箱館ストーリーChristmas Magic!」~箱館クリオネ文筆堂物語~

 

3年ぶりに、【はこだてクリスマスファンタジー】が開催された。

いつもは観光客で賑わうイベントだが、今年は函館市民も多く見物に訪れており、会場となっている赤レンガ倉庫前は歓声に包まれている。

いつもは観光客が間違ってやって来るこの店も、ひょんな事から有名になり、昼過ぎまでひっきりなしにお客さんが訪れていた。

「これも、直美ちゃんのおかげだな…」

栗生姉は、そう一人つぶやくと熱いコーヒーを一口飲んだ。

今日はクリスマスイブ、元町にある箱館クリオネ文筆堂は、さっきまでの賑わいが嘘のように静かな時を刻んでいた。

 

店にある鳩時計が午後4時を知らせてくれた。

栗生姉は誰もいない店内を見渡すと、慌ててコーヒーを飲み干し店じまいを始めた。

そこへ…

「ただいまー!」

麻琴の明るい元気な声が店内に響く…

「なっ、なんだ!どうした急に?」

栗生姉は、驚いて振り返る。

「ちょっと、何で慌てているの?分かった、美味しいもの食べていたんでしょ!私も食べたい」

栗生姉は、ハァーとため息をつきながら、椅子に腰を下ろした。

「おかえり麻琴ちゃん、ビックリしただけだよ。それより、今日はどうしたの?クリスマスイブだよ」

「栗生姉にいさんが一人で寂しいだろうと来てあげたのに、少しは喜んだらどうなの?」

「ありがとー!いや、それより麻琴ちゃんは大丈夫なの?亮介さんと過ごさなくていいのかい?」

「今日は、遅くまで仕事だって!クリスマスイブなのに…」

と、麻琴はそう言うと口を尖らかす。

 

「ただいまー!」

麻琴の愚痴を遮るように、しっとりとした美声が聞こえてきた。

声の主は夏妃で、さっきまで愚痴を言っていた麻琴が「おかえりなさ〜い!」と笑顔で返事をする。

「夏妃ちゃんまで、どうしたの?」

栗生姉はまたもビックリした声を上げた。

「栗生姉にいさん、麻琴ちゃん、メリークリスマス!」

夏妃の澄んだ声が店内に響き渡り、麻琴は「夏妃ねぇさん、メリクリ!」と笑顔で答えた。

栗生姉は、まるで状況が分かっていないような顔で2人の顔を見ていた。

 

「だから、栗生姉にいさんがクリスマスイブなのに一人で寂しいだろうと、夏妃ねぇさんと相談して、これからクリスマスパーティーをやるんだよ」

「いや、夏妃ちゃんは康平さんと…」

「ぜんぜん大丈夫!康平さん、クリスマスとか興味ないし」

夏妃はすかさず、そう答えた。

「だってさー、直美ちゃんは尾崎先生と、冬果ちゃんは奏ちゃんと、青田ちゃんは桐山くんと、栗生姉にいさんだけ一人だなんて悲しいよね、だから夏妃ねぇさんと…」

「あのねー麻琴ちゃん、僕だってクリスマスぐらい…」

「どうせ一人で、ラッピ行ってやきとり弁当食べながらビール飲むんでしょ?」

「うっ、何で分かるんだ」

夏妃はニコニコしながら、麻琴と栗生姉のやりとりを見ている。

「さぁさぁ、麻琴ちゃん早く準備しよう!」

「夏妃ねぇさん分かった!栗生姉にいさんは、これを飾ってね。クリスマス、クリスマス」

そう言うと麻琴は、栗生姉にクリスマスの飾り付けをするように、あれこれと指示をした。

そして、夏妃と麻琴は料理を始めた…

 

はこだてクリスマスファンタジーの花火の音が遠く聞こえる頃、クリオネ文筆堂でもクリスマスパーティーが始まろうとしていた。

「栗生姉にいさん、おまたせー!できたよー。美味しいものばかりだよ」

麻琴が歌うように声をはずませる。

麻琴ちゃん、グラス、グラス。私、お皿を出すから」

とっととテーブルに付こうとする麻琴を、夏妃がたしなめる。

「栗生姉にいさん、乾杯の前に一言お願いします」

夏妃がそう言うので、栗生姉はコホンと咳払いをした。

「ねぇねぇ、直美ちゃんは手作りの料理で尾崎先生をおもてなしをしているよね?冬果ちゃんと奏ちゃんはクリスマスファンタジーの花火を見ているのかな?青田ちゃんと桐山くんはラッピでもいるのかな?」

「もう、麻琴ちゃんったら…、せっかく栗生姉にいさんに挨拶をしてもらおうと思ったのに」

「夏妃ねぇさん、栗生姉にいさんの話なんていいのいいの、早く乾杯しようよ!」

「分かった、分かった、2人とも今日はありがとー!」

「乾杯~!メリークリスマス」

そう言うと、3人はグラスをカチンを合わせた…


「ただいまー!」

そこへ、元気な声が何重にも重なって響いた。

栗生姉と夏妃は驚いて顔を合わせ、麻琴は口に入れたばかりのスーパクリングワインを吹き出した。

野本直美と尾崎先生、冬果に奏太朗、青田に桐山が、入って来た。

「おかえりなさ〜い!」

栗生姉と夏妃は、ビックリしながらも元気に声をかけた。

一方の麻琴は、ゲホゲホとむせている。

「遅くなってごめんなさい。みんなでクリスマスファンタジーを見ていたの」

野本直美が、すまなそうに話をする。

「ちょうど良かったわ、これからクリスマスパーティーを始めるところだったのよ」

夏妃が笑顔で答えた。

「どーしよー!夏妃ねぇさん、食べ物足りないよ、飲み物も?」

麻琴がそう言うので、夏妃と栗生姉も慌てて顔を合わせた。

「大丈夫ですよ、ほら!」

野本直美が手に持った袋を上にあげる。

「それぞれ好きな物を持って来ました!」

冬果と青田が同時に声をあげた。

「栗生姉さん、これこれ!」

と、尾崎先生は地酒を自慢気に栗生姉に見せ、奏太朗は桐山を栗生姉と麻琴と夏妃に紹介した。

 

元町の教会の鐘の音があたりにこだまする中、クリオネ文筆堂ではワイワイと賑やかにクリスマスパーティーが行われていた。

それぞれが話で盛り上がる中、栗生姉はキッチンで一人準備をしている野本直美に近づく…

「直美ちゃん、今日はありがとう!まさか、こんな風にクリスマスイブを過ごせるとは思ってもみなかったよ。直美ちゃんが、この店を紹介してくれたおかげで、観光のお客さんが来てくれたり、こうして素敵なみんなと知り合えたからね。本当に感謝しているよ」

「栗生姉にいさん、今日は麻琴ねぇさんと夏妃ねぇさんにお礼を言わなきゃ。私たちは、クリスマスファンタジーを見学して、せっかくだから栗生姉にいさんのところに行こう!って来たの。まさか、麻琴ねぇさんと夏妃ねぇさんがいるなんて知らなくて…でも、やっぱりねぇさん達だな、こうしてクリスマスパーティーをやるなんて!私たちは自分のことしか考えていなくてごめんなさい。栗生姉にいさんには、いつもお世話になっているのに」

「何を言っているんだい!こうして、クリスマスイブに来てくれるだけでもありがたいのに、僕の方こそみんなにお世話になりっぱなしだよ」

 

「尾崎先生!栗生姉にいさんが直美ちゃんを口説いていますよ。早く止めないと…」

麻琴がちゃちゃを入れるので、大きな笑いが店内に起こる。

夏妃がここで、GLAYWinter,ageinを流した。

シーンと静まり返る店内に、いつの間にかキャンドルが灯り照明が消されていた。

誰もが口を閉ざし、キャンドルを見つめている。

光のきらめきが揺れる中、静かにGLAYの歌が終わった。

「メリークリスマス!」

冬果が元気に声を上げると、みんなでメリークリスマス!と叫んだ。

やがて、店内の照明が明るくなると、麻琴と夏妃が涙ぐみながら、お互いに顔を合わせていた。

青田と桐山はしっかりと手を握っていて、奏太朗と野本直美は大きな拍手をし、尾崎先生と栗生姉は硬い握手をしていた。

 

箱館クリオネ文筆堂は、大きな愛に囲まれ今年の営業を終えた…

やがて、クリスマスパーティーもお開きとなり、それぞれが帰路につく。

平和な日々を願い、夢見る心を持つ、そんな仲間たちが集う箱館クリオネ文筆堂。

「来年も、みんなが笑顔になれるように頑張らないとな…」

一人そうつぶやき、栗生姉は店の扉を閉めて鍵をかけた。

来年、またこの扉を開けるとき、みんなの笑顔が見れますよにと、願いを込めて。

 

END

 

今回の、箱館ストーリー「Christmas Magic!」~箱館クリオネ文筆堂物語~はいかがだったでしょうか?

クリスマスという事で、急に物語が降りてきて思いのままに書き出してみました。

いつもなら、何度も読み返し修正するのですが、今回はぴいなつちゃんの監修もなく、たった一人で物語を書いてみました。

この後の、ぴいなつちゃんの鬼校正が怖いのですが(^_^;)

 

この物語のように、ブログ「クリオネ文筆堂」では、ぴいなつちゃんと美蘭さんに、大変お世話になりっぱなしで、そういう意味も込めて2人に感謝の気持ちを込めて今回の物語を書きました。

ぴいなつちゃん、美蘭さん、ありがとうございました!


お二人との出会いのおかげで、「箱館ストーリー」は、ぴいなつちゃんの新しい物語と美蘭さんの素敵な朗読のおかげで人気も高く、クリオネ文筆堂は素晴らしい1年を過ごすことが出来ました。

クリオネ文筆堂に、新しい「箱館ストーリー」のページが加えられた事に感謝いたします。

今年も残り少ないですが、どうぞお体に気をつけてお過ごし下さい。