日本三大霊場と言われる、青森県の恐山。 

山門を通り抜けると湯小屋があるのを、ご存知だろうか? 

私は数年前に、この温泉に入り怖い体験をした… 

その日は、夕方近くに恐山に着いた。 

時間的に遅いせいもあり人はまばらで殆ど居なかった。 

その日は恐山の温泉に入るのが目的だった! 

4つある湯小屋の内、山門に近い所を選んだ。 

中に入ると硫黄の匂いがキツく、2つある湯船にはドボドボとお湯が注がれている。 

私の他には誰もおらず、板張りの床は濡れていなくて「今日は誰も利用していないのかな?」と思ったくらいだ。 

脱衣場で服を脱ぎ、ザブンと湯船に浸かる。 

硫黄臭が強く、ピリピリと肌を刺激するお湯、もちろん源泉かけ流しだ。 

シーンと静まり返る湯小屋の中に一人でいるのは本来なら心地よいものだが、ここは恐山の中である! 

何となく落ち着かないし、静かすぎて注がれる湯が煩いくらいだ… 

温泉に浸かりながらも鳥肌が立つようなザワザワした妙な感じがする。 

だんだん怖くなり湯船から上がり、着替えようと脱衣場へと行き、タオルを手に湯船を振り向いた。 

私が湯船から上がった時の足あとが木の床を濡らしていて、だんだん乾いていくのが見えた。 

湯小屋を見渡し、私以外に誰も居ない事を確認して、ホッと胸をなでおろす。 

体を拭き終わり、下着(パンツ)を履こうとして自分の足元に目をやると 

そこに、濡れた右足の跡がくっきりとあった! 

私が立つ位置から30cmぐらいスグ隣に、自分の足より大きい濡れた右足の跡だけが、いつまでも消えずにあるのだ! 

私が、この湯小屋に入った時も、湯船から上がった時も、誰も居なかった。 

私一人だけだ。 

しかも、服を脱ぐときに、このような足跡など無かった! 

私が湯船から歩いて来た足あとはもう消えていて、脱衣場にあるその足跡だけが、いつまでも濡れたまま残っている。 

まるで、今そこに濡れた足を付いたような生々しさ…。 

私は、慌ててズボンを履き上半身裸のままに湯小屋を飛び出した。 

シーンと静まり返っていた湯小屋とは違い、外は蝉の声や観光客の声が大きかった。 

なぜ、これらの音が湯小屋の中に聞こえなかったのだろう? 

そう思いながら湯小屋の扉を閉め切る時に… 

誰も居ないはずの湯小屋の中から、ザブンと湯船に入るような大きな音がした。