箱館クリオネ文筆堂のキャラクター達、さらに踏み込みまして…

今回は、栗生姉&奏太朗&桐山卓也の物語となります!

栗生姉と奏太朗と桐山卓也は3人で波乃に宿泊し、温泉を楽しみました。

栗生姉は若い2人の恋の悩みに耳を傾け、やがて人生相談となり夜がふけるまで男子3人による語らいが続いたのです…。

それでは、栗生姉&奏太朗&桐山卓也の物語をお楽しみ下さい。

箱館ストーリー「クリオネ文筆堂・栗生姉&奏太朗&桐山卓也の物語」

 

奏太朗と桐山卓也は、尾崎から波乃の宿泊券を受け取り、「自分たちが波乃の宿泊券を貰うのは間違いではないのか?」と、戸惑いを隠せないでいた。

2人は、函館の未来どころか自分たちの未来もよく分からないままであり、松原みのりとの出会いで恋人の冬果や青田亜弓が変わっていく様子を間近で見ながらも、自分は何が出来るのか?どうすればいいのか?と悩み苦しんでいたのだ。

そんな2人の心の内を読んでいた尾崎は、「波乃に行けば、君たちの悩みはきっと解決するだろう!」と答えた。

それでも、奏太朗と桐山卓也はどうにもモヤモヤした気持ちが晴れず、栗生姉に相談した。

そして、栗生姉と奏太朗と桐山卓也の3人で波乃を訪れることにし予約を取り、栗生姉が2人の親に説明し了承を得た。

 

当日、3人は市電に乗り湯の川温泉電停で降りて、ゆっくりと歩いて松原みのりの実家である湯の川温泉旅館・波乃の門をくぐった。

電停まで迎えに行くという松原みのりの申し出を断った3人は、玄関で松原親子の出迎えを受け、固まったままの奏太朗と桐山卓也を尻目に栗生姉が挨拶している。

波乃の自慢の松の間に通された3人だったが、緊張からか栗生姉がオタオタしている姿を初めて見た、奏太朗と桐山卓也だった。

その様子を見かねた女将で母親の松原ちなみは、「みのり、先にお茶をお出ししなさい!」と言うと、松原みのりは背筋を伸ばし「ハイ!」と返事をすると、深々と一礼して松の間から出ていった。

 

3人は黙って、松原みのりの仕草を見ていたが、和室のマナーなど知る由もなく栗生姉は素直にその事を詫びたが、ますます恐縮してしまった奏太朗と桐山卓也は顔を上げることも出来ないでいた。

仲居と一緒にお茶を持って来た松原みのりは、松の間での妙な雰囲気を素早く察して声をかけた。

「奏太朗にいさん、卓也くん、ごめんね~ガラナもレモンスカッシュもないの!でも、千秋庵の和フィナンシェの美味しさを味わうためにも、今回はお茶でガマンしてね。大丈夫、お抹茶じゃないから作法もいらないし。栗生姉にいさんのエスプレッソもないんだわ。でも今日で良かったよ、麻琴ねぇさんの後に来たら和フィナンシェ無くなっていたかも?」

屈託ない笑顔で話す松原みのりに、ようやく3人は緊張の糸がほどけた様子で、松原ちなみもようやくホッとし、娘のやりとりに注意することも忘れていた。

 

その後3人は、一旦波乃を出て近くのコンビニへと向かった。

「いやぁ~話には聞いていたが、みのりちゃんのお母さんである女将さんは美人だね!着物姿がとても良く似合っていたし、みのりちゃんも文筆堂では見たことのない凜とした姿が素敵だったよ」

波乃を振り返って見た後に、栗生姉はそうつぶやいた。

「栗生姉にいさん、ずっと見とれてしまい言葉も出ませんでした」

奏太朗がうなづきながら答えると桐山卓也もそれに答えた。

「僕は、緊張して2人の顔を見れませんでした。みのりちゃんも着物を着たらもっと…」

3人はそれ以上は言葉も出なく、3人はトボトボと歩いた。

コンビニでは、奏太朗と桐山卓也はガラナやレモンスカッシュを買い求め、栗生姉ウイスキーハイボールを買っていた。

波乃に戻った3人は、それぞれ温泉を楽しみ豪華過ぎる夕食に目を丸くし、夜がふけるまでお互いの胸の内をさらけ出した。

 

口火を切ったのは奏太朗だった…

奏太朗は、ただ漠然と大学に進学したことを悔やんでいた。

「栗生姉にいさん!僕はもっと早く文筆堂のメンバーと出会っていたら、別な進路があったのではないか?とずっと考えていました。いつもその事で悩んでいて、冬果は僕と同じ大学に入ると言ってくれますが、僕がこうだからこそ冬果にはもっと将来をしっかりと考えてほしいのです」

そう言うと奏太朗は、氷が入ったグラスに注いだガラナを一口二口と飲み心を落ち着かせようとしていた。

 

栗生姉はグラスに入れたハイボールを一口飲むと、真剣な目で奏太朗を見た。

「奏ちゃん、まず自分を悪く思うのはやめよう!直美ちゃんと市電で出会った時には既に大学生だったろ?冬果ちゃんが石川啄木の一握の砂を渡してくれなかったら、直美ちゃんとも尾崎先生とも出会えなかったかもしれない。そうなると、僕や卓也くんとも出会いがなかったかもしれない。しかし、僕らは出会った!だから、奏ちゃんの進路は正しかったのだよ。そして、これから大学で何を学び将来どうするのかは、自ずと結果が出ているはずだ。

それが分からない内はもがき苦しむ事になるだろう、しかし今の奏ちゃんにはもがき苦しむ事が必要なんじゃないのかな?その経験がきっと役に立つはずだ。冬果ちゃんは、みのりちゃんとの出会いで自分を見つめ直すキッカケになっているはずだ!もしかしたら、奏ちゃんと同じ大学に進まないかもしれない?そうなると2人は終わりかい?違うだろ。冬果ちゃんに遅れないように自分自身を何度も見直し前に進むことだね」

そう言うと、栗生姉は奏太朗と固い握手を交わした。

 

その横で、2人のやり取りを聞いていた桐山卓也は、とっくに空になっていたレモンスカッシュの缶を再び口につけ、中身が無いことに気が付かず飲んだつもりになっていた…

「僕は、高校を卒業したらデザイン系の専門学校に進学しようと思います。唯一の特技とも言えるイラスト制作は、あくまで自己流なので基礎や技術をしっかりと勉強し、文筆堂や直美ねぇさんの仕事を手伝いたいと思っているのです。僕は、麻琴ねぇさんのようになりたい!そう思うようになりました」

奏太朗と違い、桐山卓也はしっかりと自分のやりたい事を見つけていたのだった。

商業デザインを得意とする麻琴は、新商品のロゴやPR戦略などの仕事をしており、それを支えているのが夫である亮介のIT会社で、最新のオリジナルパソコンやデーター解析など麻琴の仕事や所属するデザイン会社のハード面をバックアップしている。

イラストが得意な桐山卓也だが、麻琴のような仕事は自分には出来ないと思いながらも、恋人の青田亜弓や松原みのりとの出会いが自分をも変えたのだと思っていた。

「間近に居る人こそ、勉強になるのだ!」と桐山卓也は、逸る気持ちを抑えきれないでいた。

 

ちょうど、奏太朗と桐山卓也がそれぞれの心の内を話し終えた頃、松の間の入口から声がした。

廊下には、女将の松原ちなみと松原みのりが立っており、「何か不便なことはないか?」と訪ねて来たのだった。

栗生姉2人を招き入れると、改めて今日のお礼を述べて、このまま自分の話を2人に聞いてほしいと頭を下げた。

松原ちなみは真剣な目で栗生姉を見つめると、松原みのりと目を合わせ2人は深い座礼をして栗生姉の言葉に耳を傾けた

それは、奏太朗と桐山卓也も同じく初めて聞く話だった。

 

栗生姉は、かつて康平に言われたことを、ゆっくりと話した。

「栗生姉さん!僕が言うべきではないかもしれないが、後から夏妃に怒られる前に言っておくよ。最近は、尾崎先生や直美ちゃんに甘えていないかい?今では文筆堂は若い仲間も増えたし賑やかになっている。それはとても良いことだ。親しき仲にも礼儀ありと言うように、僕らにとって、いや文筆堂の仲間にとっては尾崎先生や直美ちゃんは特別な存在ではないのかい?特に、直美ちゃんだ!直美ちゃんが居なければ、文筆堂の仲間はこんなには増えないし、僕や亮介くんも顔を出すことはなかったと思うよ。それに文筆堂の仲間はこれからも増えるだろう。この前、直美ちゃんが若い子たちにガツンと言ったんだろう?夏妃が家でわんわん泣きながら話をしてくれたよ。直美ちゃんが、私や麻琴ちゃんの想いを代弁してくれたと言ってね。それに、夏妃や麻琴ちゃんを尊敬していると直美ちゃんは言ってくれたと、あの後、麻琴ちゃんと大泣きしたそうだよ。でもね栗生姉さん、文筆堂があるから直美ちゃんも尾崎先生も自分たちがやろうとしている事が出来るのではないのかな?それに答えようと若い子たちも張り切っているのだろ?だから栗生姉さんには文筆堂のリーダーとして、しっかりしてもらわなければならないんだよ。若い子たちと一緒になってはしゃいでいては困るんだ」

それほどまでに、野本直美の存在は大きく自分は怒られて当然であり、リーダーとしての自覚がないままでいたこと、いつの間にかリーダーになっていたことを悩んでいると話した。

「なぜ、自分なのか?尾崎先生がリーダーならいいのに?いつもそう思っていました」

栗生姉は、ため息とともに吐き出した。

 

深い沈黙の後、奏太朗が口を開いた…

「栗生姉にいさん!文筆堂は麻琴ねぇさんがやって来て、今のようなスタイルになったと聞きましたが、実際はどうなんですか?栗生姉にいさんはもっと別な事をやりたかったのではないですか?良ければ、聞かせてほしいです」

「僕も、知りたいです!実は、亜弓ちゃんもそんな事を言っていました」

桐山卓也がそう言うと、奏太朗と松原親子は栗生姉を見つめるのだった。

 

「文筆堂は、元はたくさんの種類の本が並んだ小さなカフェで本が好きな女性が、廃墟となっていた和洋折衷の建物をリフォームしたもので、場所的にちょっと不便なところもあり、そのお店が無くなりしばらくそのままだったのを僕が譲り受けたんだよ…」

栗生姉は、またもやハイボールを飲み干すと、口調を変えていつものように話しだした。

 

「僕は、こだわりがあってね!同じようなままでは店を引き継ぐ意味がないと、いわゆる本屋さんではなく。扱うのは函館に関係した本ばかりで、自費出版などプロの作家ではない、あくまで個人の作品を置くようにしたんだよ。もちろん売上げなど期待もできないし自分の家で趣味の空間を開放して、分かってくれる人がいればそれでいい!そんな感じでやっていたんだ。そんな折、麻琴ちゃんが《函館の資料になるような書物を探している》と店を訪ねて来たんだよ。その後は何度かやって来るようになり、僕が書いた函館ストーリーを気に入ってくれて、それからいろいろと話しをするようになって夏妃ちゃんを連れて来て、《ここをサロンにするから飲み物ぐらい出せるように、コーヒーの淹れ方を勉強しろ!》って言われてね、参ったよ。その時に、クリオネ文筆堂となったのさ。そして麻琴ちゃんの紹介で直美ちゃんや尾崎先生、奏ちゃんと冬果ちゃんと亜弓ちゃんが来たんだよな。直美ちゃんのブログの取材で。やがて、亜弓ちゃんが卓也くんを連れて来て文筆堂は賑やかになっていく。こうして誰かとの繋がりで一人二人とやって来るようになり、でもたった一人で文筆堂にやって来たのは、松原みのりちゃんなんだ!」

栗生姉がそう言うと、奏太朗と桐山卓也が初めて松原みのりと会った日のことを思い出し、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

栗生姉は、女将の松原ちなみに向かっていつものように文筆堂に居るようなつもりで話してしまったと頭を下げた。

しかし、松原ちなみと松原みのりは真剣な目で栗生姉を見つめており、そのまま話が始まるのを待っており、それを理解した栗生姉は、話を続けた…

 

「でもね、こうして波乃に来て思ったのだが、主役は直美ちゃんでも尾崎先生でもないのではないか?みのりちゃんこそが、真の主役ではないのだろうか?と思ったよ。きっと梨湖ちゃん以上に、みのりちゃんはキレイになっていくだろう!確かに梨湖ちゃんは誰もがふり向くほどの美人だ、東京でモデルとして人気があったのもうなずける。しかし、みのりちゃんはダイヤモンドの原石のようなものだ。心技体のすべてを持った人間なんてそうそう居ないはずなんだ。しかし現実に目の前に野本直美と松原みのりという2人の人間が居る!僕らはとんでもない人と出会い関わっているのだ、そうだろ?だったら、僕らは尾崎先生のようになればいいのではないか?直美ちゃんをずっと支えて来た尾崎先生のように、奏ちゃんは冬果ちゃんと、卓也くんは亜弓ちゃんと一緒に、そして文筆堂のみんなで直美ちゃんやみのりちゃんを支えて夢を叶えてあげようじゃないか!」

そう言う栗生姉に、奏太朗と桐山卓也は大きく頷き、松原ちなみと松原みのりは大粒の涙を流し「ありがとうございます!」と何度も頭を下げるのだった。

 

翌日、晴れ晴れとした顔をした3人は、女将の松原ちなみと波乃の従業員に向かって御礼の言葉を伝えた。

若い従業員からは、栗生姉に「文筆堂に行ってもよいか?」と話があり、「波乃のようなおもてなしは出来ないが、いつでも大歓迎だ」と話すと、ワァー!と歓声が上がった。

すると、松原みのりが「どうせ梨湖ねぇさんが目当でしょ!」と口を尖らせる仕草をすると、若い男性従業員たちは「バレたかー!」とお袈裟に頭を掻き、賑やかな終わりとなった。

 

END


今回の箱館ストーリー「クリオネ文筆堂・栗生姉&奏太朗&桐山卓也の物語」は、いかがだったでしょうか?

これまで、それぞれのキャラクターがフルネームでの登場でしたが、栗生姉と奏太朗は、そのままです。

フルネームでの登場とするつもりでしたが、物語の内容からこのままでいいか?と考えそうしました。

ただ単に、面倒くさいだけだったのかもしれません(笑)

今回は大きなヤマ場もなく、淡々とストーリーが流れていきますが、この3人それぞれのキャラクターは、こんな感じでしょう。


さて、次は誰がどんな物語を見せてくれるのか?

どうぞお楽しみに!