今回も箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂物語」でお楽しみ下さい!

 

この箱館ストーリーは、定義がコロコロ変わっているようで申し訳ないのですが、基本的には、これまでの「長編:函館ストーリー」や「ぴいなつ作品:函館ストーリー」のキャラクターが再び物語に登場する!これが、箱館ストーリーの基本的な定義です。

 

ぴいなつちゃん、美蘭さんにより、可愛く素敵で魅力的なキャラクターが生まれ、一度きりの物語での登場ではなく、その後にどうしているのか?気になるなどの声にお答えするように、函館元町にある「箱館クリオネ文筆堂」を舞台に物語が続きます。

 

今回は、これまでのお馴染みキャラクターだけでなく、新しく女性が登場します!

さて、この女性は誰なのか?

どの、函館ストーリーに登場した人物なのか?

いよいよ物語の始まりです…

 

箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂物語」

 

函館山の麓にある、箱館クリオネ文筆堂は、早春のあたたかな日差しを浴びて、店内では上着を脱いでゆっくりとくつろぐ姿があった。

木枠のある窓の外を眺めると聖ヨハネ教会が見渡せ、チャチャ登りは春の名残り雪が薄っすらと積もっていた。

 

「あのーすみません!こちらは、一般の客でも利用できますか?」

キョロキョロと玄関から顔を覗かせ、一人の女性が文筆堂にやって来た。

慌てて、店長の栗生姉が「どうぞ!」と声をかける。

ショートカットで小柄な彼女は、背中と両膝を美しく伸ばしながら、ゆっくりと店内に入って来た。

スタイルの良さと明るい服装が、可愛らしさをより引き立てている。

 

「お客さん、観光の人ですか?」

栗生姉がそう聞くと、女性は大きな瞳をキラキラと輝かせながら、話しだした。

「私、地元民です!浪漫函館というブログでこのお店を知って、どーしても気になって来ちゃいました」

「この店は小さな文芸サロンで、フツーの本屋さんには置いていない自費出版の作品や手造りアクセサリーなどを扱っているよ。奥は喫茶コーナーでね」

栗生姉が自慢げにそう話すと、女性は珍しそうに店内を見渡していた。

「一通り見たら、奥のサロンへいらっしゃい。飲み物をあげるよ」

そう言うと、栗生姉は静かに店の奥へと歩いて行った。

 

「キレイな女の子だね、冬果ちゃんや亜弓ちゃん、桐山くんと同じ高校3年生ぐらいかな?」

尾崎が思わず声を漏らす。

「そうですね~!」

奏太朗と桐山が、同時に同じことを口にするが、目はさっきの女性を見ていた。

「おいおい、2人とも彼女に怒られるぞ!」

尾崎がからかうように声をかけるが、2人は固まったままだ。

そこへ、栗生姉がやって来て、先程のやりとりを教えた。

 

浪漫函館というブログは、かつては尾崎の教え子であり恋人の野本直美が、ガイドブックには載っていない函館の魅力を情報発信しているもので、地元の人々だけでなく観光客にも人気で、この箱館クリオネ文筆堂がブログで初めて紹介されたのだった。

 

「そうか、直美ちゃんのブログを見てくれたのか?」

尾崎が嬉しそうに話すと…

「おかげで、観光客がよく来てくれるようになったよ」

栗生姉も、それに答えた。

奏太朗と桐山はまだ固まっており、この2人の会話はどうやら聞こえていない。

 

女性は、上の方の棚にある本を取ろうとピョコンピョコンと飛んでいて、奏太朗と桐山が見ている事に気がついて、パッと顔を明るく変化させて奏太朗をチョイチョイと手招きして、本を指差して「とどかない…」と言った。

 

奏太朗が顔を真っ赤にして、棚から本を取り渡すと…

「えへへっありがとー!」と、はにかみながら笑う。

自然な笑顔が魅力的で、さらに可愛く見える。

奏太朗はゴニョゴニョと何かを言い、サロンに戻るが全員が先程のやりとりを見ていてボーゼンとしている。

 

「見たぞ!見たぞー!」

どこからともなく、麻琴がやって来た。

「なんだ!麻琴ちゃんかよ、どこから湧いてきたんだ?」

栗生姉が慌てて声を出す。

「栗生姉にいさん、麻琴ちゃんかよ!って、何よ。失礼ね、私は倉庫の片付けをしていたの。何なのさっきから皆んなで固まっちゃって、可愛い子を見るとスグこれなんだから…」

麻琴が口を尖らせ文句を言うので、それぞれがハッと!我に返る。

 

「やぁー麻琴ちゃん!お疲れ様。どうだい、クリオネ・スタイルでも?」

「尾崎先生、何をそんなにソワソワしているんですか?大丈夫、直美ちゃんならいませんよ。だいたい尾崎先生も尾崎先生よ…」

ブツブツと文句を言う麻琴だが、その時にちょうど女性がサロンに入って来た。

 

「あのーすみません。お邪魔します、この本なんですが…」

さっき、奏太朗が棚から取って渡した本だった。

「すみませんね、賑やかで。どうぞ、こちらへ!コーヒー、いやジュースでもお持ちしますね」

いそいそと栗生姉が店の奥へと消えていく。

 

「いらっしゃいませ!どうぞこちらへ。このお店は、初めてですか?」

さっきまで怒っていた麻琴が、優しく声をかける。

「私、浪漫函館というブログでこのお店を知って、どーしても気になって来ちゃいました。地元民なんですが、お家は郊外の方なのでこの辺には来ないし。今日はたまたまというか…」

「あっそうなんだ!う~ん高校生?」

「はい、高3です」

「可愛いね!モテるでしょ。彼氏は?」

「あー同級生で、森川っていう子と…」

「やっぱり、絶対に彼氏がいると思ったんだ。残念でした男子諸君!」

女子トークが続く中、麻琴がさらにヒートアップしていく。

 

「え~と、何ちゃんかな?ガッキーに似てるよね!ショートカットが可愛いよ」

「えっ、ありがとうございます。私、松原みのりと言います」

「みのりちゃん、私は麻琴と言います。ヨロシクね!こちらから、奏太朗くん。桐山くん。尾崎先生。今、来た人がここの店長の栗生姉にいさん」

「よ、よろしくお願いします」

松原みのりは、麻琴の圧倒的なノリに少し戸惑いながらも、挨拶をした。

「ちょっと、栗生姉にいさん!私のミルクティーは?お菓子もあるでしょ?」

「おいおい、麻琴ちゃんはいつもエスプレッソだろ?若い女の子に対抗しなくても…」

「失礼ね、私だってまだ若いんだから!ねぇ~奏ちゃん?」

あっという間に、場の雰囲気を変えてしまう麻琴に、松原みのりも笑顔をみせていた。

 

「驚いただろ?この店は、僕らの隠れ家的なお店でね。年齢も関係なくこうして皆んなが仲良しで、友達なんだよ」

尾崎が優しく語りかけるように話し、その横で桐山はウンウンと頷いていた。

「お店も、皆さんも、とても素敵だと思います。そういえば、私が来た時に皆さんで盛り上がっていましたよね!何かあったんですか?」

松原みのりが屈託のない笑顔で、そう聞いてくる。

「恋バナだよ、恋バナ。この前、この桐山くんが皆んなの前で愛の告白をしてね。それで今日は、奏太朗くんの馴れ初め話を聞いていたのさ」

栗生姉がニヤニヤしながら、先程まで盛り上がっていた男子トークをかいつまんで教えた。

 

真っ先に反応したのは、麻琴である。

「ちょっと、どーして私たちを呼ばないの?そんな面白い話、コソコソするなんてズルい!ねぇ~みのりちゃん、聞きたいよね?」

「麻琴ねぇさん、松原さんとは今日会ったばかりで…」

桐山が、慌てて松原みのりを庇うように麻琴を制する。

「ふ~ん、桐山くん。亜弓ちゃんのどんなところが好きだったのかな?あっ、青田亜弓ちゃん、桐山くんが愛の告白をした相手だよ。みのりちゃんと同じ高3で同級生だよ」

「そうなんですか?私も聞きたいです!」

 

「教室に来るのが結構早かったり、授業でプリント回す時の微笑とか、笑い方ってか笑顔が優しいところとか、リズミカルなステップで階段を下りるところです」

麻琴の勢いに乗り、桐山が青田亜弓への想いを口にした。

「ほう、亜弓ちゃんらしいね」

尾崎が言うと、皆んなが「ウンウン」とうなずいた。

「可愛い彼女さんですね、しっかりした感じで、私とは違うかな」

松原みのりが、そう言うとペロッと舌を出しはにかんだ。

 

「さぁ~次は奏ちゃんの番だね!でっ、冬果ちゃんのどこが好きなのかな?」

麻琴が歌うようにそう言うと、顔をニヤつかせ奏太朗を見た。

「もう~勘弁してくださいよ!麻琴ねぇさんには敵わないな…」

奏太朗がそう言うも、麻琴は無視して松原みのりに、奏太朗は1つ上の大学生で冬果という恋人が居るのだと教えていた。

「奏ちゃんは、市電で冬果ちゃんに一目惚れしたんだよな、でも他にも何かありそうだね」

尾崎も一緒に、はやし立てる。

「ますます、興味あります!大学生と高校生のカップルって、恋愛小説やマンガみたいじゃないですか?」

松原みのりもノリノリで、ぜひ聞かせてほしい!と懇願した。

 

「何でこうなるんだよ…」

奏太朗は、嫌そうな素振りを見せながらも、どこか嬉しそうに話し始める。

「冬果って、絶対そんなことするキャラじゃないのに、バレンタインの日に恥ずかしそうに手作りチョコくれたんですよ。そして目が泳いでいてず~っと照れてた。その時はマジで萌えた。顔が真っ赤になって本気で照れてた。普段はクールな方なのにその激しいギャップに萌えすぎて、頭ん中はいっぱいになって…」

「バレンタインの話、キター!それから、それから?」

麻琴がはしゃいでいる。

「冬果はチョコをくれたはいいが、《いつ食べるの?いつ食べるの?》としつこく聞いてくるし、《いいよ、一緒に食べよう!》と返した時の、あの満面の笑みをこぼした冬果が最強に可愛いくて…」

「うわぁ~!」

桐山と松原みのりが同時に声を上げると、麻琴はヒューヒューと奏太朗の脇腹を突いていた。

尾崎と栗生姉は何故かふたりとも顔を真赤にしていて、奏太朗は恥ずかしさにうつむいた。

 

「ただいまー!」

その時、キレイな声がこだました。

夏妃を先頭に野本直美と青田亜弓がやって来た。

奥のサロンは異常な盛り上がりで、三人は顔を合わせもう一度「ただいまー!」と言ってサロンにやって来た。

ようやく気がついた奏太朗が「おかえりなさい!」と声を出すと、栗生姉や麻琴たちもようやく気が付き、「おかえりー!」と言った。

「ここではね、来る時に《ただいまー!》と言って《おかえりー!》と答える。これは文筆堂の仲間たちの合言葉なんだよ」

尾崎が、松原みのりにそう説明すると、松原みのりはパッと顔を明るくして…

「素敵!とっても素敵。こういうのって、いいなぁ~」

松原みのりが嬉しそうに答えるのを見て、夏妃と野本直美と青田亜弓が嬉しそうに顔を見合わせる。

「あっ、新しいお客さん?とっても、可愛い人ね」

夏妃がそう言うと、松原みのりが立ち上がり挨拶をした。

  

END

 

 

今回の箱館ストーリーは、いかがだったでしょうか?

前回の男子恋バナ話からの続きで、一人の女性がお客として文筆堂にやって来るところから始まっています。

この女性は、松原みのりという名前で「函館ストーリー・夏色片想い」に出てくる女子高生で、やきそばパンがきっかけで同級生の森川くんと恋仲になる女の子です。

松原みのりの函館ストーリーは、下のリンクから入って下さい!

函館ストーリー「夏色片想い」

松原みのりは、朴念仁な森川くんをリードしながらも優しく接し、明るくて笑顔が素敵な、夏のヒマワリのような女性で、冬果ちゃんや青田亜弓ちゃん、桐山くんと同じ高3世代。

桐山くんが語る亜弓ちゃんとは自分はタイプが違うと言いますが、どちらかというと冬果ちゃんタイプの松原みのりちゃん。

恋バナで大盛り上がりの文筆堂に、夏妃と野本直美と青田亜弓がやって来ましたが、冬果ちゃん一人だけがまだ来ていません!

 

この後はどうなるのか?

次回の物語まで、お待ち下さい。