こちらは、「ぴいなつ作品」です!

ぴいなつちゃんの作品を紹介しています。


ぴいなつちゃんの新作「函館ストーリー」が完成しましたので、公開いたします。

今回は「アオハル」がテーマの物語。

函館の高校生の夏休みを描いた物語です。

キーワードはレモンスカッシュ?みたいですが…

果たして物語上ではどうのような展開となるのでしょうか?

それでは、お楽しみ下さい!


函館ストーリー「夏の鼓動、まほろばの夢」

「あー、夏休みかぁ。授業ないのは嬉しいけどさぁ、なーんかつまんなくない?」

「でもさ、学祭の準備もあるし部活もあるし、なんだかんだ忙しいっしょ!」

「先輩たち引退しちゃったから、部活イマイチ盛り上がんないんだよねー最近…」

 

そうボヤいているのは、ラグビー部のマネージャー達だった。

なるほど3年生が引退すると、部活ってそんな雰囲気になるのか

僕は帰宅部だから、たまに学祭の準備にでてくるくらいで、これといった予定もない、フツーの夏休みだ。

 

毎年の夏休みは、せいぜいオヤジの実家がある七飯町にお盆参りを兼ねて数日泊まりに行くくらい。

それも正直言うと、面倒だった。

親戚が集まればだいたい、成績やら将来何になりたいのか?大学は行くのか?彼女はできたか?と、お決まりの質問攻めにあう。

《いい知らせなんて、ひとつもありませんよ、どうせ僕は…ふぅ》

楽しみなのは従兄弟のタカちゃんたちと花火して遊ぶことくらいか。

 

金曜日の午後、学祭の準備があって5日ぶりに高校に向かう。

市電はいつものラッシュ時間とは違って空いていたが、親子連れが多かった。

柏木町の電停で降りると函館のシンボルとも言うべき五稜郭タワーを太陽が眩しく照りつけ、陽炎がゆらめいている。

 

少し遅れて教室に行ったら、今回の学祭でクラスを仕切っている青田さんが、作業について説明をしていた。

彼女はいつもクラスの中心にいて、みんなを笑わせているムードメーカーだ。

僕は教室の片隅で彼女の言葉に耳を立て、密かにニヤリとしていた。

これが、憧れってやつなんだろうか?

 

青田さんとは、ほとんど言葉を交わした記憶もない。

そんな僕にも、彼女は気さくに呼びかけてくる。

「あ、桐山くん字とか絵うまいからさぁ、看板作ってくれる?」

「エッ!僕が?わ、わかった」

いきなり話しかけられてビックリした僕は、慌てすぎておかしな対応をしてしまった。

《変に思われてないかな…》

頭の中は軽いパニックだ。

それにしても僕の字とか絵とか、なんで知ってるんだ?

選択科目で美術の授業は、たしかに一緒だけど…。

 

「よかった〜!じゃあこんな感じでお願いしまーす」

そう言って青田さんはうちのクラスが展示発表する北海道・北東北の縄文遺跡群のテーマや看板のサイズが書かれた紙を僕に渡した。

 

世界遺産に登録された、北海道・北東北の縄文遺跡群…

縄文文化は、自然と人間が共有し、1万年以上もの長きにわたって営まれた世界史上稀有な先史文化であり、北海道・北東北の縄文遺跡群は、縄文文化の価値を今に伝える貴重な文化遺産です。

 

僕は、青田さんが書いた研究テーマを読みながら、僕には縄文について教科書に出てくる程度の知識しかなく、函館や道内に多くの遺跡があることも知らず…。

今回、学祭での研究展示を通して初めて知ることがたくさんあった。

そんな僕の悶々とした気持ちなどお構いなしに、相変わらず彼女は大声で笑ったり歌ったり楽しげだ。

ウッカリ失敗しても素直に謝るし、憎めないキャラクターなんだよな、青田さんって。

どうしたら、あんな風になれるんだろう。

これも、生まれ持った才能なのだろうか?

それに比べて僕は、いつもウダウダと考えすぎてうまく行動できない。

事あるごとに脳内反省会を繰り広げ、次こそはうまくやろうと思うのに、空回りしてしまう。自分に自信が持てないのだ。

もういいかげん、そんな自分に嫌気がさしていた。

 

「ちょっと、トイレ…」

と小声でつぶやき教室を出た。

誰も聞いていないと思い、青田さんをチラッと見ると目が合った。

17歳の夏休み、生まれ変わりたい》

僕は、トイレではなく売店の自動販売機でレモンスカッシュを買って飲んだ。

不二家の黒地に白のドット柄がある、これぞレモンスカッシュ!という味が好きだ。

 

再び教室に戻ると、青田さんが今回のテーマである縄文について、みんなから意見を聞いていた。

いろんな意見が出され、青田さんがそれらをうまくまとめ上げていく。

「桐山くんは、どう?」

最後に青田さんが僕に聞いてくる…

《はじける炭酸の勢いを借りて弾みをつけたい》

僕は、レモンスカッシュの力を借りて、思ったことを口に出した。

「現代に生きる僕らが縄文時代に思いを馳せるなら、現代人らしくアレンジされた縄文人の姿を表現してはどうだろう?」

 

「それ、いいね!」

真っ先に、声を出したのが青田さんだった。

僕の案は採用され、現代風にアレンジされた縄文衣装のイラストを女子チームが描くことになり、展示物がまた一つ増えることになった。

 

教室内がJOMONで盛り上がる中、僕は青田さんに頼まれた任務を遂行しはじめた。

ちょっと大げさだけど、僕だから頼まれたということが誇らしかった。

ほかの誰でもない!これは僕の仕事なんだ。

 

やがて、今日の作業も終わりに差しかかり、青田さんが僕に話しかけてくれた。

「桐山くん、今日はゴメンね。いろいろ押しつけちゃって!ラッピで何かおごるから、行こう」

思ってもいない展開に正直、脇汗が半端ない。

戸惑いながらも、古い言葉で言うなら、青春を謳歌している。

そんな気持ちになった

僕らはゆっくりと、2人で五稜郭公園前にあるラッピまで歩いた。

 

店に入ると、青田さんは大好きだというキャラメルナッツシルクを頼み、僕はラッキーエッグバーガーとウーロン茶を頼んだ。

僕は…

「縄文についての知識が何もなかったけど、自分の中に新たな情報が取り入れられ、新鮮な気持ちになった!」と伝えた。

青田さんは…

「時代が大きく変化するコロナ禍のなか、何より函館という歴史ある街に生まれたこと、縄文遺跡が世界遺産に登録されたことをより誇らしく思う」と、笑顔で語ってくれた。

 

僕は、小さい頃は札幌で暮らしていて、途中から函館に来たので函館の歴史はよくわからないと、素直に青田さんに告げた。

青田さんは…

安政5(1859)に函館が開港して150余年。

人々が大切に守り継いできた、時間と歴史がある。

過ぎた日の出来事を記憶する、建物がある。

時を経た今も枯れることのない、ときめきがある。

と、まるで時計の針を逆に回して過去へ旅をしてきたように、函館の歴史を懐かしい思い出のように語ってくれた。

「今日はいつもよりゆっくり歩き、街のあちこちに刻まれた物語を感じてみたい」

僕は、青田さんに感謝の意味を込めて、お礼を言った。

「あわくわないで…」

青田さんは、僕にそう言うとジッと僕の目を見つめてくれた。

函館の古い方言だという。

 

「夢の扉を開け放そう、思いのままに進もうよ!わたし、桐山くんの勇気、信じてるよ!未来に向かって吹く縄文の風に乗って心熱く、この瞬間を輝けばいいじゃん。函館の空も海も山も、みんなエールをおくるよ」

青田さんは、縄文の風に乗って煌めく未来へ翔けているようだ。

この日この時に、僕は青田さんとの出会いの喜びをかみしめた。

 

だから僕は、少しだけ殻を破れそうな、そんな予感に包まれたのだ。

レモンスカッシュの甘酸っぱい香りが、身体中にこみあげてくる。

「JOMON」

ゆたかな大地のイメージを受け継ぎ、自然の恵みを実らせるように、心の安らぎをも与えてくれる。

夜の光を浴びると輝くペリドットのように、僕の夢も恋も叶えてくれるかもしれない。

 

僕らは、五稜郭公園前の電停まで、歴史に足跡を刻むようにゆっくりと歩いた。

潮風が、妙に心地よい。

「わき道、うら道、まわり道。見下ろす、見上げる、振り返る。そのたびに変わる函館の表情が好き!函館の魅力は歩いてみれば、よく分かるよ」

青田さんは、そう教えてくれた。

きっと、函館の新しい出会いと発見があるはず!

 

僕の17歳の夏は、まだ始まったばかりなんだ。

 

END

今回の物語、いかがだったでしょうか?

高校生の夏休みを描いたものですが、会話などリアルに表現されていると思います。

また、レモンスカッシュの演出が効果的であり、つい飲みたくなりますね。

今回の物語は、この文筆堂にある、夏をテーマにした「落書き」からインスピレーションを得たとのことですが、リアルな青春群像がよく描かれた、ぴいなつらしい作品となっています!

コロナ禍の中での、部活動や学園祭など、行うにはいろいろとハードルも高いと思いますが、しかし今この時だからこそ輝ける瞬間があると思うのです。

物語の主人公は高校生ですが、この作品を通して多くの人が、2021年の夏に新しい一歩を踏み出すキッカケになってくれればと、思います。