『湯玉よ、おまへも百年千年はじめて此山中に、赤坊のやうに生まれてきたのだ』 

(明治生まれの詩人・児玉花外の詩「暁の湯玉」より)

 

青森県にある蔦温泉は、多くの文人が滞在してきた。 

中でも代表格といえば大町桂月だろう。 

すっかり惚れ込み、幾度も訪れては滞在し、晩年には本籍をこの地に移してしまった。 

児玉花外はその桂月の友人だったようで蔦温泉に根を生やして居続ける桂月をよく訪ねたという… 

その時できた、つぶやきのような詩のひとつが「湯玉よ…」

蔦温泉は源泉の上にじかに湯船が造られていて、そこから湯が湧いている。 

その湯は、注ぎ口から湯船に注がれているのではない! 

ここの風呂は、湯船に浸かっていると、ブナの底板の間から、ぶくっ、ぶくっ、と熱い湯が玉になって沸き上がってくる。 

これが湯玉なのだ! 

長い歳月、地球に温められた湯が、今まさに生まれた瞬間である。