札幌ストーリー「愛の媚薬」

東京からやって来た彼女は、彼との待ち合わせの時間より早めに札幌に着いていた。

冬の札幌は初めてという事もあり、1人でいろいろと散策をするつもりだ。


札幌駅北口から歩いて15分ぐらい、北海道大学にやって来た。

実際は、10分もかからない道だが、しばれる道路が彼女の足を遅らせた。

ポプラ並木が美しいと、彼から聞いていた…

72本ものポプラの木が空高くそびえる、北大のシンボルスポットだ。

木々の合間から雪がちらつき、ウッドチップが敷き詰められた道は白く輝いている。


札幌駅に戻った彼女は、パセオにある横井珈琲にて、フレンチコーヒーと生ハムサンドを食べた。

少し休んだ後、雑貨やファッションフロアーを見て回り、大通りに向かって歩き出した。

札幌駅から大通りの中間ぐらいに時計台があり、ちょうど鐘の音で時を伝えてくれた。

「いい時間ね」

彼女は時計台を眺めながら、そうつぶやくと彼が待つマンションへと足を早めた…



「悪いけど、ちょっとシャワーを浴びてくるよ」

「ねぇ、人を呼び出しておいて、いきなり?」

「いろいろと忙しくて汗をかいたのさ」

「そのわりには、部屋は片付いていないけど…」

彼女の声を背中に受けながら、僕はシャワールームで汗を流した。


部屋に戻ると、彼女はベッドに仰向けに寝て目を閉じている。

ベッドの側に立ち彼女を見下ろすと、気配を感じたのか目を開け「静かね」と、彼女は言った。

心地よく深みのある、落ち着いた声だ。

三十歳をこえたばかりの、彼女の年齢にふさわしい。


僕は、無言で彼女の口をふさぐようにキスをした。

水玉のワンピースのスカートに手を入れると、下着を履いていなかった。

「ショーツなら、ジンと一緒に冷蔵庫に冷やしてあるわ」

彼女は、無邪気で粋なジョークをとばし、大げさにウインクをしてみせた。

「冷蔵庫、見たの?」

「ノドが乾いたからペリエでも飲もうとしたら、ジンが冷やしてあったわ」

「きみを素敵に酔わせようと思ってね」

そう言うと僕は、カクテルを作るための小道具を出してきた。

やがてベッドから起き上がった彼女は、ニッコリと微笑んだ。


彼女を見るほとんどの人が、彼女の事を美人だと言うだろう。

ハッキリした大きな動作で動く体は、きれいにバランスがとれている。

体つきやその動きかたには、開放的なおおらかさがあり、それが体の動きをほどなく中和し、優美な動きに見えるのだ。

静かに整った顔は、笑顔になるとそのとたんに、ぱっと華やぎ表情には、曇りがない。


「カクテルとか作れるの?」

「もちろん初めてだよ、でも自分で作るカクテルは、愛の媚薬のようなものさ」

「わたし、ブラッディマリーがいいわ」

「それは、ウォッカベースだろ、今回はジンフレーバーのカクテルだよ」

「ジン・フィズとか?」

僕は、それには答えず指一本を自分の口元に当てた。


静かに頷いた彼女を見ながら、僕は軽くステアしたタンブラーに、チェリーブランデーを静かに落とした。

「シンガポールスリング」

そう言うと、僕はテーブルに移動した彼女の前にできたばかりのカクテルを置いた。

「シンガポールスリング?」

小首をかしげる彼女と、僕は自分用に作ったジン・トニックで乾杯をした。


「シンガポールスリング、シンガポールなみの暑さをしのぐ、ということからネーミングされたカクテルさ」

「でも、媚薬カクテルで熱いSEXをするんじゃないの?」

「きみは下着を履いていないから、このままでいいさ」

「服を着たままなんて、何だかいけないことをしているみたいね」

「カクテルは基本的には食前酒だからね、アバンチュールは服を脱いでからさ」

「あなたの体力が持つといいわね」

そういうと彼女は、魅惑的な笑みを浮かべた。


END


今回の札幌ストーリー「愛の媚薬」はいかがだったでしょうか?

函館ストーリーとは違う、大人の物語です。


いつもは淡々と進む札幌ストーリーですが、今回はぴいなつ先生の監修の元、札幌の情景をいれて、函館ストーリーを真似てみました。


とはいえ、ぴいなつ先生には物語のことは内緒で「札幌のポプラ並木って有名なんでしょ?」とか「時計台は大通りに近いの?」とか、そんな些細な質問をしました。


丁寧に、「ポプラ並木なら北大かな」とか「時計台は駅と大通りの中間ぐらい」と教えてくれたので、おかげで物語の冒頭部分が書けました。

もともと、彼女のシーンはなくて、いきなり彼の部屋から始まるという物語でしたが、どーしても札幌の情景が欲しくて、ぴいなつ先生のおかげで物語としての体裁ができたのでホッとしています。


それでは、次の札幌ストーリーで、また…