今回の函館ストーリーは、夏限定の物語です。

コロナ禍の今、僕の愛する高校生と中学生の姪っ子に、アオハル気分を楽しんでもらいたい!

そんな想いから、この物語を創作しました。

この物語は、僕が高校の放送部の後輩に依頼されて書いた、ラジオドラマが原作です。

後輩たちは、「Dream」というタイトルを付けて、高校生の夢をテーマにラジオドラマを作り、見事に優良賞を取りました。

当時は主人公には名前がなく、彼と彼女というだけで、作中に出てくるのはカレーパンでした。

ラストは、高校を卒業した記念旅行に地図にピンを投げて行き先を決めるという、ダーツの旅を先取りした内容となっています。

一度、この原作はカレーパンからメロンパンへと変わり、「僕と彼女とメロンパン」というタイトルでショートストーリーとして公開しました。

そして、今回…

設定を見直し、函館ストーリーとして新たに生まれ変わりました。

どうぞ、お楽しみ下さい!


 函館ストーリー「夏色片想い」

とっても、さわやかな明るい午後だ。

青い空には、白い羊雲…

そして、吹いてくる風はとてもシンプルでやさしい。

僕は、彼女が待っているラッキーピエロ・マリーナ末広店へと急いでいた。

彼女と出会ったのは、ちょうど1年前。

そう、こんな夏の日だった。

 

ある気持ちの良い、初夏の日の放課後…

僕は一人でガランとした教室の中に残っていた。

いや、帰ろうとしたら教室の窓から心地よい風が吹き込んできて、《夏が来たー!》と思ってずっと外を眺めていたんだ。

ふと我に返ったら、なんだか急に腹がへってきた。

《学校の売店で、やきそばパンを買って食べよう!》

僕はいま、やきそばパンに凝っているのだ。

 

「森川くん、どこ行くの?」

「売店!」

「売店、もうやってないよー」

同級生の松原みのりが、教室の入口で声を掛けてきた。

どちらかといえば小柄な彼女だが、背中と両膝を美しく伸ばしながら歩くのでスタイルの良さが際立ち、実際より背が高く見える。

もともとショートカットだった髪を少し伸ばし、きれいにまとめた姿が、松原みのりの可愛らしさをより引き立てていた。

そして、大きな瞳をキラキラと輝かせながら、僕に話しかけてきた。

 

「今日、売店お昼で終わりだってー」

「チェッ、腹へったな~」

「お弁当、2時間目に食べちゃうからだよ」

「だって、朝食ってなかったから…」

「寝坊したんだー(笑)」

「それ、言うな!」

「お昼は、どうしたの?」

「やきそばパン、食った!」

「今、何たべたいの?」

「やきそばパン!」

「ねぇ、そんなに好きなの?」

「腹へったよぉ~」

「私、今から外に行くけど買って来てあげようか?」

「マジか?」

「ほんとに、やきそばパン?」

「ほんとに、やきそばパン!」

 

僕は、彼女にお金を渡した。

教室の窓から強い陽射しとともに、南風が吹き込んできた。

どうやら、夏が上陸したようだ。

《今年の函館は、熱くなる!》

そんな予感がした。

「遅いなぁ~」

僕は、待ちくたびれて大きなアクビをした。

そこへ…

 

「はい、メロンパン!」

「えっ?」

「アハハッ、その顔ウケる(笑)」

「チェッ、遅いじゃん!」

「なによー!せっかく買ってきてあげたのに…」

「ごめん…」

「森川くん!ほんとは売店が終わりって、アレ嘘だったの、ごめんね」

「えっ、マジ!」

「ねぇ~!一緒に食べよう」

そう言った彼女の手には、やきそばパンがあった…

 

「待った?」

「う~ん、ちょっとだけー!」

「ごめん…」

「また、ラッキーエッグバーガー?やきそばパンじゃないじゃん(笑)」

「いや、ラッピで売ってないし。ラキポテあげるから、コレ食べたら行こう?」

「う~ん、でもラキポテだけじゃ~な~」

「エッ?何、なに?」

「遅刻した罰として、おかわりのラッキーシェイクは森川くんのおごりー!」

「分かった、何杯でもいいよ」

 

僕らは赤レンガ倉庫の前にあるラッキーピエロ・マリーナ末広店を出て、八幡坂から元町を目指して石畳の坂を上りだした。

それは1年前と同じ太陽が、僕らを明るく照らした、ある夏の日の午後だった。

 

END

  

今回の物語、「夏色片想い」は、お楽しみいただけましたか?

函館ストーリーの番外編で、ぴいなつちゃんに登場人物の名前など監修をお願いしました。

待ち合わせ場所に遅れていて先を急ぐ彼が、彼女との出会いとなったシーンを回想するところから始まる物語です。

この出会いは偶然ではなく、彼(森川くん)に片思いの、彼女(松原みのり)が作ったシチュエーションでした。

明るく積極的な彼女と朴訥な彼ですが、彼女の手にある同じやきそばパンがきっかけで、やがて2人は恋に発展します。

その後、1年以上も仲の良い関係は続いていますが、朴念仁な彼の性格は相変わらず…

そして、そんな彼をリードしながらも優しく接する彼女は、明るくて笑顔が素敵な、夏のヒマワリのような女性なのです。

この物語に、エンディングの曲を付けるなら、コレでしょう!

SOUL LOVE」GLAY

この物語とこの歌を、僕の愛する姉妹と、同じ世代の若者の皆さん贈ります。