ぴいなつ作:函館ストーリー「彼女は僕のビタミン」
こちらは、「ぴいなつ作品」です!ぴいなつちゃんの作品を紹介しています。
ぴいなつちゃんの新作「函館ストーリー」が完成しましたので、公開いたします。
今回は「塩ラーメン」がテーマの物語で、函館市内の病院へ入院した男性と管理栄養士の女性が、退院後に再びラーメン店で出会い、やがて恋へ発展するというストーリーとなっています。
そして、この物語は…
あのストーリーへと、繋がっているのでした。
それでは、お楽しみ下さい!
函館ストーリー「彼女は僕のビタミン」
僕は、人生で初めての入院をした。
食事療法が必要とのことで、栄養指導をしてくれた女性がいた。
この病院の管理栄養士さんだ。
難しいことも、丁寧にわかりやすく教えてくれる。
僕が神経質に細かいことを気にすると、大らかに対応してくれる人だった。
話をしているだけで心が柔らかくなる、そんな雰囲気をまとっていた。
あるとき、話が脱線して函館のおいしいラーメン屋の話になったりして盛り上がった。
「栄養士さんって、いつもバランスのいい食事をして頭の中でカロリー計算しているイメージだったけど、そんなわけないか?」と僕が笑った。
「まあ〜、考えていないわけじゃないんですけどね」そう言って彼女も笑った。
一番苦しい時に「アレも駄目、コレも駄目ってすると長続きしないので、少し気持ちをゆるめていいですよ」と言ってくれ、どれだけ救われたことか…。
病気になると、ついついマイナスに物事を考えてしまい、消灯後の長い夜はベッドの中で悪い想像が脳内をかけめぐる。
「なかなか眠れない夜は、おいしいお店のことでも考えていたほうが楽しくていいですよ。ただし、お腹はすいちゃいますけど…」と、いたずらっぽく笑う彼女の言葉を思い出した。
追いつめられたとき、どこかに逃げ道をつくることは、とても大事だと思う。
仕事で行き詰まったときにも、それは実感していた。
まじめに考えすぎてカラダを壊すのでは、元も子もない。
もっと、チカラを抜いて自分のカラダに真摯に向き合うことが、今の僕には求められているのだろう。
随分と無茶もしてきたけど…
もう、そんなに若くもないのだから軌道修正しなければ。
「一病息災って言うでしょ?病気がひとつくらいあったほうが、自分のカラダを大事にするものですよ。だから、大丈夫!」
彼女は、入院中の僕にとって心のビタミンだった。
退院が決まって、嬉しいような寂しいような複雑な気分だ。
《もう、彼女に会えないのか・・・》
退院して、3か月が過ぎた頃、久しぶりに塩ラーメンが食べたくなり函館駅近くにある《滋養軒》という、僕のお気に入りのお店に向かった。
のれんをくぐると「あっ!」と、思わず声が出た。
なんとそこには、僕のビタミンさんがカウンターで塩ラーメンをすすっていたのだ。
そういえばあのとき、このお店の話をしたのだった。
僕の声に気がついた彼女は…
「見~ちゃった、見~ちゃった!」と、笑った。
「た、たまには、いいよね?」と僕もごまかすように笑い、頭を掻いた。
彼女は隣の椅子を引き出し、座面をトントンと叩きながら
「お説教しますので、お座りください」とコワイ顔をしてみせたあと、「なーんちゃって!」とニッコリ笑った。
この3か月の空白を埋めるように会話が弾む。
《話をしていて、こんなに楽しくて落ち着く人が今までいただろうか?》と、僕は密かに胸が熱くなっていた。
「よ、よかったら連絡先とか聞いていいかな?」
気づいたら僕にしては思い切ったことを口走っていた。
彼女は快くオッケーしてくれて、僕たちはLINEで繋がった。
そうしている内に、僕の塩ラーメンが運ばれてきた。
丼の底まで見える輝く透明なスープの美しさ!
レンゲを沈め一口含むと、あっさりしていながら旨味が凝縮された深い味わいに思わず唸った。
食品添加物無しの自家製中太ストレート麺は噛むと、小麦の味がしっかり感じられツルツルと舌や喉を滑り落ちていくのが分かる。
チャーシューはシンプルなしっかりとした食感ながらスープの味を邪魔しない絶妙な美味しさ。
夢中でラーメンを啜る僕を彼女が微笑みながら見つめていた。
食べ終わり、僕は彼女のぶんの会計も済ませた。
彼女は遠慮したけど、入院中にいっぱいお世話になったからお礼がしたいと言ったら、とても喜んでくれた。
そして、2人で店を出た。
「時間があったら、少し一緒に歩かない?ほら、食べたら運動してカロリー消費しなくちゃね」と、誘った。
「あらまぁ~それは素晴らしい心がけですねぇ!ではでは、お供いたしますので、きびだんごをくださいな」と、彼女がふざけて笑った。
「ほぉ〜、では、きびだんごのかわりに、ソフトクリームをご馳走しましょう」と、僕も笑った。
僕らは駅前から市電に乗り十字街で降りて明治館まで歩いた。
いつまでも話が途切れることなく、時折ふざけ合って盛り上がった。
こんなに心の底から笑ったのは、久しぶりだ。
いつしか、僕は毎日の食事を写真に撮り、彼女にLINEで送るのが日課になっていた。
ダメ出しをされながらも、たまに褒められると嬉しい。
自分のカラダを大切に想ってくれる人がいるという幸せを、僕はしみじみと感じていた。
やがて、半年後…
僕は、昨日から部屋の模様替えをしている。
週末の今日、彼女が初めて僕の部屋にやってくるからだ。
BGMも準備OK!
彼女の好きな、白ワインとチーズとクラコットも用意した。
「さぁ~、バッチ来~い!」
などと、気合を入れていたら、ようやく彼女がやって来た。
「こんにちは、ごめんね~少し遅くなって…」
そう言って、小首を左に少し傾けて彼女が微笑んだ。
それが、彼女の可愛い癖だった。
「ねぇ~どうしたの?私の顔ばかり見て…」
「なっ、何でもないよ」
「おかしな人…」
僕は、イタリアン・トマトのように赤くなった顔を隠すように、慌てて彼女の手を取り部屋の奥へと連れて行った。
こうして僕の想いは、愛に変わった。
END
作:ぴいなつ 監修:クリオネ
舞台となったお店のご紹介…
函館松風町にある「滋養軒」は、1947(昭和22)年創業の函館ラーメンの老舗。
化学調味料不使用の黄金色に輝く塩ラーメンは、上の具材から沈む麺まで丼の中にある全ての具材が手に取るように見える、函館で一番透明なスープである。
あっさり味のスープに絡む麺は中太ストレート自家製麺で、一口噛むとスープの濃厚なコクを引き出して甘みが漂う。
もう一つ、この店で人気なのが餃子だ。
皮から手作りの小ぶりな餃子は、表面がパリッと焼かれて野菜の甘みを感じる、いくらでも食べられる餃子だろう。
そして、この物語は…
バーボンのような荒削りな彼の恋も、彼女のおかげでコクのある豊かなコーンフレーバーの、味わいのある恋に変わったようです。
函館ストーリー「バーボンは不器用な香り」へと続くのでした。
ぜひ、そちらもお楽しみ下さい。
ぴいなつちゃんから、この物語の原作が届いたのは…
返信削除ずいぶん前のことだった!
目を通したら、《ここに函館の情景を入れる》などと
書かれていて、思わず絶句した。
いや、函館の情景を入れるのは構わないのだが…
ラーメンの美味しさが分かるような表現を挿入!とか
要望があった。
「う~む!これは難しいだろ」と顎に手をやりながら
唸ってみたが、編集作業は進まず時間ばかりが過ぎた。
《だいたい、僕が作中に出てくる滋養軒に行ったのは
もうずいぶん前だし…》などとブツブツ言いながら
当時の写メを探して見ていたら、あの時に食べた塩ラーメンの
味が蘇ってきた。
そんなこんなで、今日まで編集作業に遅れてしまって申し訳ない。
編集作業が捗らないのは他にもあり、シンプルな原作をいかに
活かしながら物語をまとめるか、だった。
一度は、《函館ストーリーではなく別な構成の物語ではどうか?》と
打診したこともあったが、ラストを付け加え函館ストーリーとして
完成させた。
しかし、僕なんかが思いつかない物語を書いてくるんだよね!
ぴいなつ先生は…
それでいて、内容は面白くキュンとなる恋愛物となっている。
この才能、僕にも分けてくれないかな(^^ゞ
函館といえば、塩ラーメン!
返信削除そう思って、あたらしい物語の構想を練っていたときに
函館ツウのクリオネ先生に
おいしいお店を聞いてみたら、
滋養軒という名前がでてきた。
滋養という言葉が、物語のイメージにぴったりで思わずニヤリとした(笑)
おおらかで、頼りになる彼女。
入院中の不安な気持ちを和らげてくれた、かけがえのない存在。
多分、ちょっぴり年上なのだ。
舞台は病院からはじまるけれど、重苦しくないストーリーにできたらいいなぁなどとツラツラ書いて
いつものように、しばらく熟成樽へ、、、
そして、おもむろにクリオネ先生に得意の丸投げをするという(笑)
いつも、そんな風に、編集してくれるクリオネ先生を困らせるのですが(笑)
見事な塩ラーメンの描写!
さすがに食べたことがあると言っても
ずいぶん前だというのに!!凄ッ!
そして、そして、なんと!まさか
「バーボンは不器用な香り」に
繋がっていくとは!!
このプランを聞いたときは興奮しましたね(笑)
そんなの、わたしには、思いつかないよ〜!
さすが、魔術師ですねぇ!!
本当にいつもありがとう!
クリオネ先生に、感謝です^^
横から失礼します。
返信削除感動しました。
でも 滋養軒って滋賀がの滋が入っているもので気になって
私、何度も入院したことあります。
小学校の卒業式の時も入院していました。
その時は塩分があまり食べたらダメな病気で当時(50年は立たないですが大阪万博の翌々年の春)ですので点滴はなくて毎日、注射でした。
その病院の近くに食堂があり、ラーメン(中華そば)があり、あこがれていました。
大人になってからも結核にもなりましたが食事制限はなくて。。。。
塩ラーメン 一番好きです。
すいません、しょうむないこと書いてしまった
ロードさん、いらっしゃいませ^^
返信削除そう言っていただき、わたしのほうこそ感動しました!
読んでいただき、感想までお寄せいただき、
本当にありがとうございます!
何度も入院された経験があるのですね。。。
わたしも、家族の付き添い入院や通院など
かなり病院とはご縁がありまして
そんなことからも、書いてみたくなった物語でした
自分自身も交通事故で体調不良だった時期もあり、
そんなときに支えてくれる人々の
存在って、宝物ですよね
塩ラーメンがお好きでしたか^^
ぜひ、滋養軒にて食べていただきたいです(笑)
って、わたしも食べたことはありません
クリオネ先生のお墨付きですから、
かなりおいしいのでしょうね!!
くれぐれもお大事にしてくださいませ。
ありがとうございます。
削除私も今年に交通事故を起こしてしまい、圧迫骨折で腰の痛いのが続いています。
1年ぐらいは痛いみたいなので辛抱ですは
塩ラーメンは昔から好きですよ
仕事で仙台までは行きましたがそこより北は行ったことがなくて。。。。
北海道に行ける日がきっと来ると思うので滋養軒 楽しみにとっておきますね
ロードさん
返信削除横からと言わず遠慮なくコメント頂けると嬉しいです!
この物語を読んでいただき、ありがとうございます(^^ゞ
とても嬉しいです。
何度も入院されたという事でしたが、今はどうですか?
どうぞご自愛ください!
僕は、社会人になったばかりの時に入院しました。
過敏性大腸炎というストレスが原因の病気でした。
その時は、東京に居ましたので仕事だけでなくストレスも
あったのでしょう。
今は、加齢により身体もすっかり変わりましたね(^_^;)
ロードさんは、僕より少し先輩ですが、お互いに無理は
禁物になりました(笑)
そうでしたか…
塩ラーメンがお好きで!
ぜひ、函館にお越しの際には「滋養軒」をオススメします。
いや、僕は函館の人ではありませんがね(笑)
少なくとも、他の店よりは体に優しいです。
このコメントは投稿者によって削除されました。
削除ありがとうございます。
削除子ども時は急性腎炎でした。
仕事をするようになってからは柔道をやっていた関係で整形外科の関係で数回入院しました。
その後は29歳の時に扁桃腺、仕事を独立したときに過労で結核(1997年)になりました。
2007年に心筋梗塞で一度、心臓が止まったのですが時間が短ったので後遺症は残らず(よく言われるお花畑もみませんでした)
10年おきにおおきな病気になるので2017年も心配しましたがなにもなく、逆に娘の結婚といううれしい年でもありました。
長々とすいません
今は病気の方は心臓の関係と糖尿で2か月ごとに診察してもらってます(去年と一昨年にカテーテル検査と処置で入院しました)
今年の5月に交通事故をおこしてしまい、半年以上たったのですが腰が痛いです。
事故の裁判が今日の午後からあります。(私が悪いので仕方がないです)
こんな感じですが前を向いていこうと思ってます。ちなみに明日は魚釣りですいわゆる納竿釣行です
塩ラーメン インスタントも好きです
ロードさま
返信削除今年、交通事故に遭われたとは。。。
まだ症状もあって、それはお辛いですよね><
わたしは20年ほど前にムチウチでしたが、かなりひどくて
いろいろなところで治療してもらったおかげで
いまがあるという感じです。
裁判など、精神的にも落ち着かないでしょうが
くれぐれもお大事になさってくださいませ。
ロードさんの健康をお祈りしております^^
北海道、コロナが落ち着きましたら
ぜひお越しくださいませ♪
おいしいものがたくさんありますので!
もちろん魚もおいしいですよ〜!^^
ロードさん
返信削除そうでしたか…
知らぬとはいえ、いろいろと大変でしたね。
ロードさんは、いつも元気に釣りをしている
イメージがあります!
僕も30年ほど前に交通事故でムチウチに…
幸い軽症でしたので今は後遺症もなく大丈夫です。
ぴいなつちゃんほどではないですが(^_^;)
ロードさん、よくぞ語ってくれました!
僕もぴいなつちゃんも、ロードさんの気持ちを共有し
心配しております。
どうぞ、これからも遠慮なく何でも語って下さい。
一緒のコロナ禍を乗り越えましょう!
函館といえば、塩ラーメンなのでしょうか?
返信削除透き通った、ほんとうに滋養のありそうなラーメンですね♪
あのストーリーに繋がるのですね!!
さすが、ぴいなつ先生&クリオネ先生です。
みらん先生、こんばんは^^
返信削除そうなんです、函館といえば
ラーメンは塩なんですよ〜^^
滋養のありそうな、優しいラーメン
なのでしょうね!
わたしも、いつか食べに行きたいです♪♪♪
あのストーリーに繋がるのですよ〜!
こんな出逢いからの、あの展開に(笑)
これは、クリオネ先生の魔術のおかげです^^
美蘭さん
返信削除ラーメンの発祥の地は、函館なんですよ!
函館在住の中国人が作った「南京そば?」が
ラーメンの元祖と言われています。
画像のようなシンプルなもので、味は塩味でした。
それを日本人の好みに合わせてスープを醤油や味噌に
変えたのでした。
でも、函館の塩ラーメンは、変わること無くそのまま
残ったのです。
あのストーリーに繋がるのは、実は苦肉の策でそのように
したままです(^_^;)