こちらは、「ぴいなつチャンネル」です!

ぴいなつちゃんの作品を紹介しています。


ぴいなつちゃんの新作「函館ストーリー」が完成しましたので、公開いたします。

今回は「花見」がテーマの物語。

桜前線が北上していますが、物語上では函館もようやく桜が咲いたようで…

さて、どんな「お花見」になるのでしょうか?

それでは、お楽しみ下さい!



函館ストーリー「春爛漫、おとな遠足」

今年の冬は厳しかった。

コロナ禍の中、春を待ちわびる思いは、例年にも増してひとしおで…

だから、全国各地から届く「桜が咲いた」というニュースにやきもきしながらも函館に、桜前線がやってきた。

待ちに待ったスペシャルな春。

彼とわたしは、ふたりで《おとな遠足》をする約束をした。

行き先は、五稜郭公園。

星形に沿って植えられた1600本もの桜が見事に咲き競い、開花中は夜のライトアップが行われ、幻想的な夜桜も楽しめる。

五稜郭の桜は淡いピンク色をしており、やさしく上品な雰囲気を漂わせていた。

春のザワザワしがちな心を、ふんわり包むように和ませてくれるのだ。

 

わたしはこのところ、週末のおとな遠足の準備に心を弾ませていた。

仕事帰りに《和雑貨いろは》に寄って曲げわっぱのお弁当箱を2つ買った。

フンパツして色違いのお箸と、お弁当を包む春らしい手ぬぐいも揃えた。

「水筒には、温かいほうじ茶がいいかな?お弁当のおかずは、何にしよう…」

なんて、お昼休みに手帳にメモしながら考えるのも楽しい時間だった。

 

そして、当日…

彼は、わたしがつくったお弁当を、ひとつひとつ味わいながら食べてくれた。

メインは豚の生姜焼き。キンピラや青のりとチーズを入れた玉子焼きも気に入ってくれたようで嬉しい。

そして、わたしが選んだお弁当箱たちをみて「センスいいなぁ」なんて褒めてくれ、思わずニヤニヤしてしまった。

なんていうか、女ゴコロがわかってる人だなぁと思う。

 

そのあとは、彼が用意してくれたスイーツの出番。

おとな遠足の約束をしたときに、彼が「スイーツは僕にまかせて!」と言ってくれ、わたしはワクワクしていた。

何がでてくるのかな?

「五稜郭公園の近くにある《函館おたふく堂》というお店の《豆乳函館しふぉん》だ」

「うわ〜、しっとりなめらかで、ほどよい甘さ。毎日食べたい」

「だろ?前に会社の人から差し入れにもらってさ、食べさせたいなって思ってたんだよ。ほら、豆乳とかヘルシーなの好きだろ?」

「そうなの〜嬉しい!」

「これもあるよ、《おからボーロ》」

「う~ん、コレもしっとりしてて、何個でも食べれるね」

 

そのあとは桜を眺めながら、のんびり2人で歩いたり、写真を撮ったり…

自然の中にいると、それだけでパワーをもらえる気がする。

こんな、ゆったりとした休日の過ごし方が好きだ。

わたしは、家に帰ってきて、手帳におとな遠足の日記を書いた。

 

彼が何かを食べたあと「おいしくいただきました」と、手を合わせて言うところが、好き。

市電を降りるとき「ありがとうございました」と運転手さんに言うところも、好き。

お箸の持ち方が美しいところも、好き。

自分のことを「僕」というのが、好き。

ちょっぴり鼻にかかった声が、好き。

腕時計を見るときの仕草が、好き。

頷きながら話を聞いてくれるところが、好き。

「好き」を並べていたら、ノート見開きいっぱいになった。

いつのまに、こんなに彼のことでいっぱいになっていたのだろう。

同棲していた元彼と別れて、もう恋なんてしないと思っていた、わたしが…。

出逢ってしまったのだ、こんなに「好き」を書き連ねられるほど、好きになれる人に。

 

桜の花びらが、お弁当を入れたトートバッグの中にひっそりとまぎれこんでいたから、記念に手帳に貼っておいた。

キッチンで2人分のお弁当箱を洗いながら、気づけば恋の歌を口ずさんでいた。

《わたしの心もサクラ色?》なーんて思って、ちょっと照れてしまう。

だけど、この気持ちを大切にしたいと思った。

最後のパズルのピースがカチッとはまったように、こんなにしっくりくる人には、もう出逢えないと思っている。

 

ベランダに出て、「う~ん」と背伸びをしながら深呼吸した。

まだ冷たい夜気をおもいきり吸い込むと、ちょぴり春の匂いがする。

「ずーっと、この先も、彼と一緒に桜がみられますように」

わたしは空を見上げて、お星さまに祈った。

 

END

 

舞台となった函館の紹介… 

・「和雑貨いろは」

明治41年築で1階は和風、2階は洋風の和洋折衷建築という、元は海産物問屋だった建物を改築した店舗には、和の暮らしをテーマにしたさまざまな雑貨が所狭しと並んでいる。

歩くとギシギシと音がする床板、見ているだけで時間がたつのを忘れてしまうほどのたくさんの小物たち。

お土産探しはもちろん、自分用に旅の記念になるものを探したくなる、素敵なお店。

 

・「五稜郭公園」

五稜郭は函館開港に伴い、江戸幕府の命で建築された日本初の洋式城郭で、星型のような五角形をしているために、「五稜郭」と名前がついた。

春は1600本もの桜が咲き乱れ、冬にはイルミネーションにより地上の星が浮かび上がる。

五稜郭の全景をタワーから見学でき、園内には箱館奉公所が復元され、土方歳三など遠い幕末に想いを馳せつつ、のんびりとした時間を過ごすことができる。

ちなみに、今わたしたちが飲んでいるコーヒーは、ここ五稜郭にて新選組が薬として使用されたもので、日本初の珈琲は五稜郭で生まれた。

 

・「函館おたふく堂」

五稜郭公園から歩いて5分ほどの和の情緒漂うお店。

店主は元々は流通コンサルタントで、その発想力が生んだ豆腐由来の斬新なスイーツが、本作に登場する「豆乳函館しふぉん」である。

芸能人など多くのひいき客がいたことで数年前に大ブレークした。