こちらは、「ぴいなつ作品」です!ぴいなつちゃんの作品を紹介しています。


ぴいなつちゃんの新作「函館ストーリー」が完成しましたので、公開いたします。

今回は「プチ家出」がテーマの物語です。

プチ家出、日常的にはあるかもしれませんね。

今回の物語は、同棲3年目の彼女の物語。

《本当に、この人と結婚していいのか?》と時折、考えてしまうこともある彼女…
このままゴールインするのか?長すぎた春になるのか?
でも、女性の皆さんなら共感する部分もあるのではないでしょうか。

あえて、函館の日常ということで、ぴいなつちゃんが作り上げた物語。
ちょっとしたプチ家出さえ、素敵になってしまう街、函館。

それでは、お楽しみ下さい!

函館ストーリー「夕暮れ散歩は、突然に!」

 

《何もかも嫌になった!》

わたしは、気づいたらエプロンを放り投げ、ショルダーバッグひとつでアパートを飛び出していた。

あてもなく、ひたすら歩く。

信号が赤になったところで、曲がることにする。

《とにかく、止まっていたくない・・・》そんな気分だった。

 

無心になって歩き続けると、元町にある教会の灯りが見えてきた。

それは、頑なになっていた心がホッと緩むような、優しい灯りだった。

ハリストス正教会の側にあったベンチに腰掛けると、思わずため息がこぼれた。

いや、ため息はやめて、ゆっくり深呼吸をしよう…。

そう思い直して、ふぅ〜っと息を吐き、心を落ち着かせてみる。

 

秋の夕暮れの透き通った空気が、ちょっと肌寒いけれど、今は心地よいと感じた。

ささくれだったこんな気持ちを、誰にもぶつけたくない・・・話す気力もない。

今は、一人になって、ゆっくり考えたい気分・・・。

わたしは、スマホの電源を切った。

教会の敷地内にいるというだけで、不思議と心のモヤモヤが薄れていく気がした。

もしかしたら、わたしの守護天使さんがここに導いてくれたのかもしれない。

 

夕飯の仕度をしようとしたとき、ちょっとしたことから、彼とケンカになった。

「晩ごはん、何が食べたい?」と、わたしが聞いたら・・・

「何でもいい」って、ぶっきらぼうにいつも言う。

そのくせ、結局は食事に文句を言うから腹が立つのよね。

夕飯を作らないまま勢いまかせに飛び出してきたから、そろそろお腹も空いてきた。

 

そのとき、ハリストス正教会の鐘が7回鳴った。

ガンガン寺の鐘の音が函館山のふもとに鳴り響いている。

もう7時なのね・・・そろそろ帰ろっかな。

わたしは函館港を見下ろす八幡坂へと向かう。

一瞬もとどまることなく移ろう街の彩りを坂の上から黙って見つめた。

 

《よし・・・》

石畳の道が真っ直ぐに海へと続く八幡坂を一歩一歩踏みしめながら歩き始めると、坂の途中に止まっていた車のナンバーが「777」だった。

《ふふっ…なにコレ、悪くないかも》

単純だけど、そんな小さな幸せが重なって、人はどうにか持ち直したりするのかもしれない。

 

頭を冷やせたせいか、何がそんなに嫌だったのかも、忘れてしまった。

ケンカなんて、そんなものだ。

ちょっとした価値観の違いが積もって、ある日、爆発する。

でも、長い人生からみたら、ほんのちっぽけな出来事だったりするんだ。

 

わたしには、この夕暮れ散歩が大冒険のように感じたけれど、部屋に戻ると何事もなかったかのように、彼がソファに横になりテレビを観て笑っている。

《まったく、怒っている自分が馬鹿馬鹿しくなるくらい、笑ってるじゃない・・・》

 

八幡坂の麓、ベイエリアのハセストで買った、二人分のやきとり弁当と缶ビール。

わたしは、それらを無言でテーブルに置いた。

それを合図に、彼はソファを離れ、わたしの隣に座った。

 

END


舞台となった函館を紹介します!

・「函館ハリストス正教会」

日本初のロシア正教会聖堂で白壁と緑屋根の対比が美しい函館を代表する歴史的建造物。
美しい音色を奏でる鐘があることも有名で、函館市民からは「ガンガン寺」の愛称で親しまれています。
夜は美しくライトアップされます。

・「八幡坂」
函館山からの夜景と並んで、函館の観光スポットとして紹介されることが多い函館を代表する坂。
かつてこの坂の上に函館八幡宮があったので、「八幡坂」という名前が付いたという。
多くのドラマや映画、CMの舞台となり「チャーミー坂」「ポッキー坂」とも呼ばれています。

・「ハセガワストアのやきとり弁当」
ハセガワストアは函館近郊エリアでのみ営業しているコンビニで、「ハセスト」の愛称で市民に親しまれている。
函館市民のソウルフード「やきとり弁当」は、やきとりといいながらも、弁当にのっているのは豚串で函館では、やきとりといえば豚串のことを指します。
GLAYがライブのスタッフ弁当として取り寄せたというエピソードもあります。