感動することなんて、ないですよ。ドラマ観ても泣かないのに。私、函館に生まれて良かった。皆さんに会えて良かった。浪漫函館を見ていて良かった。どうやってお礼を伝えればいいですか?私は皆さんと違って才能もないし、きっと何も出来ないと思う。でも、一緒に函館のことを考えていきたい、函館という街を大切にしたい。こんな私だけど、これからもよろしくお願いします!」

深々と頭を下げる松原みのりの背を、野本直美がありがとうありがとうと、さすっていた。

 

「さぁ~栗生姉にいさん、これは皆んなで乾杯だよ!クリオネ・スタイルよろしくね。やったーこれは栗生姉にいさんの奢りだよ、みのりちゃん」

「まったく、麻琴ちゃんには参るな。だったら手伝えよ」

そう言いながらも栗生姉はどこか嬉しそうで、その後を夏妃が続いた。

「栗生姉さん、僕が半分支払うよ!」

尾崎が栗生姉の背中に向かいそう言うと、栗生姉は手を上げて答えた。

野本直美が慌てて夏妃の後を追うように立ち上がると、尾崎がそれを静止し松原みのりの隣に座らせた。

「奏ちゃん冬果ちゃん、桐山くん亜弓ちゃん、ここ片付けようか。みんなで囲むように座ろうじゃないか?」

尾崎の提案に「ハイ!」と大きな声を出し、4人はテーブルや椅子を動かした。

 

みんなで乾杯をしたあと、松原みのりはある疑問を投げかけた。

「私、元町とかあまり来ないからかもしれませんが、文筆堂の場所がよく分からなかったんです。何度も同じ所をグルグル回っていたような気がして、見つけたときはホント嬉しくて」

「栗生姉にいさんはね、魔術師なんだよ!それで、お店に魔法をかけて普段は見えないようにしていると思う。きっとそうだよ、あのアニメと同じ」

と、冬果がそう言うと…

「ふらいんぐうぃっち」

青田亜弓と桐山が一緒に声を合わせて叫んだ。

 

「尾崎先生、魔法はともかく…文筆堂はよく見つけられないとか、直美ねぇさんのブログにコメントがありますが、どういう事なんでしょう?」

魔法だ魔法だと騒ぐ冬果と麻琴を無視し、奏太朗が問いかける。

「う~ん、魔法と言うよりマヨイガみたいな現象かもしれないね!直美ちゃんはどう思う?」

「はい、どちらかというとマヨイガに近いような気がします」

「マヨイガって、何ですか?」

青田亜弓と桐山が、身を乗り出して尾崎に尋ねると、栗生姉や夏妃も真剣な顔をしていた。

 

「マヨイガっていうのは、遠野物語に出てくる不思議な家の話で、山奥に廃屋があり旅人が迷い込んで日用品を持って帰ると幸運が訪れると書かれている。実は異界に存在するモノではないか?と、今はそう言われていたりしているね。何処に存在するか全くの不明で誰も辿り着けない場所にあるとされている。あえて説明するなら、たまにマヨイガに人が紛れ込んだり、マヨイガが時空のズレにより人間世界に現れる、という事なんだろう。ここは元町、函館山の麓であり異国情緒が今なお残る歴史的にも文化的にも重要な意味を持つ場所であり、ある意味パワースポットのような不思議な力が働いてもおかしくないと言えるだろう」

 

「さすが、尾崎先生!マヨイガですか?」

奏太朗が膝を叩いて立ち上がる。

「なんか、凄い話になってきたな。函館と遠野が繋がるという。SFとかファンタジーではない、摩訶不思議なパラレルワールドみたいなものだね」

栗生姉が感心したように話す。

魔法だと騒いでいた、冬果と麻琴は顔を合わせて、「呪術的な感じ?」などと首をひねっている。

「つまり、元町という場所がクリオネ文筆堂に不思議なチカラを与えているという事ですね?春の運び屋さんとか来ているかもしれないね、亜弓ちゃん!」

桐山が目を輝かせて話す。

「もしかして、文筆堂に来るお客さんはヒトじゃないお客さんもいるという事ですね!」

青田亜弓も桐山にノセられて、話し出す。

 

「あのね、ここだけの話だけど、栗生姉にいさんは円盤人なんだよ!ホラ右手の人差し指がいつも立っているでしょ?」

麻琴が真剣な顔で話すので、夏妃と野本直美は必死に笑いをこらえている。

「円盤人?」

冬果と奏太朗、青田亜弓と桐山、松原みのりが眉をひそめて声を合わせるように絞り出した。

「平成生まれの私たちは、知らないよね?後で、キチンとした証拠を見せてあげるよ」

「いつから平成生まれになったんだい、麻琴ちゃん?」

麻琴がそう言うので、すかさず栗生姉が返した。

 

クリオネ文筆堂は、今日も笑いが絶えませんでした。

 

END

 

今回の箱館ストーリーはいかがだったでしょうか?

これにて、男子恋バナ編は完結となります。

まだ尾崎先生と野本直美の馴れ初め話がまだですが、いずれどこかで語られる事でしょう。

さて、この後はどうなるのか?

次回の物語まで、お待ち下さい。


「函館洋菓子スナッフルスのチーズオムレット」

新鮮な素材と物づくりにこだわった、函館の人気スイーツ!

まるで半熟オムレツのように、とろけるような口溶けのスフレタイプのチーズオムレット。北海道産の原材料を使用し、冷凍は一切せずに毎日焼き立てを提供している。

お土産として人気で、赤レンガ倉庫の中にあるお店では、作りたてを食べることが出来る。


「ふらいんぐうぃっち」


高校入学をすることになった木幡真琴は、15歳の春に一人前の魔女になる為、黒猫のチトと一緒に青森県弘前の親戚の家に引っ越してくる。

日常の世界の中で、時折起こるちょっと不思議な出来事と魔女の修行の物語だが、難しい事は何もなく魔女の修行はほどほどに、みんなが楽しく過ごしている姿を描く。

アニメ化もされ原作のコミックスは、毎年夏に発売される人気の作品。


「マヨイガ」

「遠野にては山中の不思議なる家をマヨイガという。」(『遠野物語』63話) マヨイガは山中の異界に存在するとされる幻の家で、稀に出現して訪れた者に富をもたらすとの伝説がある。 異界とは自分たちが所属していると認識する時空間の外側にある世界のこと。

「円盤人」

栗生姉が大事に保管している、「円盤人の見分け方」が書かれている資料。

あなたの周りに小指を立てている人は、いませんか?

もし居たら、その人は「円盤人」かもしれません。