母方の実家の近所で、それは起こった。 

その日は、通夜でたくさんの親類が集まっていた。

やがて、和尚さんが棺桶の前に座りお経を唱えだした…

一同、手を合わせてシーンとした座敷には、張りのあるお経と鐘の音や木魚の音が響いた。

 

突然、バキッ!と大きな音がして、棺桶のふたを破り仏さんの右足が飛び出した。

目の前に座っていた和尚さんは泡を吹いて倒れ、大騒ぎになった…

「生きている!」

誰かが叫び、悲鳴と泣き声と恐怖で収集がつかない。

 

やがて、救急車や医者や葬儀屋が到着。

葬儀屋が棺桶のふたをこじ開け、医者は仏さんを診たが、既に死んでいる状態だったという。

次の日の朝一で、火葬なので通夜が始まる前に棺桶のふたは釘で閉じたそうだ。

「葬儀屋が、無理に棺桶に入たのが悪い!」

と言う人がいたそうだが、医者の話では…

「死亡時刻に亡くなったのは間違いなく、仮に無理に棺桶に入れたとしてもそのまま固まって、体が動くはずはない」

と説明された。

 

「きっと、死にたくなかったんだよ」

一人の人がボソッと呟いた。