今回の函館ストーリーは、趣向を変えてクリオネ文筆堂が舞台となります。

函館の元町に、クリオネ文筆堂というお店があったとして…

店長(クリオネ)と、ぴいなつちゃんや美蘭さんが、登場します!

既に、ぴいなつちゃんや美蘭さんは、「麻琴」「夏妃」という名前で、それぞれの物語に登場しており、今回も同じ名前で物語の続きとして登場し、「5月の陽は萌ゆる~ピリカ・ウヌカル」の続編の世界へとワープします。

もちろん、尾崎先生や野本直美、奏ちゃんや冬果ちゃん、そして青田さん…

前回の物語の続きとして、お馴染みのキャラクターも登場しています。

時計の針を少し逆に回して、ひとときの世界へ!

そこには、美蘭さんの朗読によるお馴染みのキャラクターが、雄弁に語り掛ける声が聞こえます。

それでは、箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂」をお楽しみ下さい!

箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂」


函館にあるクリオネ文筆堂は、チャチャ登りの坂道の途中にあり、聖ヨハネ教会を店内から間近に見ることが出来る小さな文芸サロンで、フツーの本屋さんには置いていない自費出版の作品や手造りアクセサリーを扱っていて、他には店長やスタッフが書いた物語や朗読作品を見ることができる…

今回の函館ストーリーは、そんな「クリオネ文筆堂」を舞台にした物語となります。

 

皆さん、こんにちは!

函館の“懐かしさを訪ね歩く!浪漫函館”、ナビゲーターの野本直美です。

函館の観光スポットのほとんどは路面電車でまわることができます。

元町、ベイエリア、五稜郭、湯の川温泉へと、ガタコトと車体を揺らして走る路面電車で、のんびりスローな旅をしませんか?

この浪漫函館では、観光パンフレットに掲載されない、小さな函館をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、【文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂】という小さなお店です…

 

「奏ちゃん、冬果ちゃん、こんな出だしでどうかな?尾崎先生には先に見せてOK!をもらっているけど…」

「直美さん、とても素敵です!」

「もう~奏ちゃん、わたしのセリフ取らないで!直美さん、バッチリ」

「2人とも、ありがとー!青田さんは、どう?」

「はい、とてもいいと思います」

 

ちょうど夏休みに入り、奏太朗と冬果は、野本直美がやっている函館の魅力を紹介するブログの手伝いをしていて、今日は野本直美の恩師である尾崎先生や、冬果のお友達の青田さんも駆けつけ、ブログの第一号となる記事の取材を兼ねて、一緒に【文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂】というお店に来ていた。

4人は、野本直美からの紹介で来ていたが、誰もこのお店のことを知らず、それは野本直美が言う“観光パンフレットに掲載されない小さな函館”であった。

「初めて訪れたのに、懐かしい感じがする素敵なお店だね、直美ちゃん」

尾崎先生の言葉に、僕や青田さんは大きく頷き、冬果は落ち着きなく店内を見渡している。

「冬果、失礼だろ!」

「だって、奏ちゃん!ウチとはぜんぜん違うな~って」

「冬果ちゃんちの古本屋さん、わたし好きだけどな」

青田さんがスグに助け舟を出してくれた。

 

文筆堂の店長は栗生姉という男性で、栗生姉(クリオネ)だからクリオネ文筆堂なのだという。

他に麻琴さんと夏妃さんという2人の女性スタッフがいる。

麻琴さんと夏妃さんは、それぞれ仕事をしており、休みや合間に文筆堂を手伝っているそうで、麻琴さんはデザイン事務所で働いていて、夏妃さんは5月の終わりに函館に引っ越して来て医療や福祉の仕事をしている。

麻琴さんと夏妃さんは、たまたま訪れた文筆堂にて知り合い、今では姉妹のような関係だという。


野本直美さんは函館の観光パンフレットの作成で麻琴さんに出会い、麻琴さんの紹介で文筆堂にて夏妃さんと出会った。

何やら複雑になったが、今こうして今度は僕たちが野本直美さんの紹介で、店長さんや麻琴さんや夏妃さんと知り合うことが出来た。

僕が市電で野本直美さんと出会い、それからこうして函館を愛する素敵な人たちと知り合いになれるなんて、まるで夢のようだ!

僕と冬果も市電で出会ったが、函館の市電は縁結びのご利益があるのだろうか?

冬果は、「直美さんは、きっとキューピッドなんだよ!」と、最近はよくそう口にする。

オイオイ、前は「直美さんは、座敷童子なんだよ!」と言ってなかったか?

 

「今日は、貸し切りですから、ゆっくりしていって下さい」

と、店長さんがみんなをサロンへと導いてくれた。

夏妃さんがみんなにコーヒーを淹れてくれて、冬果と青田さんには手作りのハスカップジュースを出してくれた。

そして、麻琴さんが用意してくれたのはシャインマスカットのタルトで、「ごめん、ハスカップジュースとダブっちゃったね」と苦笑いしていたが、冬果と青田さんはシャインマスカットのタルトを見て、キャッキャッと喜んでいて麻琴さんの声が届いていないようだ。

尾崎先生と店長さんが、そんな2人に「僕の分も食べるかい?」と言ってくれたが、「青田さんはともかく、冬果にこれ以上エサを与えないでください」と言うと、「奏ちゃんのイジワル!」と口を尖らせる。

まぁまぁ~とすかさず直美さんが間に入ってくれ、一つ残っていたタルトを冬果と青田さんが2人で食べるということで落ち着いた。

尾崎先生と店長さんは笑っていたが、麻琴さんと夏妃さんは複雑な表情をしていて、直美さんが上手く説明してくれた。

また、サロンには、夏妃さんの旦那さんである康平さんが作る手造りアクセサリーなどが並べてあり、冬果と青田さんは目を丸くして見入っている。

お互いの紹介を兼ねたお茶会も終わり、いよいよ直美さんが取材を始めたので、僕らは黙って聞いていた。

文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂は、店長さんや麻琴さんが書いた物語や夏妃さんが朗読した作品などが並べられていて、それらを自由に閲覧できた。

また、夏妃さんが撮影した写真なども展示され、それぞれの個性が際立っているアートな空間とくつろぎのサロンがあり、居心地の良い雰囲気の素敵なお店だった。

麻琴さんが紹介する函館のデザートも人気で、隠れ家的な存在となっているらしい。

 

麻琴さんは夏妃さんに背中を押され、物語を書き始めたそうだが、とてもチャーミングで可愛い物語は特に女性に人気で、それを夏妃さんが朗読している事もあり、冬果と青田さんは「もう~キュンキュンする~!」とベタ褒めだ。

そしてなんと、冬果と青田さんは、麻琴さんから新しい物語の創作に参加しないか?と誘われ舞い上がり、冬果は店の隅でダンスを踊るように喜んでいる。

尾崎先生は店長さんから頼まれて、函館にまつわるコラムを書くことになり、直美さんもそれを手伝うという。

僕だけ一人残された気分の中、麻琴さんと夏妃さんから声を掛けられ、僕も短い函館の物語を書いてみることになった。

直美さんにも背中を押され、僕は「ハイ!」と大きく返事をした。

すかさず冬果がやって来て…

「奏ちゃんの周りには、どーして綺麗な大人の女性が集まるの?直美さんでしょ、麻琴さんに夏妃さんに、ずるいよ」

「冬果だって、尾崎先生と店長さんがいるじゃないか?2人ともダンディだろ」

「もうー奏ちゃんのバカ!」

「あっ、青田さん、これいつものアレですからご心配なく」

「冬果たち、いつも、こんななの?」

何やらゴモゴモ言う青田さんに向かって冬果は…

「ねぇ~ねぇ~桐山君ってさ~同級生とか言って、ほんとはボーイフレンドでしょう?」

と切り出した。

「ほう~これがアオハルってやつだな、直美ちゃん」

「もう~尾崎先生まで、からかわないでください」

顔を真っ赤にして照れる青田さんに、みんなが微笑んでいると、店長さんが「これこそ、ピリカ・ウヌカルだな」と大きく頷いた。

 

“ピリカ・ウヌカル”とは、アイヌ語の造語で“素敵な出会い”という意味を持つ。

野本直美が、奏太朗や冬果と出会ったことから、アイヌ語でそう表現した。

やがて、その素敵な出会いは、このように広がりを持ち、みんなの合言葉のようになっている。

 

「そうだ…尾崎先生、店長さん、ちょっと聞いてくれますか?僕と冬果、そして青田さんの3人が初めて尾崎先生と直美さんに会った日の夜に、同じ夢を見たのです。夢の中に小さな女の子が出てきて、可愛い声でピリカ・ウヌカル、ピリカ・ウヌカルと繰り返し喋っていて、冬果は座敷童子が夢に現れたと言っていますが、僕と青田さんはいにしえの縄文時代の女の子が何かメッセージを伝えているのではないかと思っているのですが、どう思いますか?」

尾崎先生と店長さんは、顔を寄せて何やら真剣に話をしていた。

やがて、尾崎先生が口を開くと…

 
「奏ちゃん、冬果ちゃん、青田さん、君たちの感じることはどちらも正しいと思うよ。冬果ちゃんは座敷童子だという、奏ちゃんや青田さんはいわゆる縄文時代の精霊のようなものだと感じたのだろう。僕と直美ちゃんは岩手県の出身で、石川啄木が縁で奏ちゃんや冬果ちゃんと知り合った。そして、青田さんとは縄文文化を通して僕と直美ちゃんや奏ちゃんと知り合った。とても偶然とは思えない何かの導きかもしれない。それがアイヌなのか縄文なのかは分からないが、今日はこうして店長さんや麻琴さん夏妃さんという、素敵な人たちと出会えた。こんな素敵な出会い、ピリカ・ウヌカルは冬果ちゃんが言うように、座敷童子かキューピッドが導いてくれたのかもしれないね。ここは函館の元町、異国情緒が色濃く残るレトロな街で、僕らはまるでどこか知らない国へ紛れ込んだ旅人のようじゃないか?」

 

「そうですね、尾崎先生。冬果ちゃん、座敷童子も西洋のキューピッドも幸運を招くという意味では同じだと思う。だから、私たちの出会いが直美さんによってもたらされたのなら、直美さんは座敷童子でありキューピッドということでいいと思うよ」

夏妃さんからそう言われると、僕と冬果と青田さんは、まるで霞が晴れるような、そんな気分だった。

朗読をしている夏妃さんの声は、函館山を吹き下ろす透き通った風のように心地よかった。

店長さんが言う、夏妃さんの七色の声を直接、感じることができた。

直美さんは、照れたような恥ずかしさを隠すような仕草で、何かを言いたそうに尾崎先生を見つめていて、それに答えるように尾崎先生は小さく首を振っていたのが印象的で、やはり直美さんはミステリアスな何かを隠し持っているのかもしれない。

 
店長さんは、僕らが石川啄木の足跡めぐりや世界遺産となった北海道・北東北の縄文遺跡のことで、こうして知り合ったことに感銘を受けたと喜び、青田さんが文化祭で作った縄文文化の資料や、直美さんと僕が啄木の足跡めぐりをした時の様子をまとめたものを、お店で展示すると言ってくれた。

 

こうして、みんなの夢を形にしたような手作りのモノたちは姿や形が違えども、函館の魅力を詰め込み、車で通り過ぎるだけでは決して見つからない、歩いてみればよく分かる出会いと発見を見つけるキッカケになってくれると、そう信じている。

「ピリカ・ウヌカル」これは、魔法の合い()言葉なんだ。

 

END

 

箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂」は、お楽しみいただけましたか?

「今回は、クリオネ文筆堂が舞台となる物語だから、店長の名前を考えてくれ!」と、ぴいなつちゃんにお願いしましたが、物語の内容までは伝えていませんでした。

公開後に、ぴいなつちゃんの鬼校正が入りますし、美蘭さんのアドバイスを受け、物語はまた変化しますので、どうぞ何度でもお楽しみ下さい。

店長の名前が届く前に既に物語は進んでおり、実際には5月の陽は萌ゆる~ピリカ・ウヌカル』の続編という形であらすじを書き、ぴいなつちゃんと美蘭さんをどのように絡ませるかを考えました。

既に、2人は『行き暮れて、行き着いて!』『彼女が電話を掛ける場合』という作品で、(ぴいなつちゃん)と夏妃(美蘭さん)として主役を演じており、今回も同じ名前で登場しています。

『5月の陽は萌ゆる~ピリカ・ウヌカル』の続編となる、今回の物語…

美蘭さんの朗読作品がありますから、そちらを視聴された後に、この物語をお楽しみ下さい!