今回の函館ストーリーは、「七夕」をテーマにした、ショートストーリーです。

一般的に「七夕」と言えば、77日であり織姫と彦星が出会うという、アレです!

「七夕まつり」は7月7日に行われるものだと思いますが、北海道では8月7日が七夕という地域が多く、東北の仙台でも87日が七夕で、全国的にもこのように旧暦で七夕を祝う地域とに分かれます。

これは、昔は「七夕まつり」は、お盆の行事だったことから来ています。

同じ北海道でも、函館では77日に「七夕まつり」が行われるので、この物語では「77日の七夕」という表現としました。

さて、今回の函館ストーリーは「七夕」がテーマと冒頭に書きましたように、織姫と彦星はちゃんと出会うのか?

どうぞ、お楽しみください!

 

 

函館ストーリー「The Moon. Stars and Lights

 

「ごめん、行けないんだ…」

「仕事なら、仕方ないよ」

「ごめん」

「何度も謝らないで」

 

そうなんだ、僕はいま一人で函館にいる。

本当は…

週末の函館旅行、それは彼女へのバースディプレゼントのはずだった。

コロナ禍の中、仕事のスケジュールが二転三転し、宿泊予定の函館のホテルは営業を休んでいた。

僕らの恋の行方は、ポッカリと穴が開いたように宙ぶらりんのままだった。

 

たぶん…

気のせい、なのかな?

今日の夕焼け空は、特別にまぶしく感じた。

僕は、八幡坂のてっぺんから街を見下ろしてみた。

まだハッキリとは見えないイルミネーションが目に入った。

どのくらいの時間だろう?

僕は、時計もスマホも確かめず、ただゆったりとした時間の流れに身を任せていた。

しばらく八幡坂から函館の街を眺めていたら道行く観光客の話し声も聞こえなくなってきた。

イルミネーションはその輝きをさらに増し、今じゃーここからでもはっきり見える。

 

「あかり!」

って、僕は、思わず口に出してしまった。

でも、誰も聞いていないよな、気のせいじゃなくて…

ポケットに、あかりからの手紙が入っている。

いつもはメールだけど、それは初めて貰った、あかりからの手紙だった。

「こんにちは!」

と、まるで他人行儀な書き出しから始まる手紙を、僕は街灯の下で読みかえした。

 

手紙って…

でも いざ書くとなると恥ずかしくて

書いては消しての繰り返しなの。

素直に口にするのは難しいけど これなら。

 

私も もう少し伝えたい

っていうか

自分の気持ちを確認しておきたいから…

伝えることって 難しいね。

 

人が 人を好きになる。

それって

ほんのちょっとした きっかけからだと思うの。

 

だけど

いつもあなたは 私のすぐ近くにいてくれていると思う。

あなたを知るたび 私は自分を忘れるの

そよ風に踊る木の葉のように…

なんか 表現が変だよね。

だから

こんな風に なっちゃうの。

まるで 詩人?みたい ()

 

あなたが私を見つめる瞳が好き。

小舟を岸に結ぶように優しく包む温かい手が好き。

今 あなたとのときめき 波のように感じるの。

子供が絵本をめくるように 胸の扉が自然に開くの。

私 淡い影のように いつも あなたの影に慕っていくわ。

 

今 ちゃんと

伝えられているよね?

私 特にそういうのが不器用だから…

だったら こういうコミュニケーションもありだと思う。

 

何?

もしかしてそのまま「好き!」とでも言うと思ったの?

古い映画の一コマのように あなたと口づけしたら私から言うの

サイレント映画のように ひそやかにね。

 

すべての言葉が 綾取りのようだわ…

泣いた瞳が ウサギみたい。

ねぇ~笑わないで。

これで ちゃんとあなたが私に聞きたかった事の答えになってるのかな?

 

函館には 一日遅れで行くわ。

だから 私より先に函館に行って欲しいの この手紙が届いたら函館に向かってね。

私は その自分の手紙の跡を追いかけるように 函館へ向かうから。

八幡坂の真ん中で待っているから あなたは坂を下って来てね。

私は 坂を上って行くから

77日の七夕の日 夜の7時に会いましょう。

 

あかり

 

「あかり~!」

僕は、大声で叫びながら彼女が待っているであろう八幡坂の真ん中まで走りだした。

彼女の姿を見つけると手を振り、もう一度大声で名前を呼んだ。

あかりは今にも泣きだしそうな、それでも笑顔を作ろうとせつない表情で両手を伸ばしていた。

僕らは無言で、八幡坂の真ん中で抱き合った。

しばらくすると、あかりが…

 

「彦星がプレゼントくれないと、かっちゃくぞ~」

と、歌うように口を開くと、僕を見つめて軽く僕の頬をつねった。

「織姫さま、五島軒にディナーのご用意がございます!」

僕は、かしこまってそう言うと、深々とお辞儀をした。

七夕の夜、八幡坂は天の川であり僕らは1年ぶりに逢った織姫と彦星のようだ。

 

五島軒までの道のりをゆっくりと歩いていると…

《竹に~短冊~七夕まつり 大いに祝おう~ローソク一本ちょうだいな~》

どこからともなく、子供たちの歌声が聞こえてきた。

「かわいいね」

あかりが、僕の手をギュっと握っている。

夜空を見上げると月と星が光を増しライトアップにまばたく光は、まるで地上の星座のよう。

月と星と光の共演は、函館の街を彩り、僕らの未来を明るく照らしているようだ。

やがて、路面電車が想い出みたいに、ガタゴトと横切り走って行く音が遠く近く聞こえていた。

 

END

 

今回の、函館ストーリー「The Moon. Stars and Lightsは、お楽しみいただけましたか?

冒頭にも書きましたが、今回は「七夕」をテーマにしました。

タイトルは、悩みに悩んでThe Moon. Stars and Lightsとしました。

これは、「月と星と光の共演」という意味で、七夕にちなみ夜空に輝く星座と函館の夜景の光(地上の星座)の共演、これこそ七夕の函館の夜にふさわしいと思うのです。

今回の主人公「あかり」という女性ですが、名前はぴいなつちゃんに監修してもらいました。

《みんなのココロに灯りをともす》そんなイメージだそうです。

物語の内容も教えていないのに、見事に「あかり」という名前を付けるあたりが、まさしく魔女ぴいなつらしいと思います()

一方の「彼」には、名前がありません!

これは、男性の皆さんがご自分の名前を当てはめて、物語を楽しんでほしいからです。

もちろん、女性は好きな男性の名前を当てはめて、お楽しみください。

 

※「かっちゃく」とは、北海道弁で「ひっかく」の意味です。

「竹に短冊七夕まつり、大いに祝おうローソク一本ちょうだいな」は、函館の子供たちが七夕の日に、この歌を唄いながら近所を歩く七夕の行事です。

昔は小さな提灯を灯して歩いたので「ローソク一本ちょうだいな」と唄ったのですが、今ではローソクがお菓子へと変わっています。

これはハロウィーンと同じで、「トリック・オア・トリート」が「ローソク一本ちょうだいな」なのだと思います。

とはいえ、函館はとても可愛いらしい歌ですが…

ぴいなつちゃんのところは…

「ろうそく出せ、出せよ!出さないとかっちゃくぞ!おまけに噛みつくぞ!」

って唄うはず。

したはんで、ぴいなつちゃんは気が強いんだなす。

ヤバい、かっちゃがれる前に逃げろ~!

 

最後に…

「ぴいなつちゃん、お誕生日おめでとー!」

少し過ぎたけど、ごめんね。

でも、みんなでお祝いしてるから!

ところで、何歳になったの?

うわぁぁぁぁぁぁぁ~かっちゃがれる、逃げろ~ε≡≡ヘ( ´Д`)