札幌ストーリー「これは、映画の1シーンだ!」

灰色の空が低く降りてきて、今にも雨が降り出しそうだ。
その空の下、高速道路を一台の車が走っている。
道路の両側には、充分に深まった秋の景色が冬のはじまりの部分と重なりつつあった。
今、高速道路には彼女が運転している車、一台だけが東に向かっている。 

助手席の彼は、車の中から見える外の光景をぼんやりと眺めていた。
「切ないね」 
彼は、運転する彼女の胸に手を伸ばしながら小さくつぶやいた。 
「何?ちょっとやめてよ」
 彼女が、答えた。 
「切ない」 
「何が?」 
「これが」 
と、彼は左手を左右に動かした。 

「切ないよ、これは」 
「どうして?」 
彼女は、助手席の彼をチラッと見て、スグに視線を戻した。 
「冬のはじめの灰色の空、走っている車は、僕らの1台だけだ」 
そういうと、こんどは右手を彼女の太ももに置いた。 
タイトなスカートの下、彼女の太ももの気配がうかがえた。
「お願いだから、やめて!」 
スカートの中に手を入れようとする彼に向かって、彼女は少し声を荒げた。 

「昔に観た映画で、こんなシーンがあった」 
「どうせ、つまんない映画でしょう?」 
「そうかもしれない、でもこんなにセクシーで魅力的ではなかったな」
 そういうと、彼は彼女の太ももをスカートの上から撫でた。 

やがて彼女は、道央道札幌料金所の看板を確認すると、車をETC専用レーンへと走らせた。
道央道札幌料金所に車が入るまで、彼女のスカートの上には彼の右手があった。
野幌PAに入り車を停止させ、エンジンを切ると同時に二人は外に出て大きく背伸びをした。
駐車場には冷たい風が吹き、ポツポツと雨のしずくが落ちているようだ。 

彼女は、彼に向かって車の鍵を出しながら言った。
「ねぇ、もう高速を降りましょうよ」 
彼は、運転席へとまわりながら答えた。 
「昔に観た映画では、こんな切なくて風の強い日は男と女はいつまでも裸で抱き合うのさ」
「それもいいかもね。でも、少しお腹が空いたわ」
「空知に行こう、ワインが飲みたい」 
「どこかのワイナリーで食事が出来るかしら?」
「ワインはホテルで抱き合ってからだ」 
「それって最高のマリアージュじゃない」 
そう言うと、彼女は笑った。

「END」


ぴいなつ先生に…
この物語の粗筋として、《札幌から高速に乗ってダラダラと車を走らせている!というストーリーなんだが、高速のPAで車をどこに向かわせるのか?そこで終わる感じかな…》
と、相談したところ「空知に向かうのは、どう?」と言われた。
そこで、ラストをワインを求めて空知に向かう!という、オチにした。
函館しか知らない僕は、札幌の高速道路も空知のことも、何も分からないまま粗が出ないようにと苦労した。
少し大人な物語である「札幌ストーリー」次回作も、お楽しみ下さい!