彼女の姿が見えたので、歩調を合わせるように足をゆるめる…

僕たちは、時計台の下で待ち合わせをした。

時計台はビルの谷間にひっそり佇んでいて、その姿がライトアップされ、ほのかな灯りがだんだん近づいてくる。

すれ違う人たちは、ほろ酔いかげんなのか楽しげに大きな声で笑っていた。

「時計台って、意外と小さいのね」

彼女は僕の顔を見ると、そうつぶやいた。

 

大通公園の近くに建つリゾート・ホテルは、ゆったりとした部屋と3つあるベッドが特徴だった。

入口から、狭いスペースを抜けると部屋ぜんたいから向こうのバルコニーまで見渡せるほどの充分な広さがある。

それだけで気持ちが解きほぐれる空間が、そこにはあった。

ベッドは部屋のいっぽうの壁に、3つ並んでいた。

 

「いい部屋だわ」

と、彼女が言った。

「ふむ、悪くないね」

と、彼がそれに答えた。

 

彼女はベッドを横切り、バルコニーがある大きな窓から時計台を眺め、そして彼に振り返った。

「素敵、いい感じよ」

と、彼女は微笑し、バルコニーへ出た。

その言葉に彼は、バルコニーまで行き後ろから彼女を抱いた。

自分の胴にまわった彼の腕に手を掛け、彼女は彼と口づけをかわした。

 

やがて彼女は、自分の腰に当たる彼の感触に気が付いた。

「固いわ」

と、彼を仰いで言った。

彼は、うなずくと無言で彼女の手を取り、バルコニーからベッドへと、導いた。

 

「ベッドは、どれがいい?」

と、彼は右から順番にベッドを指さし聞いた。

「あなたは?」

「僕は、どっちでもいい」

「私は、むこうの壁ぎわ」

「では、僕はこっちにしよう」

「ねぇ、真ん中は?」

「真ん中は、僕たち2人のベッドだ!さぁ~寝心地を試してみよう」

「でも、シャワーを浴びてからでもいいでしょ?」

「このベッドは、濡れた体じゃダメなんだ」

と、彼はベッドに横になった。

 

彼女は、笑い、そして…

「裸なら、すぐなれるわよ」

と、ウインクしながら言った。