箱館ストーリー「やさしい風」

 

月曜日の朝は いつも超フワフワで まるで夢の中にいるみたい

まだ寝ていたい まだ夢を見ていたい まだ起きたくない

やがて夢の続きを遮るベルが鳴る~~~!

 

「ハァ~!」

自分のため息の大きさに ちょっと驚く

今朝は軽い朝食で 家を出た

 

眠い目をこすりながら歩く 眩しい朝

いつも通る道 陽射しが眩しくて なんとなく嬉しい

でも スキップする気分じゃないかな

足取りは軽くなったけど でも…

 

立ち止まり背伸びしたら 遠くに函館山が見えた

太陽の陽差し浴びながら 再び歩き始める

気持ち良い風を感じれば きっと今日も 元気になれるはず!

 

だんだん職場に近づく やがて思い出される週末のこと

金曜日の彼の様子 大丈夫だろうか? 

なんだか気になるけれど 私なりにアドバイスしたし

でも 自分で何とかするしかないと思う

 

「大丈夫 勇気を出して!」

私は職場で 先に来ていた隣に座る彼の背中に そう言って小さくつぶやいた

それとなく観察すると メーカーさんに電話している彼は 微笑んでいた

「良かった!」

少しホッとする 腕まくりして仕事モードに入ろうとすると

電話が終わった彼が照れた仕草で 私にそっと紙袋を渡してきた

それは たくさんのカラフルな甘いものが詰め込まれた ギフトだった

 

ランチに 一人で元町にあるクリフサイドという店まで歩く

今日は パスタの気分

デザートのケーキは何かな?

仕事中に 彼から貰ったお菓子をつまんでいたのに デザートが気になる

 

どんなときでも 風に吹かれて 自分らしく笑っていたい

無邪気なほどに 苦しいくらい笑顔でいたい

それが私らしさであり 私が唯一できること

 

今日のパスタランチは イカナポリタン

ソーセージの代わりのイカが ケチャップと太めのパスタによく合う

他にもマッシュルームやピーマンや玉ねぎと これぞまさしくナポリタン

イカナポリタンは 函館が発祥のグルメなのだ

タバスコをいつもより多めにかけてみる

思わず心の中で 「ボーノボーノ」と叫んだ

「これ、文筆堂の新メニューにどうだろう?函館シン・ナポリタンなんて」

デザートは オレンジのケーキ

フォークで一口 口の中に広がる甘いオレンジの香りに 亮介さんの笑顔を思い出す

初めて亮介さんとデートしたときに立ち寄ったのが このお店だった

 

不思議ね 朝のモヤモヤがもう無くなっている 

私は 足取りも軽やかに八幡坂を下って行く

週末とは違う 新しい一週間の始まり

「素顔のままで 感じていたい」

やさしい風のように 私はささやく

 

仕事を 早々と切り上げる

「もう こんな時間?」

たった今 終業の1700なのに焦る

「そもそもシステムに問題があるのよね もっと効率よく仕事を回さないと…」

まるで早口言葉のように 一人で文句をつぶやいた

 

「ダメ! 超けだるい気持ちを引きずりながら みんなに会えないから」

仕事はもう終わったのだ リフレッシュするには これしかない

私は ラッピのベイエリア本店でラッキーガラナを自販機で買う

行儀悪いけど ガラナを飲みながら夕陽の大三坂を登って行く

 

オレンジ色の太陽に 仕事の愚痴すべてを打ち明けてみる

「悲しいこと 辛いこと 上司のこと ぜんぶ吹き飛んじゃえ!」

そして私は いつもの笑顔に これが麻琴スマイル

 

「ねぇ どうしてそんな苦悶の顔をしているの?」

坂の途中で出会った猫に 問いかける

「たまには この場所を抜け出してみたら?」

猫は 迷惑そうに私は見返してきた

私はそんな猫にバイバイと手を振り みんなが待つ文筆堂へと急ぐ

 

みんなが揃うのは 何日ぶりだろう?

今日は 私の誕生日!

みんなが この日をこの時を 祝ってくれる

私の大切な仲間たちが待つ文筆堂へ チャチャ登りの坂道も今日はいつもより楽に感じる

 

私は 息を整え大きく深呼吸した

そしてカウントダウン …5.4.3.2.1

「ただいま~!」

ひときわ大きな声で挨拶して 扉を開けた

 

「あっ!おかえりなさい 麻琴ねぇさん

梨湖ちゃんと柊二くんの2人が 掃除をしていた

「どうしたの こんな時間に?」

《今日は 私の誕生日会じゃないの?》

さすがに この事は聞けなかった

「栗生姉にいさん午後から出掛けていて せっかくだからと柊二と2人で掃除していて ようやく終わったところです」

梨湖ちゃんがそう言って 「ふぅ~」と大きなため息をつく。

「そうなんだ…」

ようやく言葉を絞り出すように言った

「麻琴ねぇさん 僕たちこれからお茶しますのでどうぞ一緒に ここに座っていて下さい」

そう言うと 梨湖ちゃんと柊二くんの2人はいそいそと奥へと消えた

私は一人 ぽつんと残される…

 

Happy Birthday to you Happy Birthday to you Happy Birthday Dear 麻琴 Happy Birthday to you ♪」

やがて 冬果 亜弓 みのり の女子高生コンビが歌いながら奥からやって来た

その後を 栗生姉と亮介 康平と夏妃 奏太朗と卓也 梨湖と柊二 最後に尾崎と野本直美が笑顔で手を叩きながらやって来て 麻琴を取り囲んだ

 

麻琴 誕生日おめでとう!」

亮介が大きなバラの花束を渡す

「これは みんなからのプレゼントだ!」

そして 栗生姉が大きな箱をテーブルに置くと 拍手とともにクラッカーが鳴り響いた

 

涙ぐむ麻琴 夏妃が抱きしめると

「麻琴ちゃん 前回はまんまとハメられたから 今回はお返しよ!」

夏妃がそう言うと 大きな笑いが起こる

 

文筆堂の奥にあるサロンには たくさんのテイクアウトの料理が並んでいて さながらミニバインキングのようだ

「すまないな麻琴ちゃん 今回はみんな忙しくて手作りの料理はなしだ!でも 麻琴ちゃんの好きな料理を並べたぞ シスコライス・ステーキピラフ・ラッピ・メルチーズ・チーズオムレット・お寿司・いかめし どうだ函館グルメバイキングだ! しかもドリンクはビールもワインもガラナもコーヒーも飲み放題だ さぁ~乾杯しよう」

そう言って栗生姉が胸を張る

 

どうすれば 感謝の気持を伝えられるだろう?

栗生姉にいさんの乾杯の掛け声

みんなが笑顔で おめでとう!を言ってくれる

私は いつになく緊張しながらお礼の言葉を考え 席を立ち深々とお辞儀をした

 

どんなときでも 私は自分らしく笑っていたい

函館の未来へと続く 虹の架け橋を私たちは みんなで繋いでいく

私たちの想いは七色の輝きとなって いつでも消えることがない

風に吹かれて 風にまかせて 蒼い空へ舞い上がるみたいに

函館の未来へ続く あの空の下 みんな一緒なら きっと飛べるはず

風に吹かれて 風にまかせて いつまでも笑っていたい

函館の未来へと続く 虹の架け橋をみんなで一緒に越えて行きたい

「みんな大好き!今日はありがとう」

 

END

 

今日7/3は、私たちの妹・ぴいなつの誕生日です!

いつものように文筆堂では、麻琴の誕生日を祝うのですが…

今回は、ぴいなつ(麻琴)の目線でストーリーが進み終わります。

そこに居るはずのいつものメンバーはセリフすらほぼ無いのですが

これもまた、箱館ストーリーなのです。

 

リアルに、私(クリオネ)もぴいなつちゃんも美蘭さんもロードさんも…

それぞれが仕事にプライベートに忙しいです!

だからこそ、今回はリアルな展開にしてみました。

私たちは、ぴいなつちゃんに直接に会ってお祝いは出来ません。

でも、心からお祝いを伝えることは出来ます!

出来ることをやらないで、いつやるのか?

今でしょ!

「ぴいなつちゃん、お誕生日おめでとうございます!」

 

平成生まれのぴいなつちゃんは、何歳になったのでしょうか?

ちなみに、僕はその美しいお顔も名前も知りませんが、きっと…

道産子らしい力強い性格でいらっしゃるのでしょう。

いえ、体型ではなく褒めているのですよ。

ねぇ~美蘭さん!

 

うわぁ~かっちゃがれる。助けて~~!ε≡≡ヘ( ´Д`)

 

※さて、麻琴が文筆堂へ来るまでの様子は…

この後の、スピンオフ・ストーリーにて公開いたします。

  

「ただいま~!」

夏妃が慌ただしくやって来た。

「ごめんなさい、栗生姉にいさん!なかなか来れなくて…」

すまなそうに詫びる夏妃に、栗生姉が優しく微笑む。

 

夏妃ちゃん、忙しい中ありがとうな。僕一人でどうにか出来ればいいのだが…」

麻琴ちゃんの誕生日でしょ?栗生姉にいさんが誕生日を覚えてくれるから助かるし、私のときにみんなでお祝いしてくれたのを感謝しているのよ」

「うん、今回もみんなは忙しいようでね!なかなか声を掛けづらいんだよ。まったく、いつの間にこんな世の中になったのだろうな?」

「康平さんも、《最近はどこもかしこもバタバタしているようだ。函館はゆったりとした時間が流れる街なんだけどな、それを楽しみにしてやって来る観光客もいるだろうに、いつからこんな時代になったのだろう?》と言っているわ」

「まったくだ!麻琴ちゃんも忙しそうで、僕も話が出来ないままでいるよ」

 

しばらく2人は黙り込んでしまい、夏妃が思い出したように顔を上げた。

栗生姉にいさん、それでみんなは来れるの?」

「うん、直美ちゃんが一人一人に連絡をしてくれたよ!実は尾崎先生が体調を崩していてね。梨湖ちゃんと柊二君が自分たちがやると言ったんだが、直美ちゃんが私に任せてほしい!と言ったそうだ。その代わりこっちを手伝ってくれているよ。梨湖ちゃんと柊二君は、今は買い物に出掛けている」

「それで、尾崎先生は大丈夫なんですか?栗生姉にいさん、そういう事情なら何で私に連絡をしないのですか?また、直美ちゃんに…」

「分かっている!正直、まだ梨湖ちゃんと柊二君では若い子たちとのコミュニケーションが難しいのだよ。前回のみのりちゃんの件もあるしね。尾崎先生は仕事の疲れからだそうだが、直美ちゃんはしっかりと自分の仕事をするようにと尾崎先生から言われたそうだ。初めて尾崎先生に怒られたと、直美ちゃんは言っていたよ。それに、直美ちゃんは麻琴ちゃんのおかげで、文筆堂の仲間になれたことを感謝しているのだと言っていた」

 

夏妃は、麻琴と2人で文筆堂を支えていく!と野本直美や尾崎先生に言ったことがぜんぜん守られていないことを痛感した。

あれだけ大見得を切りながら、自分は何もしていないのだとショックを隠せないでいた。

 

やがて、梨湖と柊二が大きな荷物を抱えてやって来た。

チャチャ登りの下で康平と出会い、梨湖の荷物を康平が持ってくれたという。

「ただいま~!」

3人で声を合わせて文筆堂に入ってきたが、夏妃の様子に素早く康平が気づき声を掛けた。

 

夏妃どうした?今日は麻琴ちゃんの誕生日だぞ」

梨湖と柊二は心配そうに夏妃を見ながら、栗生姉の隣に立っていた。

「康平さん、私は直美ちゃんと尾崎先生に約束したことを何もやっていない。今回も直美ちゃんが、みんなに連絡をしてくれたり麻琴ちゃんの誕生日のセッティングをしてくれたそうよ。尾崎先生が体調不良なのに、そんな事も知らずに私は仕事の忙しさにかまけて、何も出来なかった。あんなに大口叩いていながら、栗生姉にいさんから連絡をもらうまで、麻琴ちゃんの誕生日のことも忘れていた。直美ちゃんに申し訳ないし尾崎先生に合わせる顔がない。どうしよう康平さん」

そして、夏妃は泣き崩れてしまった。

 

夏妃ねぇさん!私たちが悪いのです。私たちがもっとみんなと打ち解けていれば、こんな事にはならなかった。私たちはまだまだ未熟で…」

梨湖が夏妃と康平に向かい身振り手振りで話をし、その横で柊二は梨湖の言葉にいちいち頷いていた。

 

「おいおい、みんなどうした?今日は麻琴ちゃんの誕生日だぞ!前回の文筆堂リニューアルの時に麻琴ちゃんが言ったことを忘れたのか?また同じことを繰り返すのか?直美ちゃんや尾崎先生は麻琴ちゃんのおかげで文筆堂の仲間になれたと言っている。だったら、野本直美を生んだのは麻琴ちゃんじゃないか?そして、その野本直美を育てたのが夏妃、お前なんだよ。やがて、直美ちゃんのおかげでこうして梨湖ちゃんと柊二君という新たしい仲間が増えた。今度は、直美ちゃんが若い子たちを生んだんだ!こんなにも素晴らしい事が文筆堂で起きている。梨湖ちゃんと柊二君と若い子たちを、上手くまとめるのは夏妃、お前なんだよ。それぞれの役割があると言っただろ?夏妃、しっかりしろ!」

康平が声を荒げる中、松原みのりがやって来た。

 

「康平にいさん 夏妃ねぇさんを叱らないで下さい!私が、意固地になっていたんです。直美ねぇさんを私が独占したかった。でも、直美ねぇさんはみんなのもの。今、康平にいさんが言っていたこと、私たちは直美ねぇさんから生まれた!その直美ねぇさんを麻琴ねぇさんが生んだ。今日は、麻琴ねぇさんの誕生日です。食いしん坊の麻琴ねぇさんに冬果ちゃんまでいて、食べ物が間に合うのか?そっちの心配をしましょう。それに尾崎先生は大丈夫なんですか?栗生姉にいさん、これってすごく重大なことですよ」

いつの間にか来ていた松原みのりの側には、奏太朗と冬果、亜弓と卓也が心配そうに見つめていた。

 

「尾崎先生なら心配ない。今、亮介君が迎えに行っている。これから、直美ちゃんと一緒に来るそうだ。みんなそれぞれ、自分が悪いと思い込むのはもう終わりにしょう!せっかく麻琴ちゃんの誕生日という事で、みんな集まるんだ。これからは、こんな機会でもないと一同に介して何かやる事も出来ないだろう。コロナ禍を経てそういう時代になったんだよ。こんな事でつまずいていたら、函館の未来も直美ちゃんの夢も何も無くなってしまう。何より麻琴ちゃんがこんなジメジメしたのを嫌うだろう。せっかくの誕生日なのにと、僕は延々と文句を言われるよ。そろそろ、直美ちゃんと尾崎先生もやって来る!こんな姿を、2人が見たらどうする?今度こそ、岩手に帰ってしまうぞ。さぁ~時間がないんだ。早く準備しよう。

みんな、段取りは分かっているな?尾崎先生が来る前に終わらせるぞ」

 

栗生姉がそう言うと全員が「ハイ!」と大きく返事をして動き出す。

そして康平と栗生姉が固い握手をして、尾崎と野本直美を迎えにチャチャ登りを下って行った。

 

END