箱館ストーリー「陽だまりのような 大切な場所」

 

いつも陽だまりのように暖かく包んでくれる 私の大切で大好きな場所

いつでもそこに居れば 私は素直で優しい気持ちになれる。

 

大三坂から右にカトリック元町教会を見つめて チャチャ登りの下から空を見上げる

「青空の中、流れる雲はどこへ向かうの?」

思わず口を開いてしまったけど 周りには誰も居なくてホッとため息

もう一度 声に出して問い掛けてみた

猫に聞いても困った顔をしてる

お花に聞いても返事がない

「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」

ちょっとイジワルだったかな…

「ごめんね!」

猫とお花に謝って 私はチャチャ登りを上っていく!

 

「ただいま~!」

元気な声で 松原みのりが入ってくる

「おかえり!」

尾崎と康平が声を掛ける

「えっ!尾崎先生と康平にいさん。栗生姉にいさんは?」

「栗生姉さんなら買い出しに行っているよ。僕が来たら康平君が店番をしていた」

そう尾崎が答える

「みのりちゃんこそ、今日は1人かい?」

康平は照れたような笑顔を見せて 松原みのりに問いかける

「ハイ!みんな忙しいみたいで、私一人だけ来ました。ところで、直美ねぇさんは?」

「今日は梨湖ちゃんと柊二君と一緒に取材に出掛けているよ。それより、直美ちゃんとはいつもLINEとかしないのかい?」

尾崎の問いかけに、松原みのりはキリッと表情を引き締めるのだった…

 

いつも陽だまりのように暖かく包んでくれる 私の大切で大好きな場所

いつでもそこに居れば 私は素直で優しい気持ちになれる

みんなが居て 良いとこたくさんあって ちょっと不思議な場所

「流れる風はどこまで吹くの?」

ちょっとした疑問を追いかければ 知らない事がこんなにあるのね。

野本直美はそうつぶやくと 立ち止まり聖ヨハネ教会を見上げた。

 

「尾崎先生、もちろん直美ねぇさんも皆さんのLINEアカウントも知っています!でも、私はあえて直美ねぇさんにはLINEをしないように気をつけているのです。直美ねぇさんには直美ねぇさんの時間があります、どうせ文筆堂に来れば会えるのなら、その会える喜びを私は大切にしたいのです。冬果ちゃんも亜弓ちゃんも同じです。学校があって文筆堂があって、それぞれ時間の過ごし方が違います。私はここで学校では学べない多くのことを勉強させてもらいました。直美ねぇさんだけが文筆堂じゃない!そして皆さんのように立派な人になるには、私はまだまだ勉強不足なんです」

松原みのりの しっかりとした受け答えに康平は大きくうなずき 尾崎を見た。

 

「みのりちゃん、とても素晴らしい考えだよ。みのりちゃんの優しさもみんなを想う気持ちも、とても素敵だ。そして、野本直美に対するみのりちゃんの答えは僕は正解だと思う。みのりちゃんが野本直美を特別に想っていることは良く分かっているつもりだ。そして野本直美自身もキチンと理解している。でも、みのりちゃんと同じように直美ちゃんも、みんなを愛し慈しみ誰一人もこぼれることなく優しく接している。みのりちゃんは、だんだん直美ちゃんに似てきたようだね」

尾崎は目を細め教え子を褒めるような笑みで 松原みのりに答えた。

 

「みのりちゃんは、また一歩成長したね。いや、尾崎先生が言うように直美ちゃんに似てきたのかもしれない。そう思うと、僕らも大人としてしっかりしなければならないし、何より若いみのりちゃんたちが成長する姿を見るのは嬉しいよ」

康平は 優しい笑顔で松原みのりに答えた。

 

その時 野本直美は文筆堂に来ていた

梨湖と柊二と一緒の取材も思いがけず早く終わり ベイエリアで2人と別れ1人で文筆堂にやって来たのだった

入り口で挨拶して中に入ったが 店には誰もおらず奥のサロンから話し声が聞こえた

尾崎の声に驚き 悪いと思いながらもそっと聞き耳を立てていた

尾崎も康平も これまで見たこともない顔で微笑んで 松原みのりと仲良さそうに話している

野本直美は そっとその場を離れた。

 

文筆堂を出て見上げた空に 笑顔が一つ増えたのを感じた

自分でも分かる 輝いている笑顔が

「尾崎先生がみのりちゃんと嬉しそうに話す姿、なんだか胸の奥が少しだけ寂しいような感じがするけれど、でも嬉しい。尾崎先生も康平にいさんも、そんな風にみのりちゃんを見てくれている。まるで私が褒められているような気がする。もしかして尾崎先生はみのりちゃんを、まさか!?そうだよね、そんな訳あるはずないよね。あー勘違い。ごめんなさい尾崎先生、ごめんなさい」

野本直美の不安の雲は消えて 心の中が晴れ渡る

「今夜の食事はどうしようかな?尾崎先生の好きなの、たくさん並べよう」

微笑みながらチャチャ登りを下って行く 野本直美であった。

 

「陽だまりのように、今日もそっと暖かく包んでくれる、私の大好きで大切な場所、文筆堂」

チャチャ登りから見上げる空は いつも変わらない

自然と笑顔が溢れ 優しい気持ちになる

「もう少し、今はこのままで、みのりちゃんを見守ってあげよう」

野本直美は カトリック元町教会に立ち寄り そう言ってお祈りをした

そして 大三坂を下る足取りは軽やかで 今夜にも尾崎から語られるであろう松原みのりとの今日のやりとりを楽しみに 何も知らないフリして笑顔で聞こうと思った。

 

END


今回の箱館ストーリは、いかがだったでしょうか?

仕事中に急に物語のあらすじが浮かび、昼休みの時間に書き上げました(^^ゞ

とはいえ、実際に頭に浮かんだのはもっと別な内容でしたが、最初の書き出しのままに進んでいたら、このような展開になりました。

箱館ストーリは、美蘭さんやぴいなつちゃんが作り出した作品の主人公が、文筆堂を舞台にした物語。

函館は、❝函館時間❞と言われるゆったりとした時間が流れる街…

そんな函館の元町にある❝クリオネ文筆堂❞での日常を描く箱館ストーリは、文筆堂を舞台にゆったりと物語も展開しており、前回の麻琴(ぴいなつちゃん)の誕生日会からのお話です!