箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂物語」

~I am thinking of you at all times!~  Part3

今回は、箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂物語」~I am thinking of you at all times!Part2~の続編となります!

Part2は少し編集をしましたので、先にご覧いただければより楽しめます。

これで完結とはならず、まだまだ続きます(^_^;)
美蘭さんが「前編」「後編」と朗読ドラマとして作品を残してくれておりますが、そこからのイメージとは大きくかけ離れております

原作となるこの物語は、元はこういう構想であります事をお伝えします。

箱館ストーリー「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂物語」

 

尾崎が帰った後、しばらくして康平が戻って来た。

手にはテイクアウトした食べ物があり、夏妃と康平は黙ったまま食べ物を口に運んだ。

やがて、康平が口を開いた…

 

「夏妃、途中からだけど尾崎先生の話を聞いていたよ。僕も中に入ろうとしたけど、尾崎先生は夏妃に直美ちゃんの大切な話をすると言った。それも栗生姉さんにではなく、夏妃にだ!そこが大事なところで、いつまでもショックを受けていてはダメじゃないのかい?夏妃が直美ちゃんや尾崎先生の事を大切に想っている事もよく分かった。それでこそ夏妃だ!今度は夏妃たちが、直美ちゃんや尾崎先生のために何かをする番じゃないのかい?いつまで泣いているんだ。今すぐに直美ちゃんや尾崎先生は岩手に帰るわけじゃないのだろう?その間、メソメソと泣いて過ごすのか?尾崎先生は、自分が直美ちゃんを支えていかなければならないから、栗生姉さんを支えて文筆堂を盛り上げてくれと言っているんだよ。今の直美ちゃんはこれまでの直美ちゃんじゃない!何かしらの変化が起きているのかもしれない。そのために尾崎先生は、直美ちゃんが落ち着くまで文筆堂をお願いすると言っているのだろう。分かるかい?夏妃がしっかりしなければならないんだ!」

 

「康平さん、私…」

「夏妃、今日はもう休みなさい!明日になれば、きっと何か糸口が見つかるだろう」

「康平さん、直美ちゃんは今、麻琴ちゃんの家に居ます。仕事の帰りに麻琴ちゃんに誘われてお家にお邪魔しているそうです。そして直美ちゃんは亮介さんと麻琴ちゃんに自らお話しするそうです。尾崎先生に電話がありました」

「そうか、明日にでも僕は亮介くんと話をしよう。もちろん、尾崎先生とも会わないとな。直美ちゃんが麻琴ちゃんにね、亮介くんが居てくれてよかったじゃないか。麻琴ちゃん一人なら、夏妃より取り乱すだろうし直美ちゃんも話が出来なかっただろう」

ようやく夏妃の顔に笑顔が戻り、康平はそんな夏妃を強く抱きしめた。

 

亮介にいさん、すみません。麻琴ねぇさんに挨拶して、私これで帰ります!ご迷惑をお掛けしました」

「直美ちゃん、麻琴はもうすぐ落ち着くだろうから、このまま泊まっていきなさい。もう夜も遅いよ」

「ありがとうございます、この先のコンビニまで行ってタクシーを呼びます。そして、尾崎先生のお家へ行きます」

そう言うと、野本直美は立ち上がり寝室に居る麻琴に挨拶をした。

しかし、麻琴からの返事はなかった。

野本直美は悲しい顔をしたまま、亮介に深々と頭を下げると麻琴の家を出て行った。

 

次の日の朝、尾崎と野本直美は文筆堂に来て、栗生姉と話をしていた。

尾崎が一人で行くというのを、野本直美が一緒に行くと言いだし、文筆堂では野本直美が一人で栗生姉に面と向かい話しをし、尾崎は一歩下がり野本直美の言葉を聞いていた。

時より栗生姉は、困った顔や驚きを見せ、その度にチラチラと尾崎の顔を見ていたが、尾崎は真剣な顔で野本直美の横顔を見ていた。

 

野本直美が語る自分自身の話は、驚きとか衝撃とかでは言い表せない事実であった。

栗生姉は、野本直美の話が終わっても返事を出来ないでいた。

だいたい、どうやって答える?

何を言えばいい?

信じられないような話だが、現実に2人が目の前にいる。

《尾崎先生は、よく直美ちゃんを支えてきたものだ。これが愛というものか?愛する気持ちがあれば不可能を可能にできるという事か?俺には、まだ分からない!いや理解は出来る。そんな2人を今まで以上に尊敬する。しかし、どう答えればいいというのだ》

悩み悩んだ栗生姉は、よくやく口を開いた…

「直美ちゃん、よく言ってくれた。辛かっただろう。昨夜は麻琴ちゃんと亮介くんに話をしたんだろう?よく2人に話をしたな、大変だったろうに。とにかく話は分かった!とりあえず、この話はここまでとしよう。僕は夏妃ちゃんや麻琴ちゃんと話がしたい。それと康平くんや亮介くんとも会いたい。若い子たちに話すのはそれからだ!尾崎先生の言うように、話すタイミングがある。今はまだその時ではない」

 

野本直美は栗生姉の言葉に、黙って大きく頷くと尾崎をチラリと見た。

尾崎は、そんな野本直美に返事をするように小さく頷き返していた。

栗生姉は2人の様子を見ながら、改めてこの2人の絆の深さを知った。

「直美ちゃんの心配事はよく分かるよ、尾崎先生の気持ちもね。だからといって皆んなに打ち明けてサヨナラを言って岩手に帰るのは、どうかと思うな。文筆堂にマヨイガのような現象が起きているのは自分のせいだと直美ちゃんは言うけど、尾崎先生は元町がパワースポットのような場所になっていると言ったじゃないか?僕はそっちを信じるね!それと文筆堂の仲間たちに悪い影響が起きるかもしれない?と心配しているが、これまでにそんな事はなく、むしろ松原みのりちゃんという新しい仲間が増えているのだよ。それも直美ちゃんのおかげでね。この店も、観光客や地元のお客さんが来てくれるようになった。僕は直美ちゃんや尾崎先生と会わなかったら、とっくに文筆堂はやめていたよ。それにね、直美ちゃん!尾崎先生は、直美ちゃんが落ち着くまで文筆堂を夏妃ちゃんや麻琴ちゃんにお願いしたいと言っているんだ。分かるかい?そのためにも尾崎先生は、直美ちゃんをしっかりと支えなければならない。麻琴ちゃんに怒られただろう?そんな直美ちゃんを誰が慰める?誰が何を言っても、今の直美ちゃんは「うん!」と言わない。そんな直美ちゃんを優しく抱きしめてくれるのは尾崎先生しか出来ないのだよ。そうだろ、直美ちゃん!」

野本直美は、尾崎先生という言葉に泣き崩れてしまった。

すかさず尾崎が野本直美に寄り添い、野本直美は尾崎の胸に顔を埋めた。

 

栗生姉さん、すまない。今日はこのまま僕らは帰るよ!直美ちゃんが落ち着くまで時間がかかるだろう。そろそろ文筆堂のオープンの時間だしね。今日はどうもありがとう」

尾崎はそう言って頭を下げ、野本直美を連れて文筆堂を出て行った。

栗生姉は黙って2人の後ろ姿を見送りながら…

《さて、どうしたものか?とりあえず康平くんと亮介くんに会えればいいのだが、夏妃ちゃんや麻琴ちゃんは、まだ話が出来る状態ではないだろうな》

そうつぶやくと、文筆堂のドアに臨時休業の張り紙をした。

 

その頃、ラッキーピエロ十字街銀座店では奏太朗と卓也がテイクアウトでラキポテを注文していた。

ちょうど出来上がる頃、冬果と青田亜弓、松原みのりがやって来た。

手にはそれぞれ自分たちが作った手作りクッキーを持っている。

「冬果ちゃん、みんな喜んでくれるかな?」

「大丈夫だよ、みのりちゃん!私たちの愛が詰まっているし。ねぇ~亜弓」

「そうだよ、みのりちゃん!いつもねぇさん達に美味しい物をごちそうになっているんだもん。私たちだって何かしなきゃだよ」

「松原さん、これはいいアイデアだよ。僕や卓也くんは、こんな事しか出来ないからね」

「そうだよ、松原さん!僕たちに出来ることはやるべきだよ。ラキポテで悪いけど」

「あー!また奏ちゃんが松原さんって言った。それに卓也くんまで、私たちのラキポテは奏ちゃんと卓也くんのおごりだからね」

「あのー奏太朗にいさん、卓也くん。松原さんはちょっと…」

「みのりちゃんは、いいの!ねぇ~亜弓」

こうして賑やかな5人は、南部坂を上って行った。

 

亮介は、麻琴に朝ごはんが出来たと伝えたが麻琴は寝室から出てこないばかりか返事もなかった。

昨夜、亮介はリビングのソファーで寝たのだ。

《やれやれ、どうしたものか?こうしていても埒があかないし、康平さんに連絡をとってみるか?》

やがて亮介は、康平に電話をして会う約束をした。

 

康平は亮介から電話を受け、直ぐに栗生姉に連絡をすると栗生姉からは「さっき、尾崎と野本直美が帰った」と告げられた。

「夏妃、これから栗生姉さんのところに行ってくるよ!亮介くんも来るそうだ。そして、さっき尾崎先生と直美ちゃんが帰ったそうだ。直美ちゃんは途中で泣き崩れて尾崎先生が連れて帰ったそうだよ。直美ちゃんは自分の口から栗生姉さんに話をしたそうだ」

「康平さん、私も一緒に行きます!連れて行って下さい。私も栗生姉にいさんや亮介さんと話がしたい。尾崎先生の直美ちゃんへの想いを私が伝えなければ…」

「夏妃、麻琴ちゃんが直美ちゃんに怒ってしまい、亮介くんとも口を聞かないそうだ。だから麻琴を頼むと亮介くんから言われている。夏妃は麻琴ちゃんを頼む」

そう言うと、康平は家を出て文筆堂へと向かった。

 

麻琴は、寝室でこんなにも涙を流したのに、まだ止まらない事に驚いていた。

野本直美に対して悪いことをしたと反省しながらも、怒りというより悲しみが大きくて自分でもどうする事も出来ないでいる。

《自分が野本直美だったら、どうするだろう?自分の全てをさらけ出し、私たちに迷惑をかけたくないと函館を去ろうとしている。尾崎先生がいるから直美ちゃんは大丈夫だと思っていたけど、私が亮介さんを待ち続けた事とは辛さが違う。直美ちゃんは人間になりたての赤ちゃんのようで、素直な気持ちを抑えきれないのだろう》

麻琴はようやく、そう理解できた。

その時、夏妃から電話があった。

「これから文筆堂にて、栗生姉にいさんと康平さんと亮介さんとお話しをするそうよ。直美ちゃんと尾崎先生は、朝早くに栗生姉にいさんと会ってお話をしているわ。全部、一人で直美ちゃんが栗生姉にいさんにお話をしたそうよ。麻琴ちゃん、これから会えないかしら?私たちには、やるべきことがある!そうでしょ、麻琴ちゃん」

それからしばらくして、麻琴の家に夏妃がやって来た。


梨湖は八幡坂を上っていた。

その後を柊二がハァハァと息を切らしながら追いかけている。

八幡坂は坂の上から真っ直ぐに函館港へと伸びる函館屈指の観光スポットで、多くの観光客が坂の上から写真を撮っていた。

しかし、その美しさとは裏腹にベイエリアから坂を上ると誰もが息を切らすほどの急勾配である。

梨湖、待って!話を聞いてくれ…」

柊二、私どうしても野本直美さんに会いたい!これから文筆堂のホームページを作るなら、私も手伝う。文筆堂のお掃除もするしお店のお手伝いもする。なんだってする」

柊二は、「カールレイモンに行く途中に大三坂ですれ違った5人の若者たちが文筆堂の話をしていたよ。彼らは、文筆堂の若いスタッフかもしれない」と、梨湖に話をしたところ、

梨湖が「文筆堂に行く!」と言い出して家を飛び出したのだ。

 

野本直美は、尾崎の家にいた。

「尾崎先生、どうしよう?私、どうしよう?怖い、皆んなに会うのが怖い。こんなにも迷惑をかけてしまい申し訳ない。私はこんなつもりで人間になったんじゃない。函館に来たんじゃない。私は、私は、助けて!尾崎先生助けて。お願い助けてサトちゃん…」

尾崎は、自分の胸で泣きじゃやくる野本直美を、黙って抱きしめる事しか出来ないのか?と、はがゆかった。

これから、どうすればいいのだろう?

尾崎は、《このまま野本直美を連れて、ふるさとである岩手へ帰ろうか?》本気でそう思っていた。


続く…

「END」


今回の物語は、いかがだったでしょうか?
このPart3で終わりとなる予定でしたが、細かい設定などを書いている内に長くなったので、ここまでとしました。
柊二と梨湖が文筆堂に向かっています。
この後の展開はどうなるのか?
原作は、当初の予定通りに進めていきます。

ここまでお付き合い下さりありがとうございました!
この物語の完結をもちまして、「文芸サロン・箱館クリオネ文筆堂物語」は、一旦終わりとなります。
しかし、それぞれのキャラクターはこれからも生き生きと文筆堂におりますので、今後もちょこちょこと顔を出すはずですw

それでは、また…