とりあえず、海に行ってみた。

 函館の大森海岸は青く澄んでいて、風は氷のように透き通った色をしている。

僕は、青いダウンジャケットの襟を立てた。

 

近くの喫茶店に入り、温かいコーヒーを飲んだ。

こうして、体も、心も、ホッとする事ができた。

 

「さて…」

僕は、もう一度大森海岸へ行き、彼女へ電話をした。

 

 

彼女は、帰宅してスグに留守番電話を知らせるランプに気が付いた。

再生してみると…

留守番電話のメッセージは、波の音から始まった。

それは、彼からだとすぐに分かった。

 

今夜、聞いた留守番電話の波の音。

それは、昨年2人で行った函館の、潮騒のメロディーだった。

「潮騒のメロディー」

彼は、波の音を、いつもそう言った。

 

今日、彼は独りで函館へ行っている。

それは、出張という旅だ。

彼女はその夜、何度も「潮騒のメロディー」を聞いて、彼に電話をした。