こちらは、「ぴいなつ作品」です!

ぴいなつちゃんの作品を紹介しています。


ぴいなつちゃんの新作「函館ストーリー」が完成しましたので、公開いたします。

今回は「海が見えるカフェ」がテーマの物語で、元町にあるカフェに通う一人の女性の物語。

函館という街に魅了された女性がいつもの日常でありながら、時代感覚が異なる非日常の雰囲気を感じる元町という風景の中で、自分の存在を求めるストーリーとなっています。

それでは、お楽しみ下さい!


函館ストーリー「指定席は、海の見える窓辺」

 

わたしは函館の大学に入って、初めて一人暮らしを始めた。

四季折々に異なる表情を見せる函館の街…

空が、風が、光が、人が、建物が、函館という組曲をそれぞれ奏でる。

海から見上げる坂道、坂の上から見下ろす海、振り返るとそこには、わたしの大好きな

元町があった。

わたしは、すっかりこの函館の街に魅了され、そのまま就職をした。

そして、働きはじめて10年目の冬が終わろうとしている。

 

ときどき、仕事に煮詰まると訪れるカフェがある。

元町にあるそのお店の海が見える窓際が、わたしの指定席だった。

ただただ、ボーッと海を眺めていたら、モヤモヤした気持ちが浄化されていく…

そんな癒しの空間。

パスタランチが人気で、この店に来ると、わたしはいつも日常を忘れることができた。

 

本日のパスタランチは、2種類の辛さが異なるカールレイモン・ソーセージ添えの

ペペロンチーノ。

わたしは、パスタを口に運びながら、いつのまにか頭の中はファンタジーの世界へと

迷いこんでいく…。

あの海に、小瓶がぷかりぷかりと浮かんでいて、中には手紙が入っている。

これは外国語ね。一体、どこから辿り着いたの?

どうやらそれはフランス語みたい。

なんて書いてあるのかな?スマホで調べてみた。

C’est la vie ]セ・ラ・ヴィー      

[それが、人生]って意味なのね…。

なんだかステキな言葉!

何年かかって、ここまで漂流してきたの?

わたしに見つけて欲しかったの?

どんな人が書いたんだろう?

もしかして…この人が、わたしの運命の人だったりして?

 

…気づけば、そんな物語を空想するクセがあって、それがわたしのリセットの時間にもなっていた。

そしてランチの後の、このカフェ自慢のガトーショコラと濃い目の珈琲が、最高のご褒美。

 

マスターは穏やかな佇まいで、いつもカウンターの向こうで丁寧にネルドリップで珈琲を淹れてくれる。

その横には、笑顔がステキな奥さまが接客をしていて、とても居心地がいい。

《こんな夫婦って、憧れちゃう…》

わたしにも、そんな運命の人がホントにいるのかな?

 

まわりはどんどん結婚しちゃって、独身の友達は数えるほどしかいない。

家庭を持った人たちとは、だんだん話も合わなくなってくるし…

このところ、ちょっと焦っていた。

いつか白馬の王子様が迎えに来てくれる!

とまでは夢見ていないにしても、どこかでそんな出逢いを待ち続けている、わたしがいた。

 

あーぁ、わたしの人生って、これからどうなっていくんだろ?

雑誌の占いには《今年は12年に一度の大幸運期》なんて書いてあったけど、そんな気配はまったくないしさ…。

 

《そろそろ、休憩時間も終わりか…》

お会計をしようと席を立ったとき、奥さまが声をかけてくれた。

「なにか、いいことでもあった?」

「エッ!?どうしてですか?」

「なんていうか、とってもハッピーなオーラが出ているように見えたから」

「エー?そういうの、わかるんですか?」

「うーん、なんとなくなんだけど、わたしにはちょっとそんなチカラがあるみたいなのよね」

「だとしたら、すっごく嬉しいなぁ~。やった~!なんか元気でちゃいました!」

「そう、その笑顔!いい波動って、人から人に伝わるの。だから、自分がいい波動を出していたら、自然とステキな人が集まってくるようになるのよ」

奥さまの言葉は、スーッとわたしの心に響いた。

まるで、函館の海の波音のように…。

 

《叶えたい未来は、自分で引き寄せる》

わたしは、会社のデスクに戻ると手帳にそう記した。

きっと、わたしの王子様は、こっちに向かって馬を走らせている!そう信じて。

 

END


舞台となった函館を紹介します!

【元町】

函館山の麓に位置し、函館港を見下ろすように走る何本もの坂道沿いに明治~大正期に建てられた洋館や和洋折衷の建物が点在するエリアで、細い路地の何気ない風景の中に隠されたノスタルジックで異国情緒を感じるシーンに出会える。

日暮れとともに歴史的建造物がいっせいにライトアップされる幻想的な夜の表情は、光と影が創り出すイリュージョンのよう。

日本最初の貿易港として開け異文化を多く取り入れた函館。

当時、「ハイカラ」と呼ばれた洋食や洋服といった今では当たり前の文化は、ここ函館・元町から日本全国へと広まったのである。