箱館ストーリー「天使の微笑み」

 

ゴトゴトと走る路面電車の車窓から、キラキラと輝く街並みを黙って見つめる。

まるで、このままどこか知らない国へ紛れ込んでしまいそうな雰囲気に心が躍る。

僕は、小さい頃から路面電車の車窓から見る函館の風景が好きだった。

 

電車は、谷地頭電停を出発し、やがて大きくカーブして十字街電停へ到着。

「このまま、終点の湯の川まで行きたかったな…」

僕の短い旅は、ここまでだ。

 

「奏ちゃん、ラッピで待ってるから、早く来て!」

「やれやれ、冬果からの呼び出しだよ。それにこうしていきなり呼び出すのは、ご機嫌斜めの証拠だ」

僕は、ため息をつきながらも、走り去る電車の後ろ姿を見つめていた。

 

重い足取りで、ラッキーピエロ十字街銀座店へと足を進めた。

函館にはラッキーピエロは17店舗あるが、僕と冬果にとってラッピといえば、この十字街銀座店のことなんだ。

クリスマスって、大切な人と過ごす特別な日…。

そんな素敵な日が365日、毎日がハッピーでありますように!と、ラッピの店舗の中でもこの店はクリスマスグッズで溢れ、流れるメロディーもクリスマスー色に彩られていて、階段を上るとそこは夢の世界が広がり、ゆっくりと心温まる時間を過ごすことができる。

 

僕は、人気ナンバーワンのチャイニーズチキンバーガーのセットを注文し、2階席へと進んでいくと一番奥の席で、冬果がラッキーエッグバーガーを食べていた。

「奏ちゃん、コレあげる!あと、シルクソフト注文して来てね」

僕に半分食べたエッグバーガーを差し出し、僕の注文したセットメニューの中からラキポテをつまんで食べている。

「ハァー!」

僕はわざと大きなため息を漏らしたが、冬果は気にすることなくラキポテを食べている。

「僕のラキポテ、残っているかな?」

そんな独り言を言いながらも、シルクソフトを注文し再び席へと戻った。

冬果は、シルクソフトを僕の手から素早く奪い取ると、何やら左手でスマホをいじっている。

 

「奏ちゃん、何で私の写真を勝手にSNSに上げたの?」

冬果は怒りながらも、シルクソフトを舐めるのを止めない。

冬果のスマホには画面一杯に、女の子がハンバーガーを持ちニッコリと微笑む画像が写し出されていた。

「ん!似てるけどそれ冬果じゃないよ、ラッピでもないただのハンバーガーだし。そして本物はコレ」

僕は、自分のスマホの待ち受け画面を見せた。

そこには、冬果が満面の笑みでシルクソフトを持っている画像が写し出されている。

 

「奏ちゃん、わたしの待ち受けにしてんじゃん!」

さっきまで怒っていた冬果が、僕の顔を見てニヤニヤしている。

僕は、「しまった!」と心の中で舌打ちしたが後の祭りで、つい自分の待ち受け画面、それも冬果の画像を見せてしまった。


「それ、どこから見つけたの?」

何とかごまかそうと、僕も必死だ。

「ん~とね、亜弓が偶然ネットで見つけたと教えてくれたんだよ」

「亜弓ちゃんが?だから、それAI画像だよ。ハンバーガを持って微笑む可愛い女の子とかって、AIに生成させたんだろうな」

「ハンバーガを持って微笑む可愛い女の子って、わたしのことだよね奏ちゃん!」

「そっ、そだな…(しまった、つい本音を漏らした!だって冬果のあんな顔を見たら)

「もう、奏ちゃん分かってるじゃん!」

そう言うと冬果は僕のチャイニーズチキンバーガーからザンギを一つ取って食べた。

「なまら、うまい!」

 

僕たちを温かく見守るように、お店のサンタさんが微笑み、祝福するようにジングルベルのメロディーが聴こえてきた。

僕の目の前には、サンタクロースではなく、ニッコリと微笑む天使が座っている。

「冬果、愛しているよ!」

と僕は、耳元でつぶやくと、冬果は素早く僕の頬にキスをした。